不思議探偵:見つからない。。。好きなあの人
小山圭一:本編の主人公。高校1年生。霊と接触、会話ができる能力を使い手塚詩織が個人の道楽でやって
いる探偵?業でバイトしている。
手塚詩織:父の個人クリニックに勤める女医で圭一の雇い主。怖がりだが大のホラー好き。
柳田隼人:今回の依頼者。高校2年生。サッカー部のエース。女生徒から大人気で男子生徒にも人気がある
暑い季節が終わり少し肌寒い温度に包まれたこの時期。圭一の住んでいるところからとなり町にある私立高校で下校のチャイムがなり沢山の生徒が帰宅しようとしていた。
圭一はその校門前で人を待っていた。
ついでに校内をリサーチしてきなさいという
手塚詩織の計らいでこの私立高校の制服を着ていたが、気まずいし沢山の生徒達の突き刺さる『あれ?あんなやついたっけ?』的な視線も気になりそわそわしていた。圭一自身、身長も高いので余計に目立つんじゃないかと気まずさがさらに強まっていた。
そわそわしていると校門の奥の人垣から女生徒達の黄色い歓声が聞こえてきた。
向こうから走ってくる男子生徒がいた。今回の依頼人である柳田隼人だった。
「いや~。ゴメン。ゴメン。待たせちゃった?」
と言いながら圭一の前に来ると相当急いでいたのか息が切れ切れで自身の両膝に両手をおき前屈みになっていた。
「いえいえ。さっき来たところなので気を使わないでください。」
圭一がそう言うと柳田は顔を上げた。
なるほど…。めちゃくちゃ整った顔立ちである。こりゃあ、あの黄色い歓声も納得である。
「おぉ。君大きいねぇ!?なんセンチあるの?」
「一応、184センチあります。」
「いいなぁ。俺もあと4センチあったら180センチなんだけどうらやましいなぁ。」
ものすごく晴れやかに満面の笑みで言われ圭一は好感を持った。
詩織から聞いたとおり女生徒だけでなく男子生徒にも人気があると聞いていたので納得した。
まるで陽キャの上位の象徴のような男だ。
「背が高いから目立つねぇ。」
「ですね。」
「まあでもうちの学校めちゃめちゃ広いから大丈夫。中に入っちゃえばなんとかなるよ。せっかくウチの学校の制服着てるからなぁ。とりあえず校門のところの事務の人や警備員の人に見つかると面倒だから、ちょっとこっちからついて来てくれる?こっそり入れるところがあるんだ。」
柳田はそう言うなり圭一を先導し、帰宅する大勢の学生達をかき分け二人は学校の中に入っていった。
各教室で清掃時間が終わりかかっていた。圭一は柳田のあとに続きここは滅多に人が入って来ないと先に教室に入っていった。あとに続く圭一。
真ん中くらいの机に柳田は黒板を背に圭一はその向かいに座った。
「手塚さんから依頼の内容聞いてる?」
「はい」
「良かった。……でもさ変な依頼だと思わなかった?」
「まあ。変っちゃ変ですけど、過去にもっと変な依頼がありましたから…。」
「そうなんだ。」
「そうですよ。あっ!?そういえば急ぎなんですよね?」
「あ~。それなんだけどね。もうすぐ大会も近いのにちょっとどうしても、その事で最近練習に身が入らなくて。自分の気持ちを早く切り替えたいって感じなんだ。」
「なるほど。」
「できれば今週中に片付けたいんだ。」
「わかりました。」
「無理言ってこの学校まで呼んでおいて本当に悪いと思うんだけど、ちょっと俺、部活の主将でさぁ、副キャプのやつに上手いこと言って先に練習始めてもらってるんだ。なんで、あとちょっとよろしくお願いします。」
「わかりました。」
「会えたらすぐ連絡してね。」
と言ったきり柳田はせわしそうに走って部活に向かった。
柳田が言っていた手塚という人物は圭一の雇い主で本名は手塚詩織という女性である。彼女の父がやってる個人のクリニックに勤めている。ある出来事がきっかけで圭一の能力を知り、警察や普通に解決できない事件を取り扱い影で小銭を稼いでいる。圭一もおこぼれ的にバイト代を頂いている。主に依頼は詩織の友人知人やクリニックのお客などで知り合いの紹介でしか受けていない。
今回の依頼人は先ほどそこにいたサッカー部キャプテンの柳田隼人 高校2年生だ。
