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【書籍発売中】腹ペコ要塞は異世界で大戦艦が作りたい - World of Sandbox -  作者: てんてんこ
第3章 森の国

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第98話 コミュニケーション

「大丈夫かしら…」


 衝撃的な出来事が発生したため、5姉妹を心配する司令官イブだったが。


「問題ありません。今回の対応にあたっては、相手を予想しての戦術組み立ては行っていませんので。ある程度の対応策を事前に検討はしていますが、それが外れても即応できるようバッファーを多くしています。基本の戦術は、相手の行動に即応する、です。予想外だからと言って動揺するような教育はしていませんので」


「そ、そうなのね。それは頼もしいわね…」


 実際、あのサソリが投げられた際、数機の多脚戦車が飛んでいくサソリに照準を合わせていた。

 正確には、全ての多脚戦車が照準先を割り振られており、探知できる限り照準を合わせ続けるようにしている。何かあれば、即時発砲できる状態なのだ。


「サソリは…今。着地したようですね」


 空を舞っていたサソリは、当然空中を移動する能力など持っておらず、重力に引かれて地面に叩きつけられる。

 だが、例の防御膜の効果で特にダメージを受けた様子もなくさっと体を起こし、そのままゆらゆらと体を揺らしながらその場に待機する。


 恐らく、テフェンの到着を待っているのだろう。


 <リンゴ>は観察する。5姉妹、および現地戦略AIでは対応だけで精一杯であり、余計な処理にリソースを回す余裕はない。

 それは最初から分かっていたことで、そういった分析関連は元々<リンゴ>が対応すると決めていた。

 将来的には、第2要塞や石油港オイル・ポートにも十分な演算能力を持ったAIを準備する必要があるだろうが、現時点では全てを<リンゴ>が管理している。


 テフェンとその群れ、そして展開する<ザ・ツリー>の戦闘機械群。

 その距離は、あと2kmというところまで近付いている。地図上で見れば、目と鼻の先。

 しかし、実際に相対すれば、2kmという距離はそれなりに離れている。

 例えば、人形機械コミュニケーターが2km先の多脚戦車の詳細を観察できるか、と考えると、視神経性能の問題でそれは難しい。


 だが、テフェンは巨大だ。それは体が、ということでもあるが、その頭部に付いている眼そのものが大きいということだ。

 そしてテフェンより遥かに小さいとは言え、体長7mのサソリの眼も相応の大きさである。それは単純に、視力が良いという結果をもたらす。


 まあ、そもそも映像を処理する神経系をちゃんと持っているのかという問題はあるものの、楽観的にそんなものはないと断言するのは愚かだろう。

 であれば、ちゃんと視えているという前提で分析したほうがいい。


 テフェンは、その巨体からするとゆっくりとした動きで、ずっと歩いている。8本の脚を器用に動かし、一定の速度で歩き続ける。

 その頭部は小揺るぎもせず、常に一定の高度で、地面の凹凸を無視して水平に保たれていた。


(こちらを視認している可能性は高い)


 それが、<リンゴ>が出した結論だ。


 そもそも、<ザ・ツリー>に運び込まれたサソリの解剖から、神経網が著しく発達しているという結果は得ていた。

 その発達が、巨体を支えるために必要なのか、それとも知性を持っているためのものなのかはまだ分かっていない。

 しかし、通常の、即ち<ザ・ツリー>のライブラリ内に収められているサソリの生体情報と比較しても、単に巨大化したとは考え難いのだ。


 つまり、テフェンは、<リンゴ>が彼らを観察しているのと同様に、<ザ・ツリー>を観察している可能性が高い。


 先程、サソリが放り投げられたとき。


 投げられたサソリに照準を合わせていた多脚戦車は、その割り振られた役割の通りに砲口を上げ、狙い続けるという動作を行っている。

 上空のサソリは早々に態勢を整え、頭部を上に向けた状態で飛んでいた。滞空時間の大半で、地上を物理的に視認できない状態だったということだ。


 にもかかわらず、現在地上に居るその個体は、頭部を多脚戦車の方へ向けている。自分に照準を合わせている多脚戦車を、視認し続けている。


(何らかの方法で、テフェンと情報を共有している)


 そういった視点で、改めてテフェンの群れ全体を観察してみる。時系列をさかのぼり、全個体の移動経路を解析する。


(頻繁に進路を変更し、蛇行する個体が存在する。多脚戦車側へ揺さぶりをかけているようにも見える。あるいは、多脚戦車がどういった行動を取っているかを観察している)


