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セツカと時の鎖【改稿中】  作者: ちはやれいめい
一章 セツカと時の鎖
10/52

10 誰が為に

 御者のおじいさんが手綱を引き、乗り合い馬車が動き出す。

 

 時間を有効活用するため、本を読むことにした。

 旅に出るにあたって購入した、魔法大全原典だ。

 ノーゼンハイム文字の翻訳版も出版されているが、訳者によって言い回しや意味が微妙に違う。

 だから東国文字で書かれている原書を選んだ。


 一ページ目に押し花のしおりを挟んで目次の項目を開く。


「あ、それ私が贈った栞」


 誕生日の朝、リーンがくれた栞だ。白薔薇のつぼみが薄紫の台紙に映えている。


「きちんとお礼を言えてなかったな。ありがとうリーン」

「えへ。セツカは本をよく読むから。気に入ってもらえたなら作った甲斐があるわ」


 リーンは照れくさそうに頭をかく。


「いつも思うけど、東国文字なんてよく読めるね。でも、なんで魔法書?」

「俺をアーノルドさんに託した人は魔法士のようだから」

「つまり、セツカの家族は貴族なの?」

「それはわからない。全くの他人かもしれないし」


 光魔法の章を開いて、文章を指でなぞる。

 章の最後まで読みすすめても、人が消える現象については書かれていなかった。


 暇なのか、さっきからリーンが隣から本をのぞきこんでいるから、視界のはしにくせっけが入る。


「リーン。退屈なら、君も本を読むといい。本を読むのはためになる」

「えぇー。文字ばかりだと眠くなるわ」

「親子揃って同じこと言うんだな……」


 アーノルドさんにも、そっくりそのままのことを言われた。

 本当によく似た親子だ。


「知りたいことは載ってた?」

「いいや。もっと違う視点から探したほうが良さそうだ」


 本を閉じて革ベルトをはめ、トランクにくくっておく。


 他の乗客は寝ていたり、外の景色を見ながら談笑しているから、俺とリーンが話していてもたいして気にしていないように見える。


「途中のゼクス村で降りる。今日はそこで一泊して、明日ツヴォルフ港行きの馬車に乗る」

「まる二日馬車の中なんて、お尻が痛くなっちゃうね」


 今も馬の歩調に合わせて小刻みに揺れていて、目の前に座っているおばあさんが腰をさすっている。

 熟練者はクッションを持ち込んで揺れを緩和させている。いびきをかいて寝ているおじさんがまさにそれ。



 ゼクスに着いたら、収穫祭をやっていた。

 陽気な音楽が流れていて、小さな子どもたちが歌い踊る。

 村のあちこちにかぼちゃやカブのランタンが飾られていて、村の中心部では大鍋でシチューを作っている。

 


「わぁ! おいしそ〜!」

「待て待て待て、リーン。宿を取るのが先だ」


 シチューを配る列に並ぼうと駆け出すリーンを急いで止める。


「祭ってことは宿が空いてないかもしれない」

「野宿を経験するのも悪くないと思うわ」


 リーンは本当にお嬢様なのだろうか。

 宿の部屋が空いてなくても気にしないなんて大物だ。


 案内看板を頼りに宿を探し、三軒目でようやく空き部屋をひとつだけ見つけた。


「俺は野宿でいいから、リーンが宿に泊まるといい」

「それはだめ。二人で泊まればいいじゃない」


 リーンの「野宿も良い」は、二人とも野宿なら。という意味だったらしい。


「俺と同室になるのはリーンのためにならないと思う」

「ねぇ、ジーナたちもそれを言うけど“お嬢様のため”ってなに? マーズ家(・・・・)のためでしょ? 私の気持ちを無視されてて嫌」


 本人の気持ちを蔑ろにされ、リーンは怒る。


 そうだ。リーンのためって言いながら、気にしているのはまわりの反応。言い返す言葉が見つからなかった。

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