依頼内容は最近この学校に転校してきた女生徒に伝えたい事があるようで探して欲しいとの内容のことであった。
柳田が言っていた変な依頼とはこの事だった。いくら学校広しといえど、いやいや休憩中なりいつでも会いにいけるでしょうが?ということだ。
どうもその女生徒は歩いてるだけで眼を惹かれるくらいの相当な美人らしく柳田はひと目見て頭から離れられなくなりサッカー部の練習にも身が入らなくなったようだ。
……のでこのままだと良くないと思った柳田はフラレてもいいから今の気持ちを伝えてスッキリさせたいといういかにも陽キャ全快の依頼をしてきた。
圭一は手塚詩織から送られてきた女生徒の画像を確認した。
女生徒の名前は山本小夜子。
髪色は黒のストレート、パッチリとした二重、目鼻立ちがクッキリとした本当に綺麗な女性だ。
柳田には言っていなかったが詩織が詳しく調べた話によると、
この学校に転校してきた経緯は恋愛関係のイザコザによる女子グループによる執拗なイジメのようだった。
女子グループのリーダー格である女子生徒が当時付き合っていた男子生徒に一方的に別れられ、その男子生徒が山本小夜子に告白したのがきっかけであった。
圭一は教室を出ると山本小夜子のクラスへと向かった。
目的の教室に近づくと中から女生徒達のおしゃべりする声が聞こえてきた。
そぉっと教室を覗いてみたら女生徒の三人組が窓際の一番後部の席で井戸端会議をしていた。
笑い声の中、圭一はおそるおそる入っていった。
「あの〜。すみません。」
「あら?なに?」
と真ん中に座っていた女子が言った。
「あの〜。ココ山本小夜子さんのいるクラスですよね?席ってどのあたりなんですか?」
「あ〜!!また来たよ。」
と3人がいっせいに同じセリフを言った。
「また来た?」
「あなたあれでしょ?他の男子と一緒で山本さんの連絡先を聞きにきた人でしょ!?もう休憩中に何人もきたわよ。」
「そうよ。あとね連絡先知りたかったら私達に聞かないでくれる?本人に直接聞けばいいのよ直接!!ホント情けないんだから…。」
「あんたも他の男たちに言っといてくれる。毎回毎回休憩の度に大人数で覗きにきて!鬱陶しい!」
三人の言葉責めに圭一は一瞬たじろいだ。
「あ、あなた達は連絡先知らないんですか?」
「知らないわよ〜!!」
と三人がいっせいに言った。
「山本さんってクラスでどんな感じなんですか?」
「どんな感じって言われても私達も話したことないからね〜。まぁでも違う世界の人って感じかなぁ」
「違う世界の人?」
もう一人が話しだした。
「突然2ヶ月くらい前にこのクラスに転校してきて男子だけ大興奮よ。まぁあんなに綺麗な子だからね。それに凄いお上品で大人しくてなんていうか全く嫌味がないの…。
だから他の女の子も彼女の事を悪くいわないしね。」
もう一人が話しだした。
「あと極めつけがこの前にあった中間テストでほぼ全教科満点で学年一位になっちゃったの。あとスポーツも万能だし。あんなに完璧な生き物目にしちゃったらやってらんないわ〜。はぁ〜。意味分かんない。親を恨むわ。」
「男子も覗きにはくるけど話しかけないのがほとんどね〜。なんていうか高貴すぎて話しかけづらいみたい」
「そうよね〜。日本の男って好きな女性が自分よりハイスペックだったらなんかたじろいじゃうみたいなのよ。ホント情けない。」
「へぇ〜。誰か山本さんと仲のいい人っていないんですか?」
「あ〜。あの子ずうっと一人よ。いや……一人っていうかそりゃあ女子が何人か話したし、話しかけようとするんだけど……」
「するんだけど……?」
「なんていうか全然感じも悪くないし、いい人なんだけどなんていうのかなぁ?私だけかもしんないし、上手く言えないんだけど…この子良いじゃんって思って声をかけようかなと思った時に…そこにいないのよね。。。」
「そこにいない?」
「そうそう。そうなのよ。なんだ私だけかと思ってた。」
もう一人が同意した。
「そういえばこないだ男子達もおんなじ事言ってたなぁ。もしかしたら山本さん、なんかバリアー的な超能力者かもね?」
