第370話 王権神授
<ゼテス>は、精力的に勢力拡大に励んでいた。
追加製造した偵察ドローンを各所に飛ばし、現地の地図を作成していく。
あるいは、周辺海域に定点観測ドローンを配置し、魚類魔物の動向を把握する。
地面を掘削し、有用な鉱物を採取する。
元素採取装置を増設し、原料カートリッジを生産する。
何度か実施した、爆薬を使用した人工地震波による地質調査により、ある程度の鉱物分布も知ることができたのだ。
すでにコンクリートの原料である石灰石を発見しており、拠点設備の拡大にも目処が立っている。
やはり、文明の手が入っていない大地には、資源が豊富に眠っている。
山間部はレーダーによる調査のみだが、鉱脈らしき地質も捉えていた。
<ゼテス>に設定された拠点設営という目標は、十分以上に達成できる見込みだ。
そして、新たに設定された第二目標。
現地勢力との、非暴力的接触と交流。
これらも、追加投入された人形機械に搭載された頭脳装置を連結することで、十分な演算能力を確保できていた。
言語解析の進捗はあまり良くないものの、監視対象としている集落の行動範囲はある程度把握できたという状況だ。
「というわけで、そろそろ接触フェーズに移りましょう!」
ポイント4の文明接触担当となったアサヒが、元気よくそう叫んだ。
「言語解析率は推定12%。まともなコミュニケーションは期待できない」
「大丈夫ですアカネお姉さま! 身振り手振りができるんですから、大体何とかなります!」
「<ゼテス>にはボディランゲージ関連のパッケージはインストールしていない」
「……何とかなります!」
という判断により、<ゼテス>には、接触命令が下されたのだった。
もちろん、本当にダメそうなら<リンゴ>からストップが掛かるので、何とかなると判断されたのだろう。たぶん。失敗してもいいや、と思われているわけではないはずだ。そうだよね?
◇◇◇◇
接近する何かに気付いたのか、俄かに目標の集落が騒ぎ始めた。
そこに、強化外骨格を纏った人形機械5体、多脚戦車4機は、堂々と、そしてゆっくりと歩きながら近づいていく。
集落側からも、迎撃のためか、武装した男達が飛び出してきた。
それを確認し、人形機械側はゆっくりと歩みを止める。
双方が、距離を保って対峙した。
この時点で、人形機械側は殊更に武器を構えるような素振りは見せていない。
積極的な敵対意思を見せないことで、対話の可能性を提示しているのだ。
果たして、それが通じたのか。
集落側で、リーダーと思しき狼男が歩き始めた。
それを見て何人かが声をあげたが、リーダーの狼男は片手を挙げてそれを制する。
どうやら、何らかの交渉を行う意思はあるようだ。
その行動に応え、真ん中の人形機械が、前に出る。
2人は、5mほどの距離をあけて、対峙した。
『話、あなた、考え、私』
狼男が、声を張り上げる。
言語解析が不十分なため、正確な意味は分からない。だが、おそらく、彼は対話を求めているのだろう。最低限、単語としての意味は把握できている。
「私は、あなたと話をしたい」
対する人形機械も、簡潔に言葉を返す。
難しい言い回しをする必要はない。
「私の名前は、リビカ・アリッサム」
自身を指差し、アリッサムシリーズと名付けられた人形機械はそう名乗った。
『……、ラーグラン!』
狼男も、大声でそう名乗る。ラーグランという個体名は、集落の調査の中で判明していた。最初に付けた単語が、「私の名前は」という意味なのか、あるいは家名か。それは、対話を続ける中で判明するだろう。
今は、互いに名乗りをあげることができた、という成果で十分だ。
そして、リビカ・アリッサムは、最初のハードルに挑みかかる。
何とかして、彼らと物々交換を始めるのだ。
◇◇◇◇
人形機械達に持参させた、拠点近くの森で収穫した果実は、微妙な反応で受け入れられた。
その場で半分に切って、片方をリビカが食べる。
それをラーグランに差し出したのだが、その外観や匂いを嗅いだ後、彼は首を振って肩を落としたのだ。
一応、事前に成分分析は済ませており、少なくとも<ザ・ツリー>製の人形機械、すなわち司令官たるイブが摂取可能な組成であると確認されていた。
だが、どうやら、ラーグランはその果実を食べられないらしい。
何か習慣的な、あるいは宗教的な理由でもあるのかとも考えられたのだが、その後にラーグランが呼び寄せた別の男が嬉々としてその果実を頬張ったため、その可能性は薄くなった。
おそらく、種族的に摂取することができないのだろう。
ラーグランと同じような見た目の者たちが全く手をつけなかったことから、その推測は補強された。
もちろん、宗教的な意味がある、という可能性もまだ残っているが。
そして、その果実の対価として、集落側からいくつかの品々が提示された。
何かの革、おそらく彼らが海で狩っていた巨大魚の皮を鞣したもの。あるいは未処理の皮。
干し肉のようなもの。
蔦を編んで作られた籠。
石英と思われる、くすんだ半透明の結晶。
銀製と思われる硬貨。
物々交換さえできれば、ひとまず双方の価値観のすりあわせが可能になる。
恐らく、この周辺で孤立しているであろうこの集落にとって、自分たち以外の勢力から物資を輸入できるようになるのは魅力的なはずだ。
そこから相互理解を進めることができれば、彼らと適切の距離を保って関係を続けることができる。
そのような思惑で、人形機械は、継続して入手可能と思われる手編みの籠、鉱物組成のサンプルとなる石英を手に取った。
そしてそれが、劇的な反応を起こすことになる。
◇◇◇◇
<ルアルバートン王国 建国神話>
(遥か過去より口伝で受け継がれる神話の一節)
神は王を見定めるため、神使を遣わした。
神使はそれと悟られぬよう、旅人を装うこととした。
また、途中で木の実を手に取り、自身の荷に加えた。
一方、バートンは遠くから近付く神使を見た。
彼らは光を纏い、頭には2本の大きな角を持っていた。
その後ろからは、巨大な虫のような、あるいは牛のような生き物が付き従い、神使を守っていた。
「旅の方。我らが町に、何用でまいったか」
神使は綿の衣を纏い、小さな剣を腰に差していた。
バートンは、旅人のような格好をした神使に、旅人にするように声を掛けた。
「この町の名前は、何という」
神使がそう問うたため、バートンは答えた。
「ルアルである。私、バートンが治める地である」
「我らは、旅をしている。この町には、何か交換できるものが無いかと立ち寄ったのだ」
神使はそう言うと、道中に拾った果実を並べた。
バートンは、それらの果実と見あったものを並べることにした。
干し肉。
町の女が編んだ籠。
畑から掘り起こした水晶の塊。
そして、銀貨。
神使は、町が貧しいことを知り、負担とならないよう籠と水晶を選んだ。
果実の詰まった袋とそれらを交換し、神使は町を立ち去った。
3日後、バートンは神の声を聞いた。
ルアルの地を治め、国とすること。
王として、バートンを認めること。
こうして、バートンは自らを王と定め、建国を宣言した。
初代王バートンの名を取り、この国はルアルバートンと呼ばれた。
ルアルバートンは神の試練を超えた国として、今日までその栄光を繋げている。
最後の神話は、現地に昔から伝わるお話です。
現在の事象とは関係ありません。




