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セツカと時の鎖【改稿中】  作者: ちはやれいめい
一章 セツカと時の鎖
25/52

25 過去の再生・願う罪

「お願いします神子さま、一言だけでいい。過去に言葉を届けたいんです。アスターと喧嘩して、そのまま会えなくなってしまったの」


 ーーこれは、過去の映像か。

 今は動かない神官たち、半透明の人々が動き話している。


 必死に懇願するエレナさんに、神官たちの目は冷たい。

 銀髪の女性ーー先代時の神子は両手を重ねてうつむき、エレナさんに告げる。


「わたしには時を止める力しかない。過去に言葉を伝える魔法はないの。せめてできることといえば、冥福を祈ることだけ」

「ほんの一言だけでも、できませんか」


 男性神官たちは神子を守るように立ち、剣に手を乗せる。


「用件がそれだけならお引き取りを」

「貴女は、自分の願いが何を意味するのかわかっておいでか。その願いは罪に当たる」


「亡くした人に一言謝りたい、そう願うことすら罪だと言うのですか。彼にひどいことを言って、傷つけて、アスターは戦死してしまった。悔やんでも悔みきれないの」


 男性神官の言葉に、エレナさんは涙をこぼす。

 女性神官たちは同情しているようで、エレナさんの肩に手を添える。


「あたしも戦争で伯父を亡くしたわ。気持ちはわかるけれど、どうにもならないこともあるの」

「ここに来れば、時の神子さまにならできるかもしれないって、思ったのに」


 エレナさんを見ていて、時の神子は迷った。


「ねえみんな。何か方法はないかしら。こんなに悲しんでいるんだもの。なんとかしてあげたいわ。わたしが知らないだけで、どうにかできるかも」

「そんな方法あるならみんなとっくにやっています。貴様、神子さまを惑わすな。いくら貴族といえど許せん……」


 男性神官の中で老齢の男が剣を抜いた。


「時の改変は重罪。ほんの一言でも過去を変えれば今が変わる。お前の言葉がどれほど罪深いか理解しているのか。そして、その願いが神子さまの命を脅かすものだと理解しているのか」

「……!」


 剣を向けられ、エレナさんは怯んだ。

 自分の願いが叶えば時の神子の命は失われる。そんなこと知るはずもない。



「みんな、剣をとれ。貴族の女、神子さまの害となるなら、ここで切り捨ててやる。今すぐに出ていけ!」


 男性神官たちはそれに従い剣を抜いた。


「お願いグレイ、やめて! 傷つけないで。みんなも、とめて、お願い、やめて!」


 時の神子が泣き叫び、魔法が暴走する。部屋に銀の光が迸る。




 神子以外の全員が止まった。

 呼吸一つしない。蝋人形のように。



「そんな、わたし、こんなつもりじゃ。どうしたらいいの」


 うずくまって両手で顔をおおい、泣く。


 どれほど経ったのか、誰かの走る足音が聞こえてきた。

 部屋に飛び込んできたのは、アーノルドさんだ。


「なんだ、これは……エレナ、エレナ! なんでみんな動かないんだ」


 困惑するアーノルドさんは、部屋の奥で座り込んたまま泣く神子をみつけた。

 膝をついて神子に呼びかける。


「そのお姿。時の神子さまですね。何があったんですか」


 神子はアーノルドさんを見て涙を流す。


「ごめんなさい、ごめんなさい……魔法が暴走して、みんな動かなくなってしまったの。今のわたしに近づいたら、あなたまで止まってしまう」

「心配いらない。俺に魔法は効かないから。エレナたちを救う方法があるなら教えてくれませんか」


 アーノルドさんは妻が止まったままになったことを責めたりせず、ただみんなを救うことだけを望む。

 救う道がないか聞かれ、神子は天を見上げる。


「わたしが、……わたしが死ねば次の神子が生じます。その子が時を進める力を持つ子であったなら。でも、時の神子は十五才にならないと魔法が覚醒しないの」


 時を進める魔法でなかったら、十五年は無駄に終わる。暗にそう告げる。


「初対面の貴方にこんなことを背負わせるのは悪いと思う。けど、他に方法がないの。次代の神子、時節司る者を貴方に託します。神子の魔法が目覚めたら、神子の証を渡してください」


 アーノルドさんは神子の手から時の鎖を受け取り、深く頷いた。


「はい」


 神子はグレイと呼んだ老齢の神官の手から剣を抜き取り、目をつむる。



「時節司る者。貴方は成長したら、時の鎖でこの光景を観るでしょう。貴方に全ての罪を負わせてごめんなさい。わたしの代わりに、みんなを救って」


 自らの胸を剣で突き、神子の体は散って光に消えた。



 散り散りになった銀の光はまた集まり、小さな男の子を形作る。


 アーノルドさんの前に、三才ほどの男の子がいた。

 銀色の髪に灰色の瞳の男の子が。


 男の子はまばたきし、アーノルドさんを見上げた。

 袖で涙を拭って、アーノルドさんは男の子に手を差し伸べる。




「おいで、セツカ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 想像以上に重い過去ですね。 アイセ達が怒るのも無理はないですね。 アーノルドさんがセツカの過去を隠していたのも 無理ないですね、これは重すぎる運命だ。 でもここからセツカがどう行動するか、…
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