「普段何気ないときは話せるけど、山本さん自身に意識を持ってしまうとそこにいないって感じですか?」
「そうそう。そんな感じ。」
「あんなに綺麗で超能力まで持ってたらもう無敵ね。」
三人は冗談交じりで笑いあった。
「ありがとうございました。」
と言って圭一は教室から出ていった。
出ていく時に中から
「あんな子いたっけ?」
「まぁこの学校広いからね。」
「にしてもあんな大きい子、目立ちそうなんだけど…。」
という声を耳にした。
校門から出ると圭一は手塚詩織に電話した。
「詩織さん?」
「どーだった?」
「山本さんと同じクラスの人とさっき話せたんですけど、その人も柳田さんと同じような事言ってました。」
「あら〜。面白くなってきたじゃない。超能力ってやつよ。超能力!」
「え〜。そうですかね〜?」
「だって事実、あんたみたいなのもいるじゃない。」
「まぁそれを言われると…。」
「でしょ。」
「あぁ、そういえば今週中で学校がある期間だと金曜日にあってもらうとしてあと3日しかないんですよ。それに僕学校があるのでちょうど終わる頃に探せないんですよ。どうしましょう?自宅に訪問するっていうのも内容が内容なんでちょっと気まずいですし…。」
「あなたが来るまで、私が校門前で見張っておくわ。」
「へ!?あの〜お仕事は?」
「大丈夫。じゃあ明日校門前で待ち合わせね。すぐに来るのよ。あ!あともしものために制服に着替えてくるのよ。」
といったきり電話が切れてしまった。
「………帰ろう。」
次の日、圭一は校門から少し離れたところで双眼鏡を覗いている学生服姿の詩織と出会った。圭一は詩織の学生服姿をあえて触れずにいた。
「どんな感じですか?」
「いや、もうかれこれ30分くらい経ってるのに全然出てこないのよ。」
「欠席?」
「それは柳田君に確認済みよ。」
「そうなんですか。」
「あと柳田君自身もあの性格だから休憩のたびに山本さんのクラスに様子を見に行ったみたい。」
「メッッッチャ、愛してますね。。」
「愛の力は偉大なのよ。」
また10分ほどたって、校門から出てくる生徒の数も少なくなってきた。
「う〜ん、柳田君はクラブ活動中だから連絡取れないし…、こうなったら…。」
「こうなったら……。?」
「圭一君、ガッコの中に入ろうか?」
「まぁ…。それしかないですよね…。」
圭一は柳田に教えてもらったルートで学校の中に入っていった。
圭一は話が通じそうな何人かの幽霊に山本小夜子の画像を見せて居場所を聞き出した。
どうやらまだ家に帰っていないようで図書室にいるみたいだった。
圭一はすぐに図書室に向かった。
扉を開けると何人かの生徒がいた。
広い高校なので図書室も広かった。
歩き回り座席を片っ端から見ていったがいなかった。
圭一はたまたま近くの座席にいた本を読んでいるメガネをかけた小さなオカッパの髪型の女性にたずねてみた。
「すみません。さっきまで1-○の山本小夜子さんココにいませんでしたか?」
「あら。ちょうどあなたと入れ替わりよ。さっきまでその前の席で本を読んでいたわよ。」
「え!?どこに行ったかわかりませんか?」
するとその女生徒が満面の笑みで
「おやおや〜♪青春ですな〜。まぁ山本さんは全学年が注目する美女だからね。ライバルは多いけど頑張るのよ!!応援するわ!どこに行ったかは悪いけどわからないわ。」
「はぁ…。」
ため息と同時に詩織から電話が入った。
「ハイ」
「今、実物見たけど本当に綺麗な子ね。」
「え!?見たんですか?どこにいるんですか?」
「ちょうど校門から出てきたところ。」
「追いかけてくださいよ。」
「多分、無駄だと思う。」
「え?」
「もういないわ。ちょっと怖かったんだけど…。しばらくずーーーっとコッチをみてたの。ずーーーっとよ。」
それを聞くと圭一は詩織のところに戻っていった。
他校の制服を着た詩織と圭一はそのまま近くのカフェのテーブルで向き合い、話し合っていた。
「ヤッパリ、あの子超能力者よ。超能力者!!」
「なんですかねぇ。。そういえばこっちをみてたって言ってましたけど、具体的に言うとどんな感じだったんですか?」
