第375話 煌めきの行進
<ザ・ツリー>によって名付けられた、魔物と思われる新種族<スキュラ>。
アルゴー級偵察母艦<ゼテス>は、情報収集のため、固定式の情報収集装置を海域にばら撒いた。
光ファイバーを張り巡らし、接続した情報収集装置を海底に打ち込む。
そうして構築した情報収集網から集めたデータを解析し、<スキュラ>やその他の動物、魔物の観察を行っていた。
「お姉さま、スキュラはどうやら、コミュニケーションを行うタイプの魔物では無いみたいですね!」
そしてそれが、スキュラの行動を観察して出した、<ザ・ツリー>としての見解だった。
「んー? 知性が無いってことかしら?」
「ええと、ある程度の知性は認められます! しかし、各個で独立して生活していまして、群れを作る性質は無さそうです! 少なくとも、文明を築くような生物種ではありませんね!」
スキュラは、単独で暮らす種族だった。
各個体は縄張を持っており、縄張争いを行っている姿も確認されていた。
個体同士でコミュニケーションを取っているような素振りは無く、出会った際に威嚇することがある程度。その威嚇の仕草も、同種と他の生物で変わりは無い。
つまり、そもそも同種、という認識すらしていない可能性が高い。
「魔物である、というのはほぼ確定ですね! 明らかに、体組織が頑強ですし、筋力も破格です!」
そして、スキュラは狩猟生物である。
縄張内に大型の魚類が侵入した場合、積極的に襲いに行く傾向があるようだ。
その際、海底から凄まじい勢いで上昇、一撃で獲物を仕留め、海底に戻っていく。
「個体によっては、握りやすい岩や枝なんかを武器にすることもあるみたいですねぇ!」
「道具を使う知性があるってこと?」
「知性と言って良いかどうかは疑問です! 地球の蛸でも、道具を使うことはできるみたいですし!」
スキュラは魔法で強化されているからか、非常に力が強い。
その触手で大型の魚類を簡単に絞め殺してしまうし、石を持って殴れば、その石ごと相手を潰してしまうくらいには腕力がある。
人型の上半身も、触手の下半身も、どちらも器用に使って狩りをする。
ただ、頭部に脳が詰まっているかは、いまのところ不明だ。
「なんとなく、胴体の中に重要な臓器を納めてる気がするんですよねぇ。わざわざ、あの頭部のような分かりやすい場所に、弱点があるとも思えません!」
「タコとかイカの中枢神経も、胴の真ん中にあるんだっけ?」
「はい、お姉さま! そもそも、口もタコ・イカと同じで下半身の足の中央にあるみたいですし、構造は人間とは異なるはずです!」
観察の結果、捕らえた獲物を咀嚼するのは人型の上半身では無く、蛸型の下半身側であると判明している。肉体的な性能は、どうやらタコやイカに近いらしかった。
「とりあえず、このスキュラと格闘戦で勝てるくらいの強さは欲しいところだけど。設計はどうかしら?」
「本体はほぼ完成。武装のシミュレーションを行っているところ。やはり、強度の問題で難航している。<ゼテス>で製造可能な素材では、なかなか難しいかもしれない」
「まあ……そうねぇ。見るからに硬そうだし、打ち合って壊されない強度は必須だものね……」
硬くて靱性が高く、復元力を持った素材。そんな都合の良いものはそうそう製造できるものでは無いため、ありものを組み合わせる必要がある。
魔物素材であればワンチャンだが、調達性に難があるため、<ザ・ツリー>としては積極的に使用するものでは無い。まして、前線に投入する消耗前提の戦闘機械に採用することはしない。
とはいえ、<ゼテス>が運用する前提であれば、壊さないよう大事に使い回すことも可能かもしれないが。
「比較的容易に手に入る素材ということで、例のビッグ・モスを候補に挙げている」
「あの、おっきい蛾ね。魔石を組み込めば、頑強性が発揮されるんだっけ?」
