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【書籍発売中】腹ペコ要塞は異世界で大戦艦が作りたい - World of Sandbox -  作者: てんてんこ
第3章 森の国

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第84話 閑話(必中の矢)

 それに気付くことができたのは、本当に偶然だった。


 その日は雲ひとつ無い快晴で、木々の隙間から差し込む光も、いつにも増して強烈だったのをよく覚えている。


 日々の仕事である領域警備も、いつもの面子でいつもの通り行っていた。警戒するのは、はぐれの魔物が入り込んでいないか、おかしな痕跡がないか、植生に異常がないかなど。

 もし魔物を見つければ駆除する必要はあるものの、担当の警備区域は両側を別の警備区域に挟まれており、後ろは街、前はアフラーシア連合王国につながる荒野となっているため、はぐれ魔物が迷い込んでくる可能性は万に一つも無い。

 それでも警戒しないわけにはいかないため、警備部隊内では休暇扱いにされている緩い場所だった。


 そんな警備区域だからこそ。


 周囲の警戒を疎かにし、何となく見上げた、木々の隙間から見上げる空、遥か上空に。


 キラリ、と。


 やや傾いた太陽ソテル光を反射した瞬間。そこに何かが飛んでいると、気付くことが出来たのだった。



「とにかく、とてつもなく高い場所だ。北方山脈の飛竜ワイバーンどもだって、あんな空高くを飛んでいるのは見たこともない」


 それが、部隊内で最も目の良い観測手が出した結論だった。

 どのくらいの高さを飛んでいるのか、見当もつかない。だがしかし、確実にそれは上空を飛び、かつ決まったコースに従って動いていた。


「伝説の真竜テュラ・ドラゴンでは無いのだぞ。どうやって飛んでいるのだ」


 それを発見後、即座に情報は部隊長から危機対応省へ伝えられた。即応隊による迎撃は不可能と判断され、更に国防省に連絡が回る。同時に、長老会にも緊急招集が掛けられる事態となった。


「大きな円を描きながら、少しづつ本国の方に移動しているらしいが。私はあまり詳しくないが、東方の飛竜使い(ワイヴ・ライダー)どもの偵察飛行が、このような円を描く軌道だと聞いたことがある」


「では、何か? アレには誰かが乗っていて、我が国に偵察に来ていると、そう言っているのか?」


「あの方向から来ているということは、相手は遊牧民どもか? 馬鹿らしい、奴ら程度があのような高空を飛べるわけがないだろう」


「その可能性も含めて、検討すべきであろう? もしかすると、更に西方の国家かも知れん。燃石トーン・マグを狙っていると聞いているぞ。何かの技術と引き換えに、採掘権でも要求したのかもしれん」


「わざわざ、あんな不毛な大地を求めるのか? 今まで通り、遊牧民共に掘らせればいいだろう。あんな場所に手を出してみろ、際限なく金が呑み込まれるぞ。あれは底なし沼だ」


