第379話 大戦艦のお披露目
<ザ・ツリー>が運用する、ギガンティア級空中母艦。
全長520m、全幅870mという、空を統べる超巨大飛行機械だ。
そして本日、その巨体に匹敵する海の女王が進水した。
女王の盾にして槍、大戦艦<オーディン>。
海を統べる母なる女王、海上母艦<フリッグ>。
ギガンティアを中核とした第1空中艦隊に見守られる中、オーディン級1番艦<オーディン>とフリッグ級1番艦<フリッグ>が、大型建造ドッグからゆっくりと姿を現わした。
オーディン級は、全長569m、全幅92mという、まさに大戦艦と呼ぶにふさわしい威容を誇る。
ずらりと並んだ主砲は、三連装多段電磁投射砲、8基24門。
大型核融合炉を4基備え、内部には大量の弾薬と各種自動機械を内包する。
推進器には電磁推進式ウォータージェットを採用。核融合炉が発生させる膨大なエネルギーを使用し、取り込んだ海水を強力な電磁場で加速して駆動するエンジンだ。
そして、艦隊の中核となる海上母艦。
全長601m、全幅115mという巨体には、艦隊全体が数年間補給無しで独立行動可能な資材を積載可能。
建造機械までも包含した自動機械により、完全独立で大陸攻略まで視野に入れた、正に移動可能な大要塞だ。
搭載可能な艦載機は、最大で400機。その全てを1時間以内に展開可能なカタパルト機能を有し、艦隊全体で発揮する制圧力は、1艦隊で既知の北大陸国家全てを攻略可能とアサヒが太鼓判を押すほどの強力さである。
「大きいわねぇ……」
その進水式を眺めながら、イブはそう呟いた。
司令室いっぱいに広げられたディスプレイには、オーディン級の全体像と、その比較画像が表示されている。
現在<ザ・ツリー>が主力戦闘艦と位置付けている、ニグラ級巡洋艦。それを縦に3隻並べたよりも大きい戦艦である。
初期に運用していたアルファ級駆逐艦であれば、およそ11隻分の長さだ。
まあ、有り体に言えば、過剰な巨大さである。
イブがテンションが上がっていたのと、<リンゴ>が防衛力を求めた結果生まれた、化け物のような大きさの戦艦なのだ。
とはいえ、この惑星、戦闘能力は高ければ高いほど良い。
これから量産を行うことになるフリッグ級の601mという大きさも、いくつかの海域で撮影された海中の脅威生物より小さいのだ。もちろん、内包する戦闘力、エネルギーは桁違いだという自負はあるのだが、それでも未知の脅威生物相手には不安が残る。
「調査中の上陸地点で、良い感じのところがあれば、この艦隊を派遣して制圧開始ですね!! 1年以内には第4艦隊まで揃えられると思いますよ!」
「感慨深いわあ。遂にこの規模の自動機械を量産できるようになったのね……」
それなりの国家を相手に善戦できるレベルの戦力を、量産可能になった。
採掘設備と生産設備が揃って初めて可能になる、自動機械の大量生産だ。
「……でも、この調子で採掘してると、尽きちゃいそうなの……!」
「あら……まあ、次の地点開拓も続けてやってるし、当面は大丈夫よ」
そして、大量の資源情報と生産情報を管理しているオリーブは、どうやら採掘現場の状況を悲観しているらしい。
様々な自動機械を大量投入し、効率的に資源採掘が可能になったということは、それだけ埋蔵資源の消費が加速しているということでもある。
残存資源が、無視できない勢いで減っているということらしかった。
「旧プラーヴァ神国領域には、手つかずの資源がまだ埋蔵されている。進出中の魔の森領域でも、いくつかの有望な鉱山を探知している。開発に時間は掛かるけど、当面、尽きるということはない。安心して」
「……そうなの? じゃあ、ちょっと開発関係にもリソースを回さないと……。アカネお姉ちゃん、この辺、いじって大丈夫……?」
「……ん。大丈夫、問題ない。第2艦隊の建造計画が一部遅延するけど、ここは調整すれば全体に影響は出ない。宇宙関連は後回し、どうせ資源が無いとまともに機能しない」
アカネとオリーブがネットワーク経由で大量の情報をやりとりをしているのを眺めつつ、イブはイチゴを呼び寄せた。
「ね、イチゴ。大陸の調査はどんな感じ?」
