梅 雨 ノ 帰 リ 道
わたしたちの下校路は至って実在的な陰鬱でした。
先週から降り続く雨は、物理法則に従って厭世を叫びます。晴れ空を忘れてしまえと言わんばかりに、雨は街を等しく空襲します。雨粒はしゃんしゃんと地に跳ねて踊っていました。
「雨が好きなの」と彼女が言います。
彼女はついさっきまで寡黙を貫いていたものですから、唐突な言葉は少しだけ空を泳ぎました。
わたしは「嘘つき」なんて言葉を口にしません。
「だって雨が降れば、眠る傘が目を覚まして、水溜りが息を吐いて、雨音が嬉しくなって、そしてあなたが哀しくなるでしょう」
彼女は数歩前を往きます。おそらく、わたしのことなど心底どうでも良いのです。本日のラッキーカラーとか、ずっと空っぽの花瓶とか、或いはしかばねの瞳の色みたいに、彼女にとってわたしは、興味の埒外の存在でしかないのでしょう。
「傘くらい差せばいいのに」
そう言って彼女に傘を差し出します。彼女は少し不服そうな顔をして、そしてわたしの傘に収まりました。濡れた前髪のしずくさえも、わたしを拒んでいるようで綺麗でした。
そうしてわたしたちは、微々たる憂鬱を雨雲の隙間の栞にして、あまねく空を覚えるのです。
この長く蟠っている雨雲も去ってしまえば、やってくるのは謙虚を知らない傲慢な季節です。空洞のアパートも、開かずの踏切も、仔猫を咥えた野良猫も、いつかは入道雲に轢死します。
わたしはもうしばらくこのままでいたくて、そっと息を吐きました。
雨はわたしたちを穿ちます。