表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セツカと時の鎖【改稿中】  作者: ちはやれいめい
一章 セツカと時の鎖
5/52

5 アーノルドの知人、フェン

「助けてくださってありがとうございます」


 俺とリーンは揃ってフェンさんに頭を下げる。

 この人は貴族の中でもそれなりに発言力がある人だろう。

 あれだけ上から目線だった令息たちが、フェンさんの顔を見た途端逃げ出すんだから。


 フェンさんは手を横に振って、大したことしてないと笑う。


「君、勇気があるね。未成年とはいえ、彼は炎魔法士。下手すると焼き殺されるよ。適当に謝って場を丸くおさめようって思わなかったのかい」

「リーンは何も悪くないのに、謝るのはおかしいでしょう」


 理不尽な言いがかりで絡まれていたのだから、こちらが謝る理由は何もない。


「危なっかしいねぇ。でも、嫌いじゃないよ、そういうの」


 口元に手を当てて笑うフェンさん。光魔法の残滓で手のひらがほのかに光っている。


「失礼かもしれませんが、あなたは魔法士なのに、名前が花じゃないんですか」


 魔法を使える人間は生まれながらに髪か瞳、あるいは両方に黒が発現する。貴族は魔法を持って生まれた子どもには花か樹木の名前をつける。


 俺の知る限り、フェンという名の花はない。


「フェンはあだ名だよ。そもそも、ボクは貴族の風習、嫌いなんだ。髪か瞳が黒なら花の名前をつけるってやつ。さっきの子たち、心根はとうとくないじゃない」

「そうですね」


 アーノルドさんの知人なだけあって、フェンさんは色で人を判断するタイプじゃないみたいだ。


「あなたの探しているマーズ家は、俺が働いているところです。この子はアーノルドさんの娘のアイリーン。屋敷までご案内します」

「助かるよ、セツカくん」




 フェンさんを屋敷まで案内してから、すぐに着替える。濡れた服を絞って、部屋の窓際に吊るす。

 アーノルドさんに頼まれていた買い物がまだ残っているから、済ませておかないと。


 傘をさして再び西地区に向かうと、ブーツが雨を弾く音が追ってきた。


「セツカ、待って!」


 リーンだ。傘を振り上げて水たまりを飛び越え、肩で息をしながら俺を見上げる。


「どうしたんだ」

「お礼、ちゃんと言えてなかったから。さっきは助けに来てくれてありがとう」

「俺は何もできていない。助けたのは俺じゃなくてフェンさんだろ」


 むしろ俺が余計なことをしたから、あいつらを逆上させた。危険に晒してしまって申し訳ない気持ちでいっぱいだ。


「ううん。私を守ろうとしてくれて、庇ってくれて、すごく、嬉しかったの。だから、ありがとう、セツカ」


 リーンは目を細めてふんわり笑う。


「お仕事、終わったんじゃないの? まだ用事がある?」

「アーノルドさんに買い物を頼まれてる。リーンに、感謝祭の贈り物をしたいから選んでくれって」

「じゃあ私も行く! いいでしょ? ね?」

「……君ってひとは、まったく。俺といたのがジーナさんにバレたら怒られるよ?」


 執事長たちにバレたら大目玉を食らうのは確実。

 けど、説得して追い返したところでついてくるのがリーンだ。


 二人でアクセサリー屋に入ったら、店員に「恋人への贈り物ですか?」なんて勘違いされてしまったから、やっぱり追い返したほうがよかったかもしれない。


 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