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セツカと時の鎖【改稿中】  作者: ちはやれいめい
一章 セツカと時の鎖
6/52

6 過去につながる手がかり

 買い物を終えて屋敷に戻ると、フェンさんはもう帰ったあとだった。

 頼まれていたものがすべて揃っているのを確認して、アーノルドさんのいる書斎に届ける。


 書斎には数年前に亡くなった先代当主、シャムロックの蔵書がそのままにされている。

 世界各地から集められた本は……失礼かと思うが悪趣味なものばかり。

 義父の遺品だから捨てずに置こう、と残しているアーノルドさんを尊敬する。


「失礼します、アーノルドさん。これ、頼まれていたものです」

「ありがとな、セツカ。助かるよ」

「アクセサリーは、鈴蘭のイヤリングにしてみました。リーンは花が好きだから」


 選ぶときに本人がずっと横にいて、「これ可愛い」と言っていたから、さすがに他のアクセサリーのように投げることはしないはずだ。


「面倒なこと頼んですまなかったな」

「俺は使用人ですから、気を使わなくてもいいです」

「セツカ。他の使用人達の目があるから使用人という形になっているだけで、俺にとってセツカは我が子同然だ。寂しいことを言わないでくれ」


 アーノルドさんが俺の頭を撫でる。拾われた頃は見上げるばかりだったけれど、今は目線が同じ高さ。

 時の流れを感じずにはいられない。


「……こんなにも早くこれを渡す日が来てしまうなんて思わなかったよ」


 アーノルドさんはどこか悲しそうな目をしながら、俺の手に銀色の懐中電灯を握らせた。


 手のひらにすっぽり収まるが、懐中時計にしては鎖が長い。ざっと見ても一メルテ(※1)以上はある。

 蓋には天球儀に似た文様が刻まれていて、なぜか蓋は開かない。

 色味からしてたぶん銀製。真鍮しんちゅうきんではない。

 かなり使い込まれていて、年季が入ったものだとひと目でわかる。


「これは」

「十五年前、セツカを俺に託した人から預かった。然るべき時が来たら渡すようにと言われていた」


 誰かが、俺をアーノルドさんに託した。

 この不思議な時計とともに。

 その人は俺の家族なんだろうか。

 なんの目的で、手放したんだろう。


「セツカはずっと自分の過去を知りたがっていただろう。その時計を持って、ときもりを目指せ」

「……そこに行けば、俺がなくした記憶の手がかりも見つかる?」


 アーノルドさんは是とも否とも言わない。


「アーノルドさん。ひとつ、聞いてもいいですか」

「なんだ?」

「俺を貴方に託した人は、今どこにいますか」


 その人に聞きたい。

 なぜ俺を手放したか。

 然るべき時とは何なのか。


 アーノルドさんは言い淀んで視線を落とし、それから意を決したように俺を見た。


「……もう、いない。お前と時計を俺に託したあと、光に溶けて消えてしまった」


 人間がそんなふうに失われるわけがない。

 光魔法にしても、そんな術があるなんて聞いたことがない。



「もしかしてその人は、禁術を使った?」




 この世界には二大禁忌とされるものがある。

 死者の蘇生と、時の改変。

 禁忌に触れた者は神罰しんばつを受けると、遙か昔から語り継がれている。




 例えばその人が俺の親だったとして、死んでしまった我が子を蘇生させようとして、神の怒りに触れて消えてしまった、とは考えられないか。

 俺の体を構成する色が普通の人と違うのも、禁術による影響?


 アーノルドさんは首を左右に振る。


「すまないセツカ。俺は魔法学を受けていないからわからない」

「そう、ですか」


 今は何もわからないけれど、時の森に行けばきっと、手がかりがあるはずだ。

 

※1 本作における長さの単位

1メルテ=1メートル

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― 新着の感想 ―
[良い点] フェンさんのキャラ良いですね。 飄々としているけど、いざという時は頼りになるタイプっぽい。 そしてセツカのルーツが明らかになりそうですね。 死者の蘇生と、時の改変。 確かにこの二つは触れて…
[良い点] キーアイテムが出てきましたね。 そして、「時の森」というキーワードも。 続きも楽しみにしてます(*´ω`)
2022/12/22 18:36 退会済み
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