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セツカと時の鎖【改稿中】  作者: ちはやれいめい
一章 セツカと時の鎖
21/52

21 アイセが背負ってきたもの ✱

 心臓の音がうるさい。

 冷たい汗が額を背中を伝う。

 逃げなきゃ。リーンを連れて。

 でも、アイセたちの標的は俺。


 俺といるほうが、リーンにとっては危険ということになる。

 でも、薬で眠らされたリーンをここに置いて行けるわけが……。




「混乱しているねぇ。そんなにその子が心配? 貴族の子だから……いや、好きな女だから? 泣かせるねぇ」


 アイセの表情に、初めて不快感というものが浮かんだ。

 アイセはリーンを指差し、座り込んでいた襲撃者の一人に命令する。


「あー、お前でいいや。この子を門の前に転がしてきて。追いかけて来られても迷惑だから」


 男は舌打ちし、リーンの後ろ襟に手をかける。意識がないから、抵抗することもできず荷物のように担ぎ上げられた。


「リーンに手を出すな!」

「おっと。お前にはこのまま遺跡まで行ってもらわねーと困るんだよ」


 ナイフを構えると、当て身から回復した男たちが立ちはだかる。


「このまま時の遺跡に来てくれるなら、アイリーン・マーズは無事に森の外に出してあげる。きみがもう一度こいつらを攻撃するなら……」


 アイセが親指で喉を切る仕草をして微笑む。

 リーンに危害を加えられるかもしれない、というのとは別の意味で悪寒が走る。



 アイセに会ってから募っていた違和感が、ついに臨界に達した。

 



「……俺はここに来てから一度もリーンをアイリーンと呼んでいない。リーンも名乗っていない」

「そうだねぇ」


 場違いにのんびりとした口調で応じる。


「リーンが貴族の娘だってことも一度も言っていない」

「そうだねぇ」


 作り物めいた笑顔を保ったまま、俺の言葉を待っている。


「お前と会ったとき、『フェンさんに似ている』と一瞬考えて……いやに絶妙なタイミングで「一緒にするな」と言ったよな」

「そうだねぇ」


 すべてつなぎ合わせると、行き着く答えはーー



「心を読む、魔法」

「ご明察」


 乾いた拍手の音が森に響く。

 でも、アイセに貴色はない。

 魔法書を隅々まで読んだが、自然の魔法に心を読む魔法なんて記載はなかった。


「そうだねぇ。自然の魔法には(・・・・・・・)ないね」


 ……アイセは、「先代愛の神子は悪魔のようだ」と喩えられたとき、激昂した。


 貴族のアルデバランに対して、自分のほうが上位だと言ってのけた。


 俺を同士(・・)と呼んだ。

 同じ生き物だと。


 貴色を持たない俺が時の神子なら




「そう。ボクは当代愛の神子。【万物ばんぶつあいせしもの】。きみが時節司じせつつかさどものでセツカだから、真似してみたんだ」


 アイセは歌を歌ったあとのように、左胸に手を当てて深くお辞儀をする。


「神域の管理は神子にしかできない。だからボクは、フェンネルに頼まれてツヴォルフにいた」


 アイセが港町の人間に恐れられている理由が、やっとわかった。


 悪魔と呼ばれた神子の、後継者だから。



「さ、時の遺跡に来てもらうよ。きみは、先代時の神子が犯した罪を償うため……そのためだけに生まれてきたんだから」



挿絵(By みてみん) 

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― 新着の感想 ―
[良い点] ああ、言われてみればそうでしたね。 アイリーンって呼んでないや。 セツカ、JOJOの三部のエンヤ婆戦のように 頭がキレますね、そして心を読む魔法か。 これはなかなか厳しい状況ですな。
[一言] アイセさんも神子!うわ〜、これからどうなるのか楽しみです。
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