「はい、お姉さま! いいですねえ、試作機は作ってますが、実戦投入となると初めてになります! やっちゃいましょう!!」
「んー。運搬は?」
「例によって例の如し! コンテナの軌道投入です!」
「ううん、コスパ悪いわね」
<ゼテス>は<ザ・ツリー>から6,000kmも離れた大陸にいる。
この惑星は赤道外周が約68,000kmあるため、惑星的視点ではそこまで離れているわけでは無いのだが、しかし6,000kmというのは長大な距離だ。
迅速な物資投入はコンテナにロケットモーターを付けて行うのだが、当然、投入重量に対するコストはとんでもなく高くなる。
「まあ、空中輸送は目立つし、海上輸送じゃ時間がかかるし、仕方ないから許可したけど……」
「先住民に対するパフォーマンスにもなります! 今度は昼間にぶっ込もうと思いまして!」
「ええ……」
円筒形のコンテナが、空から降ってくる。
そして、その内部には貴重な物資が詰まっている。
まあ、確かに素晴らしいパフォーマンスにはなるだろうが……。
◇◇◇◇
彼らの朝は、礼拝から始まる。
神使の滞在する屋敷の前で、祈りを捧げる。
その後、その広場でそのまま、朝食の配給が始まるのだ。
日によっては神使が姿を現わすこともあり、朝からその姿を拝むことができた日は幸せが来るともっぱらの噂である。
会いに行ける神使として人気。とある遠方の本拠地では、そんな風に言われていた。
特別な竜の角をもつ神使達は、週に1度、集落の中を巡回する。
彼女らは、あまり感情を表に出さない。
だが、巡回の中で、多くの慈悲を見せてくれるのだ。
怪我や病気の住人を的確に見つけ出し、診断し、対処法を指示する。
建物の不具合を指摘し、必要なら資材を提供する。
住人達の会合を見守り、不満や要望を汲み上げ、長達にアドバイスを行う。
先頭を進むのは、6本足の巨大な護衛獣。その後ろに、神使の3人が徒歩で続く。
更に、荷物持ちの役割である4本足の使役獣が続き、最後に集落の長達が付いてくる。
護衛獣や使役獣は、その身体の各所に光の線が煌めいていた。
神使はその尊顔を人目に晒さないため、目元を覆うマスクを付けている。
そのマスクも、柔らかく光るラインが彩っている。
昼間はそれほど目立つわけでは無いが、日が落ちてくるとその神秘的な姿がはっきりと浮かび上がった。
彼女らは、そうして日が落ちてもしばらくの間、集落の中を行進する。
全ての確認を終えてから、屋敷に引き上げるのだ。
その行進を、動ける住人達は外に出て見守るのである。
娯楽の少ない集落の中で、ぼんやりと暗闇を照らす神使達の一団は、大変人気であった。
◇◇◇◇
「なんだっけ……そう、あれ。エレクトリカルな……パレード……だっけ……?」
「娯楽を提供するのも支配者の務めですからね!!」
「いや……支配させてるつもりは無いんだけど……」
思っていた展開と違う。
それが、イブの素直な感想だった。
「完全に神格化されている。ここからの軌道修正は難しいし、デメリットしか無い。この方向性で進めるのがいい」
「お姉様、人類種は皆こういう傾向があるのでしょうか? 神を信じる、という感情は……理解できるような、できないような……」
「うーん……。自分が理解できない事象を、全て上位存在のおかげってことにして思考放棄するのは楽だからねぇ……」
「コストパフォーマンスを最大にしようとするのは、生物の常ですからねぇ! 信じるだけで救われるなら、それに越したことはありませんので!」
「それはまた暴論ねぇ……。間違ってないのがまた……」
「アサヒ達はお姉さま教です! お姉さま、神託をください!!」
「神にはなりたくないわね。全てを救わないといけないんでしょう? 家族じゃダメかしら?」
「家族がいいですぅ!!」
キャッキャキャッキャしてますね。
その裏で、6箇所同時進行で侵略が進んでいるわけです。