軍縮()の季節
※このお話はフィクションです。
二〇二四年新国家建設委員会は、当然新国家の軍備についても検討を行っており、以下のような原則を採用した。
・新国家の国軍に準ずる組織は自衛隊(Defence Force)とする。
・徴兵によって兵役に就いている者は段階的に動員解除する。
・義勇兵については帰化を希望する者はそのまま認める。
・核兵器は全廃する。
・戦略爆撃機は全廃する。
・旧ロシア製戦闘車両(野戦重砲を含む)は全廃する。
・旧ロシア製回転翼機は全廃する。
・旧ロシア製誘導弾は全廃する。
・旧ロシア製爆弾は全廃する。
・旧ロシア製砲弾は全廃する。
・旧ロシア製艦艇は全て廃艦する。
・歩兵用小銃はAK-47系列に統一する。
・旧ロシア製戦闘機は「西側」規格に改修可能であれば改修して再利用し、不可能であれば廃棄とする。
・F-35の導入は停止する。
・イージス艦の新規建造は停止する。代替システムを国産ベースで開発する。
・ミサイル防衛システムを国産で新規開発する。
・もがみ型護衛艦の調達数を三倍にし、太平洋、バルト海、白海にそれぞれ配備する。
・潜水艦の調達数を二倍にし、バルト海、白海に配備する。
・四万五千トン級航空護衛艦を八隻建造する。
旧「東側」兵器殆ど全廃と言っているのに等しかったが、飽くまでも「廃棄」であって、技術をキャッチアップして新規開発しないとは言っていないのがミソである。これにより旧ロシアが配備していた大量の戦車や歩兵戦闘車、自走砲、ミサイル、戦闘機、爆撃機、戦闘ヘリ、戦闘艦が姿を消すことになり、段階的な復員を進めることで数の上では(一応)軍縮したことになった。
特殊な職能集団である海軍は、退役希望でなければ俸給を海上自衛隊基準に合わせ、退役した旧ロシア艦に変わって大増産することになった、もがみ型護衛艦九番艦(その艦名が「すずや」だったのは最早何か悪意があったとしか思えないが)以降や潜水艦への乗組などの配置転換で何とか維持されることになった。
また、アメリカとの関係冷却化に伴いF-35戦闘機の導入が停止し、代替案として残存する旧ロシア製戦闘機は特に旧式のものを除いて再利用されることになり、ウクライナと日本の国籍標章を付けたSu-37やSu-57などが誕生し、一部の軍事趣味者を喜ばせた。
戦車に代表される戦闘車両の類は、銃砲弾の互換性の問題から、旧東側規格のものを淘汰し、日本製のもので統一することになった。なお、廃棄処分は意外と大雑把なやり方で行われており、砲塔を取り払って銃眼を潰して無限軌道式トラクターとして払い下げられ、現代まで生き残ったソ連時代に製造された元戦車が多数、現存している。
輸送機や輸送車両は旧ロシア製のものも多数生き残ったが、耐用年数を過ぎたと見做されたものから姿を消していった。特に輸送車両は旧式・大型・非効率(これは日本製輸送車両がコンパクトで頑丈過ぎるとも言えるが)が目立ったため淘汰は早かった。
核兵器は全てIAEA立ち会いの元、速やかに実戦状態を解かれ、一旦厳重な警備が敷かれたウラル核所理施設に運び込まれた。こちらは核燃料にリサイクル予定である。
イージス艦もミサイル防衛システム共々調達は打ち切りとなり、FCS-3改をベースとした国産システムへの移行が決定された。
逆に採用となったのがAK-47系列の歩兵小銃で、これに関しては誰も文句をつけられなかった。AK-47を廃止しようものなら、世界中の武器市場に出処不明のAK-47が出回ることは間違いなかったからである。それぐらいなら可能な限りの数を、きちんとした組織の管理下に置いた方がマシというものだった。
またウクライナ、日本、ロシアの三言語圏の防衛組織を統合するため、使用言語は英語に統一された。これは一部の不評を買ったが、現在の世界言語である英語を扱えることは、国際連合を中心とした国際協調主義を表面上だけでなく実践する上でも有用だったので、強行された。
そうしてウクライナ、日本、ロシアを合計したよりも少ない定数で、東アジアから東欧までの広大な土地を守備することになったので、表面上は軍縮したことになったのだが、各国は日本国が終戦前に可決した玲和四年度ウクライナ特別会計が「国内総生産比十五パーセント」で、十年間はそれぐらいの財政出動をする見込みで諸々の計画を立て、終戦後はそのまま国家総力戦で新国家建設に驀進していることを忘れていた。
結果。
第七次ハルキウの戦いで損耗した一〇式戦車三十五輌の補填は、全額が認められるどころか、
「もっとだ……もっと熱くなれよォ!」
と言わんばかりに倍プッシュされ、戦車定数六〇〇輌を基準として、広大な国土に分散配置することになった。
どこを仮想敵に設定して建てられた計画かは分からないが、FCS-3改をベースとした新艦隊防空システムとミサイル防衛システムの開発は満額が認められ、更に排水量四万五千トン級航空護衛艦四隻の調達が認められた。
第七次ハルキウの戦いで消耗し尽くした航空自衛隊のF-15やF-2、F-4EJ改は、Su-57をベースとして航空自衛隊規格に改めて再開発して置き換えることで、これも満額が認められた。
ちなみに余談ながら、第七次ハルキウの戦いで被撃墜機を多数出した日本国航空自衛隊は、「実戦で最も多数のF-15被撃墜を出した軍」というワールドレコードを打ち立てている。
話を元に戻すと、そうして二〇二四年新国家建設委員会が策定した防衛計画は、予算規模の上ではむしろ軍拡に転じていたのだから、関係者諸氏は色々な意味で青くなった。ダメだこいつら……早くなんとかしないと……!
なお、計画を策定した張本人であろう、チェレンコフスキー大統領と孫養総理は、
「定数は減っているんだから軍縮だろう、一体何を言っているんだい?」
とすっとぼけ、チカコ殿下から「ちょっとやり過ぎです!」とお叱りを受けても平然としていたという。