「それが想定も出来ぬほど、愚か者という可能性もあるだろう」


「ふん。その愚かな後進国家が、あの上を飛んでいる何かを送り込めるほどの技術を持っていると? 馬鹿らしい」


「では、あの不毛の地で燃石トーン・マグを採掘できて、かつ採算がとれるほどの技術を持った何処かの勢力が、あれを送り込んできている、と言うのか?」


「いや、そもそも全て推測だろうに。何の根拠も無いではないか。あれが何で、そして対話が可能か、まずは調べる必要がある」


「調べるだと? 何か手があるのか。我が国最高の風魔法の使い手でも、あの半分の高さにも上がれないと報告を受けているが」


 長老会は紛糾した。

 その謎の飛行物体は昼夜を問わず、上空を飛び続けているようだった。

 更に、遥か遠く、南の海上にも同じものと思われる何かの姿が、短時間ではあるものの確認された。


「観測の結果、人工物である可能性が高い。魔物にしては類似種がおらず、また生物的な動きではない。まるで、決まった事を繰り返すゴーレムのような軌跡だ」


「撃ち落とすなり何なり、手立ては無いのか? 人工物だとすると、我が国への侵犯ではないか」


「普通に矢を射掛けたところで、あのような高さまで飛ばせる訳が無いだろう。何か魔法では対応できないのか」


「魔法にも射程はある。どんな使い手であろうと、あの高さには届かん」


 何らかの人工物、おそらくはゴーレムの類。

 あれほどの空高くから見下ろして何が分かるという訳ではないだろうが、それでも、常に見られているというのは当然、気持ちの良いものではない。

 協議の中で、あれを撃ち落とすにはどうすればいいか、という話の流れになるのは当然であった。


「直接魔法では狙えんだろうが、何かを組み合わせれば――」


「遠当ての魔法を持つ警備隊長に――」


弓神の一撃(ソジダラス)は使えないのか――」


「このままでは我が国の威信が――」


 そして、対応が決定する。穏健派の勢力が僅差で発言権を獲得し、警備部隊へ命令が下された。即ち、矢文の撃ち込みである。



「観測開始ィ!」


「観測開始」


 対応決定後、部隊は即座に行動を開始した。

 必中ワン・ショットの魔法に長けた部隊長が選出され、特殊な術式を刻んだ長弓と矢を準備する。

 相手があまりにも遠いため、魔法発動後、この長弓は破損するだろう。初速増加と射程強化の術式がびっしりと刻まれた、この作戦のためだけに用意された一品である。


「目標視認」


 必中ワン・ショットの魔法は、知覚範囲の目標物に対し、自身が放った矢を確実に命中させることができる。ただし、相手が遠いほど、そして動きが速いほど必要な魔力も増加する。

 簡易測定により必要魔力は1人では賄えないと判明したため、複数人が魔力供給を行う儀式魔法を使用することになった。

 緻密な術式を組み合わせて五芒星の魔法陣を敷き、頂点に術者を、残りの4点に魔力供給者を配置する。

 更に、外部から視覚強化の魔法を重ね掛け、術者が目標のゴーレムを視認できるよう補助を行う。


 それでも、部隊内で最も目がいいと言われる彼であっても、ゴマ粒のような小ささでしか見ることが出来ない。


 だが、必中ワン・ショットに必要なのは"見る"事だ。


 魔力を込められた長弓が、輝きを放つ。矢に刻まれた術式も、必中ワン・ショットの魔法に反応して光を放った。


 ギリギリ、と音を立て、弓が引き絞られる。


必中ワン・ショット


 風切り音を残し、その矢は放たれた。魔法の反動で、長弓が粉々に砕け散る。


 単なる弓矢の1発にこれほどの魔力が注がれるのは、この森の国(レブレスタ)の長い歴史の中でもほとんど無かっただろう。

 術者と繋がった魔力パスから貪欲に魔力を吸い出しながら、飛翔する矢は速度を落とさず、目標に向けて飛んでゆく。


 魔法の効果により、矢は必ず目標に突き刺さる。その結果を実現するため、現実を上書きしながら矢は飛んでいった。

 術者と供給者の魔力を吸い出しながら、矢はどんどんと高度を上げていき。


「…ぐっ」


 そして、およそ5分後。魔力が、底をついた。数人は急激な魔力欠乏により、意識を失う。

 術者は魔力供給の起点ということもあり、僅かに魔力を残していた。

 矢と自分をつなぐ魔力パスが、正常な手順で解除されたことを感じ取る。


「…命中、しました」


 それでも、急激に魔力を失ったことで目眩を起こし、膝をついた。待機していた衛生兵が、即座に駆け寄る。


「報告、命中確認!」


「後方観測、術式の正常解除を確認! 命中しました!」


 術者本人、そして観測班からの報告を聞き、部隊長は頷く。


「通信兵、本部へ連絡。手紙は客へ届けられた。本作戦は予定通り完了。問題なし。以上」


「了解しました!」


 ぶっつけ本番ではあったが、矢文を上空のゴーレムへ届けるという作戦は無事に成功した。

 もし目標のゴーレムが魔術的防壁を持っていた場合、防壁突破のための魔力が足りずに矢は力を失っていただろう。

 警備部隊の精鋭5人の魔力を合わせた一撃にもかかわらず、当てるだけで精一杯。計算通りとはいえ、流石に部隊長も成功の確信を持てなかったのだ。

 更に、この作戦に注ぎ込まれた資金。特別製の弓と矢は、最高の魔道具師が手掛けた一品物。儀式魔法用の希少触媒に、魔法陣を構築した上級術士達。

 背筋が震えるほどの資金が、この作戦に投入されていた。


「よし。相手の状況確認を継続せよ。観測班はそのまま継続。何か変化があればすぐに知らせろ」


「了解しました! 観測班、行動を継続します!」



 矢文の命中から、およそ1時間後。


 上空のゴーレムはゆっくりとコースを外れ、アフラーシア連合王国側へ進路を変更する。


 そして、それ以降ゴーレムが森の国(レブレスタ)へ侵入することは無くなったのである。

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― 新着の感想 ―
[一言] かっこいいじゃん プロジェクトXかその時歴史は動いたかっていう
[一言] 魔力のバッテリーとロケットもどきが出来たら、魔法式の誘導ミサイルが出来そうだなコレ
[良い点] エルフさん達めっちゃ必死だ…… でも一人の英雄じゃなくてみんなで力を合わせてって言うのが再現性とかも考えると凄く良いですね。
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