2 幼馴染みで主従の二人 ✱
ひと通り薔薇の手入れが終わって、剪定した枝を竹ホウキで集める。
秋も終わり頃だけど、これだけ動くとうっすら汗をかいてくる。
「おっはよー! セツカーー!! お誕生日おめでとーーぅ!」
「うわっ!」
アイリーンが突進してきた。
いくら小柄でも、助走をつけて飛び込まれたら踏ん張れない。セツカはアイリーンもろとも集めた枝の中に倒れ込んだ。
父親譲りの天真爛漫さと落ち着きのなさは、アイリーンの美点であり欠点でもある。
見ていられなくて、栗色のくせ毛に絡まった枝を一つ一つ取ってやる。
「ごめ〜ん」
「……リーン、三秒でいい。行動する前に三秒考えろ。考えてから行動しろ。君は来年、最上級生だろ。落ち着きってものを身につけてくれ」
「だってだって、早くしないとセツカは逃げるんだもん」
うっかり敬語を忘れて話してしまい、急ぎ自分の口を手で塞ぐが、もう遅い。
悪魔の形相をしたメイド長ジーナが、足音荒く割って入ってきた。
「セツカ! お嬢様と軽々しく口をきくなと言ったでしょう! お嬢様は婚約を控えた身ですのに、変な噂が立ったらどうしてくれるんです! 責任を取れるんですか!?」
「すみません、ジーナさん。お嬢様も、申し訳ありませんでした。お嬢様がいらっしゃる前に片付けておくべきだったのに」
急いで身を引いてホウキを持ち直す。
「余計なこと言わないでジーナ! セツカは使用人である前に幼馴染みだからいいの!」
「アイリーンお嬢様。あなたは学校を卒業したら然るべき殿方を婿に迎えなければならないのです。年近い使用人と睦まじいなんて勘ぐられたら破断にもなりかねません。おわかりですよね?」
「いーだ! わかりませんよー、そんなわけわかんない理屈ー!」
主であっても、ジーナは一歩も引かない。
「政略結婚なんて嫌だって言ってるでしょ。貴族の血を残すためだけに好きでもない相手と結婚なんてくそくらえよ!」
「なんてことおっしゃるのですお嬢様!」
ジーナは肩を怒らせ、アイリーンの首根っこを掴んで歩き出した。
「うわぁあああん、見てないで助けてよ〜、セツカぁ〜〜」
手を振って見送っておくことにした。
この散らばった枝を放置したらそれはそれで執事長ロイからおしかりをうける。
「なんだろう、これ」
アイリーンがいたところに、メッセージカードと小さな包みが落ちていた。
拾い上げると、紫色の花が描かれたカードに【お誕生日おめでとう、家に来てくれてありがとう】と癖のある文字でつづられている。
リボンのついた包みにはセツカへ、と同じ文字で書かれている。
「これを渡したかったのか」
嬉しいと思い、即座に打ち消す。ただの使用人が主の娘に惹かれるなんて、あってはならない。
好きだなんて、気のせい。気の迷い。
セツカは自分の頬を叩いて、頭を左右に振る。
「アーノルドさんから頼まれた買い出しをしないと」
急いで庭園を掃除して、次の仕事に取り掛かった。
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