「う〜〜ん。別に怒ってる感じでもなく校門の前にたって、普通に5秒間くらいジーーっとこっちを見てたわね。ただそれだけかなぁ。。。」
「なんでこっちの場所がわかるんですかね?僕が学校にいる地縛霊や浮遊霊に道を聞いて図書室にいった時もちょうどのタイミングでいなかったんですよ。中にいる生徒に話を聞いたらちょうど入れ替わりでいなくなったっていうし。。。」
「ん?他の生徒は見たってことよね?」
「はい。」
「……。」
「あれ?なんか発見しました?」
「あなた他にもあそこの生徒と話したりした?」
圭一は教室でダベっていた三人の女生徒の話をそのまま聞かせた。
「…。解っちゃったかも。。」
「え!?」
「柳田君の話を聞いてても思ったんだけど、彼女に意識をむけているかどうかなのよ。彼女は多分だけど自分に意識をむけている人がわかるレーダーみたいな第六感機能があるんじゃないかな?」
「なるほど。ということは意識を向けずに探せばいいってことですね。」
「そういうこと。」
「でもどうやって?」
「ウン!!わかんない!!」
「ですよねぇ。。」
「ねぇ。そういえば圭一君、幽霊に聞いたって言ってたけど、そんなに簡単にわかるもんなの?」
「まぁ、幽霊はとごにでもいますからねぇ。」
「またその方法を使えばいいんじゃないの?」
「いや〜僕の意識がまた悟られて逃げられちゃうと思いますよ。」
「いや今度は私も加わって挟み撃ちにしちゃうのはどう?意識があろうがなかろうが挟み撃ちにしちゃえば関係ないと思うんだけど。」
「なるほど。」
「スマホは常に通話状態にしておいてそれで連絡を取り合いましょう。」
「わかりました。」
「明日も今日と同じ感じで行きましょう。じゃあまた明日ね。」
次の日
詩織は昨日と同じ場所で制服を着て双眼鏡を覗いていた。
「まだ校門から出てきてないわ」
「出てきてないとしても他のところから抜け出せますよ。」
「まぁ、確認するしかないからとりあえず柳田君に教えてもらったルートで学校の中に入りましょう。」
「はい」
二人は校内に入った。
「まず幽霊さんに居場所を聞かないとね…。」
「ちょっと待っててくださいね。聞く幽霊をちゃんと選ばないと家までついてこられたりして厄介なんですよ。」
「幽霊ってそんなにいるのね〜。迂闊に悪い事できないわコリャ。」
しばらく圭一はスマホで山本小夜子の画像を空中であっちを向いたり、こっちを向いたりして何やらブツブツ話していた。
「あれ?どうやら自分のクラスの教室にいるみたいですよ。」
「よし!!行くわよ!!」
「なんか変じゃないですか?なんか逆に待っているような…?」
「でも行くしかないでしょ?」
「確かに。とりあえず作戦通りいきましょう。あの教室はこっち側の階段なんで僕がこっち側から、詩織さんはあっちの階段から行ってもらって、教室の前後の扉から挟み撃ちにしていきましょう。」
「わかったわ。あとスマホは通話状態にしておいて」
「ハイ。あとさっき居場所を聞いた幽霊が乗り気になったみたいなので先に教室に行ってもらいました。山本さんが動き出したらすぐこっちに戻ってくるように言ったのですぐ詩織さんに連絡します。」
「行くわよ。」
「ハイ。」
一年生の教室は2階、二人はそれぞれ階段を登って行ったが1階と2階の階段の踊場で早くも圭一のところに見張りをさせていた幽霊がきた。どうも2階の教室前の廊下に向こう側の校舎に渡れる廊下があるようでそっちの校舎に行ったようだった。
スマホを片手に詩織に連絡する圭一。
「詩織さん。すみません。そういえば向こう側の校舎に続く廊下があったの忘れてました。とりあえずその前で待っててもらえますか?」
「わかったわ。」
再び合流。
「とりあえず追いかけてみて学校の校舎だから両サイドに階段があるはずよ。また同じ方法でいきましょう。」
「わかりました。」
圭一は幽霊にもう一度捜索させた。
「今度はこっち側の階段の屋上の扉の前にいるみたいです。」
「えっ?屋上ってどこの学校もトビラにカギがかかってるんじゃないの?もう諦めたのかな?逃げ道無いじゃない。」
「かもしれませんね。とりあえず向かってみましょう。」