「はい、お姉様。現状、ポイント2が最も有望な地点です。他の地点も、ポイント4以外は順調に偵察範囲を広げています。今のところ、障害となる文明や脅威生物との接触はありません。資源回収を主眼に置くのであれば、間違いなく、ポイント2一択でしょう。地上に大規模な鉄鉱床が露出しているのは間違いありませんので」
「うんうん、そこは変わりないのね。じゃあ、<パライゾ>の本拠地にできそうな場所は?」
「はい。ポイント1は、ポイント2と地続きです。地勢的な断絶はありますが、海洋に隔てられた他地点と比べれば遥かに容易に接続できるでしょう。資源的に最も有利なのは、ポイント1です。<ザ・ツリー>と比較的近い場所であるというのも、有利な点です。ポイント3は、少なくともポイント4で発見された文明国家の存在する大陸である、という点で避けるべきと考えられます。ポイント5、ポイント6は順調ですが、<ザ・ツリー>から少々距離があるのと、衛星画像から同大陸の他地域に文明が存在するのは間違いありませんので、ポイント1よりも優先度は低くなります。評価できる点は、<ザ・ツリー>と距離があるということでしょうか」
「司令。<ザ・ツリー>と距離が近いというのは、共同面では有利に働きますが、対外的には弱点になり得ます。どちらも一長一短でしょう」
「あー。<パライゾ>が何かと敵対したときに、<ザ・ツリー>に被害が及びやすいってことか。もちろん、距離を離せばリスクは減るけど、その代わり資源共有に時間が掛かるから、そっちがネックになると。まあ、距離があるから云々っていうのは今更と言えば今更だけど……」
イチゴと<リンゴ>が提示してきた情報をスクロールしつつ、イブは考え込んだ。
そもそも、<ザ・ツリー>と北大陸の拠点間が、かなり離れているのだ。この時点で、相当のロスが発生している。そのロスを許容しているのは、結局、イブの安全を確保するためだ。
そして、<ザ・ツリー>の主力は現在、ほぼ北大陸に存在すると言って過言ではない。
イブの守護のために相当の戦力が、<ザ・ツリー>に駐留しているとは言え、その戦力はそもそも対外的には使用しない。運用するのは北大陸の戦力であるため、敵対勢力にとって脅威となるのは北大陸の施設である。
つまり、攻撃対象となるのは、常識的に考えると、北大陸となるはずだ。
<ザ・ツリー>が直接攻撃される可能性は、あまり考慮しなくてもいいだろう。
アサヒの助言に従い、情報的な隔離も進めているのだ。
<ザ・ツリー>の弱点が、敵対勢力に漏れることを想定する意味は薄いのである。
「もちろん、常に<ザ・ツリー>の防衛には力を入れています。他勢力に敵対するような行動を取る場合は、北大陸、ないし他拠点に設置する予定の独立知性に任せることになるでしょう。我々とは、物理的に接続されないよう隔離します。アサヒの言う、魔法的なつながりも極力排除します」
「アサヒは、魔法は知性体による認識に大きく影響される、って言ってたものね。それに、距離的な影響も受けるはず、だったかしら。最初に思ってたより、結構制約がある、って」
「はい、お姉さま! 特に、距離的な制約はかなり大きいみたいですね! 家族の皆さんに協力いただきましたが、距離が離れれば離れるほど精神的な連続性が失われるようで! ただ、無線通信機などで接続するとその限りではないので、距離もですが、やはり認識というのが大きく影響するようです!」
まあ、そんなわけで。
いろいろと検討した結果、イブの希望で、<パライゾ>の根拠地候補として選定されたのは、北大陸から最も近い隣の大陸で、鉄鉱床に近いポイント2付近、ということになったのだった。
取り急ぎ、第2艦隊が充足次第行動を開始するということで、建造計画を策定することになったのである。
大戦艦、いよいよ動き始めました。
タイトル回収回、というほど派手な動きはしていませんが……。
ちなみに、大戦艦を量産すると腹ペコ具合が一気に加速します。ヤバイです。
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