 少なくとも、単に決めた目標へ向けて漫然と移動しているわけではない。かといって、すべての個体が何らかの行動を起こしている訳でもなく、ただ一直線に移動しているものも居る。


 <リンゴ>は観察を続け、テフェンは歩き続ける。多脚戦車はじっと照準を合わせ続け、偵察機はゆっくりと旋回する。


 そして、距離が1kmまで近付いてきたとき。テフェンとその群れが、ゆっくりと動きを止めた。


「止まった!」


 司令官イブが驚きの声を上げる。これまで戦ってきた魔物は、好戦的なものばかりだったためだ。

 <レイン・クロイン>は先制攻撃したものの、即座に攻撃点へ迫ってきた。

 ワームは問答無用で襲ってきたし、その後戦った魔物ハイエナも、こちらを攻撃してきている。

 最初の3体のサソリも真っ直ぐ突っ込んできていたため、テフェンが止まったというのは驚きだったのだろう。


「大きな動きは見られません」


 両勢力は完全に睨み合いの格好となった。たまにテフェン配下のサソリの一部が体を揺することがあるようだが、全体としては一歩も前に進まない。


 そして、この睨み合いは数十分間継続した。


 あるいは、それこそ人間イブが指揮をとっていたならば、焦れて何らかの手を打ったかもしれない。

 しかし、この場を任されたのは現地戦略AIで、さらに方針決定は5体の人型機械アンドロイドが実施する。

 ただただ待つ、ということに苦痛を感じることはなかった。


 先に痺れを切らしたのは、テフェン側勢力であった。


 ただ1体、空中遊泳の結果としてはるか前方に着地していた個体。それが、ゆっくりと前進を開始する。

 そしてそれは、<ザ・ツリー>側が設定した防衛ラインを踏み越えるという行為だった。


「威嚇射撃を行います」


 いくつか用意した作戦の中で、穏当な部類に入るオプションだ。

 多脚戦車が、上部砲塔のレールガンを発砲した。

 800km/hで飛翔した砲弾が、サソリの目の前に着弾する。

 フルメタル・ジャケット弾は着弾点を吹き飛ばし、サソリの全身に砂をぶち撒けた。


「……」


 サソリは流石に驚いたのか、ピタリと動きを止め、そしてぶるりと全身を震わせて砂を落とすと、振り上げていた尻尾を下ろし、鋏を左右水平に広げ、また歩き出した。


 本来、この時点で攻撃を開始する予定であった。しかし、ここで<リンゴ>が介入を掛け、攻撃を中止させる。

 このテフェン率いる群れ全体に知性がある可能性が高くなったため、コミュニケーションは無理でも、せめて撤退させることを目標に切り替えたのだ。

 前提を変更したため、5姉妹には<リンゴ>から指示を出し直す。直接介入は最低限に抑え、なるべく5姉妹に指揮させるためのサポートだ。


 作戦目標を更新され、現地戦略AIはすぐに行動を開始した。


 先程、威嚇射撃を行った多脚戦車を前進させる。積極的な攻撃意志はない、というパフォーマンスだ。

 上部砲塔、下部砲塔を共に明後日の方向へ向け、作業腕もサソリと同様、左右に広げる。これで、戦意がないことは伝わるだろう。


 そもそも、全く別の意図がある可能性もあるのだが、そこは考えても仕方がない。


 両者はそのまま前進を続け、そして、最終的に5mほどの間隔を開け、動きを止める。そのまま、しばし対峙を続け。


 唐突に、多脚戦車が後ろに飛び退った。


「現地AIが自閉モードに移行。緊急事態です」


「ちょ、何!?」


 マップ上の味方マーカーが、全て灰色オフラインに塗り替わる。

 中継映像が途切れ、そして後方待機させていた偵察機の望遠映像に切り替わった。

 映像の中では、テフェン周辺で盛大に砂煙が発生している。


「多脚戦車群がレールガンを発砲しています。

 全て威嚇射撃。

 全機撤退行動中。

 上空偵察機、爆撃機も撤退を開始しました。

 石油港オイルポート戦略AIから支援要請。

 第2要塞より燃料気化爆弾搭載の大型ミサイルが発射されました。

 状況は不明。受信データを解析中です」


「損害が出ているわけではないのね!?」


「最終受信データ、および映像解析から、損害の事実は確認されません。

 行動パターンより、第2防衛線への撤退行動と推測されます。

 撤退完了までの予想時間は12分。5分後に燃料気化爆弾による攻撃が行われます」

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[良い点] 更新乙い [一言] 現地ちゃんに一体何が…… ログに残ってるかなぁ
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