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セツカと時の鎖【改稿中】  作者: ちはやれいめい
一章 セツカと時の鎖
9/52

9 勇者さまになりたかった男の子と、神子さまになりたかった男の子 ✱

 ついてきてくれたことが嬉しい、と思ったのも一瞬で、すぐにこのままじゃ駄目だと思い直す。


 俺の旅はどれほどの日数を要するか不明だ。

 下手するとリーンは、進級に必要な出席日数が足りなくなる。

 それに男と二人旅したなんて話が広まると、今後の縁談に悪影響しかない。


「そうだ、誰かリーンが真面目に話を聞きそうな大人を呼んで、家に帰るよう説得し……いや、そんな時間ない」

 

 馬車が来るまであと二十分あるかどうか。探している間に発車時間になってしまう。


「何ぶつぶつ言ってるの? はむっ」


 悩みの種であるリーンは、どこで調達したのか、大きく口を開けスコーンを食べている。

 この姿を見て、誰が貴族の令嬢だとわかるだろうか。


 諦めて停留所のベンチに腰掛けていると、同じ馬車の利用客がちらほらとやってきた。


「アイリーンちゃんじゃないか。今日は学校がある日だよね。行かなくていいの?」


 リーンに声をかけたのは、アーノルドさんと同じ隊の騎士、ウルさんだった。


「あ、ウルさん。おはようございまーす。先生にお休みの申請を出したから問題なしよ。セツカが家族を探す旅に出るって言うから、ついていくことにしたの」

「うーん。さすがアーノルドとエレナさんの娘だなぁ。行動力がすごい」


 ウルさんは笑って肩をすくめた。


「ウルさん騎士制服じゃないってことは、私用で馬車に乗るんです?」 

「うん、そうだよ。冬に長期休みが取れなさそうだから、今のうちに兄さんに花を手向けようと思って」


 ウルさんの手には白薔薇の花束がある。

 九年戦争は二十年前の冬に終結した。

 海戦で散った騎士や魔法士も多かったから、港町ツヴォルフに直接行く人も少なくない。


「あれ。ウルさんって、お兄さんがいたの?」

「……亡くなってから兄弟だってわかったから、直接兄さんって呼べたことは一度もなかったけれど」


 ウルさんは視線を落として、腰にさげた剣の柄に触れる。

 三日月の文様が彫り込まれた古めかしい剣。お兄さんの形見なのかもしれない。


「セツカくん。家族を探すって、当てもなく探すのかい?」

「俺をアーノルドさんに託した人から、俺が大人になったらこの時計を託すように言われていたそうです。手がかりは時の森にあるって」


 銀時計を見せると、ウルさんの顔がこわばったような気がした。

 ウルさんは笑顔をつくり、話を変えた。

 

「そうなんだ。時の森って言えば時の神子さまの遺跡があるじゃない。僕、小さい頃は神子さまになりたかったから、憧れの地なんだ」

「父様も小さい頃、“俺は勇者さまに、ウルは神子さまになるんだ”って言ってたんでしょ」

「そうさ。神子さまは魔法士の頂点だもの。大きくなってから、魔法を使えるのは貴族だけって知ったときには落ち込んだなぁ」


 勇者さまと神子さまが力を合わせ、悪魔と戦う。子どもに人気のおとぎ話だ。

 

「馬車が来たね。二人とも、気をつけて行くんだよ」


 蹄の音が近づいてきたのに、ウルさんは停留所を離れた。


「港町に行くんじゃないんですか?」

「その予定だったけど、ちょっとアーノルドと話し合い(・・・・)をしないといけないから、次の馬車にするよ」


 口調はおどけた感じなのに、目が笑っていない。


「ねえセツカ。ウルさんどうしたんだろう」

「わからない。でもなんだか、穏やかな話し合いじゃなさそうだな」


 リーンと顔を見合わせ、首を傾げた。


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] どうやら、ウルも何かセツカの過去に関係しているのか… はたまた…。 子供の頃、御伽噺やアニメ(漫画)の主人公に憧れるのはどの世界でも同じなのかもしれませんね。 次回も楽しみです!
2022/12/26 18:55 退会済み
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