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月影映る  作者: 林伯林
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 魔獣に襲われはしたが、その後の道中は他に何もなく、浄化対象の魔沼は割合に規模が小さかった為、静音はあっさりと沼を消し去った。

 疲れていたし、普段のように「八割の力」でわざと怪我をする気力もなかった。

 ぞくぞくと湧き出す寸前だった魔影ごと浄化の霧バリアで包んでぎゅっと圧縮して潰しておしまい。


 「まるで虫を潰すようだな」


 ガイキが言って細剣を差し出した。

 静音は答えず黙って受け取った。

 「浄化前に返すつもりだったんだが、もしかしてお前さんには必要ないのか?」

 「必要な時もありますよ。お役に立って良かったです」

 ガイキは今まで後方の輸送用荷馬車にいた。

 流石に無傷とはいかなかったので、魔導士に治療と回復魔法を受けながら休んでいたのだ。

 浄化の際には出てくるつもりだったようだが、静音がそれを待たずに処理してしまった。

 「今日は疲れました」

 「そうだな」

 野営は少し山を下りた所、岩だらけでも平らで小さな泉がある場所で行う事になっている。

 「まあアリオの炎弾が飛んでこなかっただけ気が楽ではありましたが。彼、大丈夫そうです?」

 声を潜めて尋ねると、ガイキはうなずいた。

 「火傷はお嬢ちゃん達が集団で一生懸命治していたし問題ない」

 「そうですか」

 アリオもまた高位貴族の子息だと聞いている。嫡男ではないらしいが、魔導士団でも団長の覚えめでたく、この旅が無事終われば評価は更に上がるという話だ。所謂優良物件であるのだろう。

 「なあ」

 改まった口調でガイキは尋ねてきた。

 「なんです」

 「あの時の青い光……」

 咄嗟に静音はシールドを広げて結界を張り、唇の前で人差し指を立てた。

 ガイキは息を飲み、周囲をそっと見回した。

 「あなたははっきりと見えるのですか?」

 ガイキは尋ねられたことを正確に理解したようだった。

 「いや、はっきりとは。おぼろげに感じる程度だが」

 「私の結界の境目が見えないとか最初におっしゃいませんでしたっけ?」

 「自分の能力を余さず開示することが必ずしも得になるとは思えないからな」

 「私も同じことです。何がどこまで出来るか、あまり知られたくはありません。特にここでは」

 もう一度ガイキは周囲を見回し溜息をついた。

 「だな。一応、従者が離れている時を狙ったつもりだったんだが」

 それは静音も気が付いていた。

 普段はすぐ後ろに控えている従者が、浄化の直後だけはいつも姿を消すのだ。

 「気を使っていただいたようで。まあ、あれは『水』の力です。あの魔獣が火属性特化型で火に強いように思えたので水はどうかなと思っただけです」

 「なんにせよ助かったよ。ありがとうな」

 「どういたしまして。皆には魔をはらう力が魔獣にも利いたようだとでも言っておいてください」

 お互いの身体を緩く覆っていた魔力の障壁を消して、ガイキの傍を離れた。

 結界には認識障害なども混ぜている為、話の内容を聞かれることもそうそうないとは思ったが念のためだ。

 光魔法担当の娘達はともかく、アリオなどももしかしたらあの絶妙な炎弾の距離を考えるに、見えないまでも感じ取る程度は出来ている可能性があるし、何より学者の存在がある。


 今も離れたところからじっとこちらを見ていたし。


 そして従者にしたところで同様だ。


 何食わぬ顔で戻ってきた。



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