二人は階段を一気に登り抜けた。
目的地である屋上の階段前に近づいた。
圭一の後ろで詩織がヒィヒィ言いながらようやく追いついてきた。
「あ〜。メチャメチャしんどい!!やっとついた。」
と詩織が呟いた瞬間、ちょうど屋上の扉が半分隠れている壁の向こう側から声がした。
「あの〜昨日から何度も逃げているのになんで私の場所がわかるんでしょう?」
とても綺麗な声が聞こえた。
思いのほか、のほほ~んとした声だった。
圭一と詩織はお互いに顔を見合わせた。
「あれ?もしかして山本小夜子さん?変に尾行したりして本当にごめんなさい。気を悪くしないでね。ちょっとしたお願いがあるの。こんな状態じゃあなんだからちょっと姿を見せてくれないかしら。」
すると屋上に続く扉の前の半分くらいの高さの壁からとても綺麗な顔だけを覗かせた山本小夜子が出できた。
なるほど…。実物を目にするとさらに綺麗に見えた。
「小山圭一といいます。ストーカーみたいな真似をして本当にすみませんでした。」
「私は手塚詩織っていうの。私からも謝るわ。本当にごめんなさい。」
山本小夜子は少し警戒心を緩めた。
よく考えれば以前いた学校で嫌な目にあってるのに急に得体のしれない人間に尾行されるのだから怖いはずである。
山本小夜子はゆっくりと出てきた。意外と身長が高かったのでビックリした。
詩織が
「あら〜。あなたも身長高いのね。私と同じくらいあるじゃないの?何センチあるの?」
「う〜んと、多分168?だったと思います。」
「やった。私の勝ち。私170.4cmよ。ピース。ピース。」
塚田詩織が左手を腰にあて右手で山本小夜子にピースをむけた。
圭一はこのやりとりを何気なく見ていたが、山本小夜子が小さくやんわりと笑いだした。
「女子なのに日本で身長高いとコンプレックスになるのに逆に身長高くて勝ったと言われると思わなかったです。」
「世の男どもはわかってないの!女の高身長は美しさの証よ!!」
と意味不明なポーズをとった。
「横の男の人はもっと大きいですね。」
「そうよ。」
「ところでお話ってなんですか?」
「ここじゃあなんだからとりあえずどこかでご飯でも食べましょ。一緒にどう?御馳走するわよ?」
「え!いいんですか!私メッッッチャ食べますよ。」
「そうなの?私もけっこう食べちゃうしなぁ。圭一くんもけっこう食べるでしょ?焼肉食べ放題でもいこうか?」
「わ〜。やった〜。ありがとうございます。」
「詩織さんありがとうございます。」
「じゃあイコイコ♪」
場所は変わって焼肉屋。
詩織は服を着替えてきた。
ビールを飲みたいからであった。
網の上でジュ〜ジュ〜焼ける音が聞こえる。
山本小夜子は一人、向かいに圭一と詩織がア然とした顔で箸を止め、山本小夜子の食いっぷりに驚いていた。
先程、石焼きビビンバを食べる前後に白ごはん大盛りを肉と一緒にペロッと平らげ、今度は口に肉をたっぷり詰め込んだまま注文用のタッチパネルを抱え、クッパを頼みだした。
横で詩織が
「食い飲み放題にしといて本当に良かったわ〜。」
と言いつつすでに詩織も白ごはん大盛り二杯目+ビール5杯目であった。
入店したときに男性店員が山本小夜子をしばらくの間におもいっきりガン見していた様子を見て圭一は思わず笑いそうになった。お肉を運びにきた男性店員もしばらく肉を持ったまま、時が止まったように山本小夜子を見つめたまましばらく動かなかった。
詩織が小突いてきて
「見てよ。あの顔。イッちゃってる。イッちゃってる。」
と笑っていた。
それほど山本小夜子は綺麗な女性なのである。
「手塚さんも女子高生と思ってましたからビックリしちゃいました。まさかもう大人の女性でお医者さんだなんて」
山本小夜子の発言に手塚詩織が大喜びし、圭一の方に向かって
「ちょっと今の聞いた?私この子のこと大好きになっちゃった。」
圭一は苦笑いしながら、山本小夜子にずっと気になっていた事を聞いた。
「山本さん。とても気になったんですけど会ったこともないし、GPSを使ったわけでもないのにどうやって俺たちの居場所がわかったんですか?」
