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セツカと時の鎖【改稿中】  作者: ちはやれいめい
一章 セツカと時の鎖
11/52

11 ひとりじゃない旅路はあたたかで ✱


 借りた部屋に入って、それぞれ荷物を下ろす。

 


「……行く先は森だから、冬眠前の獣が出ることもあるはずだ。危険だと判断したら素直に屋敷に帰ると約束してくれ。リーンに何かあったら、アーノルドさんが悲しむ」


 リーンは真剣な瞳で俺を見つめかえす。


「うん。私、迷惑かけないようにする。それにね、私も時の森に行きたい。時の神さまに仕える神子さまが住んでいるんでしょ。母様のことを知りたいの」

「お母さんのこと?」



 リーンの母エレナさんは、十五年前亡くなったと聞いている。

 俺は拾われて間もない頃の記憶は曖昧だ。あの頃のことは、リーンのほうがよく覚えているだろう。


「母様はいなくなっちゃった日、『神さまに会いに行ってくる』って言っていたの。海の見える街で。母様がいなくなるのと入れ替わるように、父様がセツカを拾ってきたの。母様のお葬式をしたけど、棺はからっぽで」

「それって」


 時の森は、港町ツヴォルフのそばにある。


 エレナさんが亡くなった日と、俺が拾われた日が同じ。


 遺体のないエレナさん。

 俺をアーノルドさんに託した人もまた、遺体も残さず消えた。




「セツカもあの日の母様みたいに急にいなくなってしまったら、嫌だよ」


 泣き出すリーンにハンカチを渡す。

 どう声をかけるべきかわからなくて、黙ってリーンが泣き止むのを待つ。


「いなくならない。全部終わったら、ちゃんと帰るから。アーノルドさんも、帰ってきていいって言っていた。エレナさんのことを知りたいのはわかったけれど、だからって、こんな無茶はしちゃだめだ」

「……うん。やくそくだよ。一緒に帰ろうね」 


 指切りして、やっと笑顔を見せてくれた。

 森で何があったのか知りたいけれど、ツヴォルフに向かう馬車が来るのは明日の朝だ。




 リーンが来たからにはお祭を見たいと言うから、散策に出た。


「よう、旅の兄ちゃん。農園村ツヴァイのぶどう酒と、この村特産のハーブで作ったグリューワインだよ。一杯四〇ジェムだ」

「じゃあ、一杯もらおうか」


 屋台のおじさんに勧められ、グリューワインを一杯買う。

 鍋で温めた赤ワインにハチミツとレモンスライス、スターアニス、シナモンを入れた飲み物だ。


 湯気とともに甘い香りが鼻腔をくすぐる。

 ノーゼンハイムの成人は十八歳。俺は飲めるがリーンは飲めない。


「私も飲みたいよー。飲めない私の前でお酒を飲むなんて」

「別にいいだろう。好物なんだ」

「むー。私も早く十八歳になりたい」


 リーンはランタン飾りの方を見て俺のマントをひっぱった。


挿絵(By みてみん)



「ねえねぇセツカ。あのかぼちゃ面白いよ。雪だるまみたいになってる」

「ははは。手足もつけてあるのか。凝ってるなぁ」


 腕に見立てた木の枝の先に手袋をかぶせてあって、今にも動き出しそうな躍動感がある。


 村の子どもたちが歌いながらかぼちゃのまわりを踊り、まわっている。


 リーンは子どもたちの輪に加わって歌いだした。


 吐く息が真っ白になるくらいに寒いけれど、なんだかあたたかい。

 俺はあんなふうに子どもたちと打ち解けるほど陽気ではないし、こうしてリーンに誘われなければ部屋にこもるタイプだ。

 ひとり旅だったら、こんな気持ちにはならなかっただろう。


 祭の夜はゆっくりと更けていった。

*グリューワイン

日本ではホットワインと呼ばれる。

ワインとスライスしたオレンジやレモンを煮る。オレンジジュースを入れたりもする。

ハチミツや砂糖、シナモン、スターアニスはお好みで。



今回の挿絵イラストは管澤捻さん画です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] リーン、天真爛漫というより天然? セツカも彼女との旅は少し神経使いそうですね。 でもそういう所、含めて可愛いですね。 それと手足のついたカボチャ、なんか牧歌的で良いです♪
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