そう切り出すと山本小夜子も少し真剣な顔で
「そのことなんですけど、私も逆に聞きたいです。どうして私の位置が正確にわかったのかを。」
「失礼しました。勝手に追い回しておいてすみません。では僕から言います。ただ信じるか信じないかは山本さん次第です。」
圭一は過去の生い立ちから現在まで事細かに山本小夜子に伝えた。
「なるほど。凄い能力ですね。信じますよ。他に証明する方法もありませんからね。」
「では山本さんもおねがいします。」
「はい。私自身もよくわかっていないのですが私に意識をむけている人のエネルギー?が伝わって来るというか意識を向けられているなというのがわかるんです。」
「けっこう正確で範囲も広そうですね?」
「そうですね。多分半径100mくらいはあるんじゃないでしようか?」
「いつからそんな事がわかるようになったの?」
「前の学校にいた頃ですね。実は今もけっこう大変なんですよ。大分コントロールできるようになりましたけど、油断すると頭の中がパンクしそうになります。私本当は通常通りだと高校2年生なんですけどこの学校に転校してくるまで休み続けてました。」
「ヤッパリあの件ね?」
「ハイ。」
「小学校の時は特に何もなかったんですけど中学、高校くらいから男の子たちが凄い私に告白してくるようになってきたんですよね。私あんまり誰かを好きになったりとか全く無くてそういう感情が全然わからなかったんです。もう本当に困っちゃって。申し訳ないんですけど全部お断りしてたら今度は周りの女の子たちから嫌なこと言われたり無視されたりしました。」
「大変ね。」
「夏休み前だったかなぁ。。お断りした男の子と付き合っていたとかいうクラスのリーダー?っぽい女の子が私を憎むようになっちゃって執拗な嫌がらせをしてくるようになってきました。私も平気ではなかったですけど、まだなんとか通常通り学校生活を送るように心がけていました。」
「なにか決定打になるようなことがあったのね?」
詩織が聞くと山本小夜子は少し暗い顔になった。
「ハイ。一人だけ私のことを助けてくれたり仲良くしてくれていた子が本当は裏でそのリーダーっぽい子に私の事を逐一報告していたんです。もうそのことが本当にショックでそれから家に一週間ほど引きこもりました。」
「最悪ね。」
「でもこのままじゃ駄目だと思い、両親には止められましたが学校にまた行き始めたんです。それからでした。はじめはあっちの曲がり角から私の事を考えてる人が来るなと思ったら本当に現れて、どんな話をしてたかわかりませんが目が合ってから気まずそうに目をサッとそらしたり。」
「大きなストレスを感じたからかなぁ…。そこから更に悪化したの?」
「ハイ。日が経つにつれて範囲がだんだん大きくなっていったんです。もう頭がパンクしそうでした。ピークはそこらじゅうから声が聞こえて誰がどこにいるっていうのが鮮明にわかるようになったんです。それからまた家に引きこもっちゃいました。」
「今はもう大分抑えられたの?」
「ハイ。何回か訓練して声は聞こえませんが顔見知りなら半径大体100mくらいなら誰がどこにいるっていうのがわかりますよ。手塚さん達なら多分もう私が認識しちゃったのですぐわかっちゃいます。ただ意識して誰かを探そうとすると多分エネルギーを消費しちゃうんでしょうね。とってもお腹が減っちゃうんです。だからダイエットの心配は全くないです。」
「へぇ〜便利というかなんというか。立ち直れるようになって本当に良かったわねぇ。」
3人ともたらふく食べ最後にデザートを頼んだ。
「そういえば私にお願いってなんですか?」
「そういえばそうだった。圭一くん言ってあげて。」
「ハイ。ところで山本さんはサッカー部の主将の柳田君はご存知ですか?」
「すみません。わかりません。」
「そうですか。その彼があなたに好意を寄せていて断られてもいいから告白させてほしいそうです。近々、大きな大会があるらしくどうしても気持ちをスッキリさせたいみたいなのです。本人も自分本位の身勝手なお願いということはわかっていて断られてもいいのでどうしても直接気持ちを伝えたいみたいです。」
「会ったこともない人なので100%お断りすると思うんですがその…。言いにくいんですけど前の学校での出来事があるので学校外で生徒がいないところでならいいです。そして絶対に告白したことを口外しないようにしてほしいです。あと手塚さんと小山くんの二人もしくはどちらか一人が必ず横にいる事。その事を柳田さんに伝えてもらって了承してもらえれば引き受けます。」
「わかりました。今すぐ確認します。」
圭一はスマホを取り出しすぐに柳田にメッセージを送った。
「ゴメンね。山本さん。無理矢理付き合わせちゃって」
「いえいえ。いいですよ。こうやって焼肉も奢ってもらってますし。でも不思議なのがどうして手塚さんと小山君がこんな事してるんですか?」
詩織は圭一と個人の道楽的な探偵業のような事をしている事を伝えた。
「基本、依頼は断らないし顔見知りのツテで広がっていった感じかなぁ。山本さんもなにか悩み事や頼み事があれば言ってきてね。もちろんお金は貰っちゃうけど。初対面だけど山本さんならいつでもウエルカムよ。」
「へぇ〜。なんか楽しそうですね。」
「たまに本当に危ない時もあるけどね。」
「ところで柳田さんから返信あったんですけど明日の部活終わりの19:00に○○公園ではどうか?っていう内容なんですけどそれでいいですか?僕も行きますんで。」
「わかりました。それでお願いします。」
「伝えておきます。」
「そろそろ帰ろうか。山本さんまた明日ね。」
「また明日って、詩織さんまたくるんですか?」
「当たり前じゃない。なに言ってんの?未成年が告白するところを眼の前で見れるのよ。こんなチャンス滅多にないわ。」
「二人共来てくれるんですね。ありがとうございます。」
「いえいえ。こちらこそお邪魔しちゃう感じになるけど、明日はよろしくね。さようなら。」
「ハイ。さようなら。」
3人は帰宅した。
翌日指定の時間に○○公園に4人は集合した。
詩織と圭一は向き合っている二人から5メートルほど離れたところで見守っていた。
柳田さんから話しかけた
「山本さん。手塚さんからある程度のお話は聞きました。まさかそんな事情があったとは夢にも思いませんでした。まず何も知らなかったとはいえ、ここに呼び出したことを謝ります。ごめんなさい。」
「いえ。私も何も言わなかったし会おうともしなかったので私も謝らせてください。ごめんなさい。」
すると柳田君は少し笑みを浮かべながら
「そんな声してたんですね?想像してたより綺麗な声です。」
「え!?あ、ありがとうございます。」
「時間ももう遅いんでいきます…。山本小夜子さん!!あなたに一目惚れしちゃいました!!僕と付き合ってください!!」
公園内に響くとても大きな声で言ったと同時に柳田さんは両手を前にだし頭のてっぺんを地面に向けたまま動かなかった。
圭一の横では詩織がうっとりとした顔をしていた。
柳田さんのあまりにもストレートで潔い告白に山本さんは少し清々しい顔をしていた。
「ごめんなさい!!」
今度は山本さんが柳田さんと同じような声量で頭を下げ、返事を返した。
1.2秒、間があったと同時に二人は顔をあげた。
二人はとても晴れやかな笑顔だった。
「山本さん今日はありがとうございました。そして小山君、手塚さんも僕の変な依頼解決してくれてありがとうございました。おかげでスッキリしました。」
圭一と詩織は
「いえいえ、どういたしまして。」
とやんやりと返した。
「山本さん。柳田くん凄い、いい男の子でしょ?」
「はい。」
「フッたこと後で後悔するわよ〜。」
「思いっきり後悔します。」
と山本小夜子は笑いながら言った。
「柳田くん!今度のサッカーの試合、絶対勝ちなさいよ。」
「ハイ!!ありがとうございました!!」
「山本さんもなにかトラブルがあったらすぐ連絡するのよ。」
「ハイ。」
「じゃあみんなさようなら〜。」
そして4人はそれぞれ家に帰っていった。
後日、柳田君の調子は絶好調になり大活躍で試合も無事勝ったそうだ。
山本小夜子は後に手塚詩織にある依頼をお願いするようになる。詩織と圭一と出会ったことにより大変な目にあっていた。