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第352話 全球支配

「……全部の補正が完了……。……最後の、自己診断をやってるところ……」


「管制AIは、全てのチェック項目をクリアした。衛星自己診断プログラムの完了まで残り440秒」


 アカネとオリーブからの報告を聞きながら、イブは衛星軌道図を眺めていた。


 先日打ち上げた地上(Ground)( Posit)(ioning)システムを構成する衛星群が、遂に稼働を始めるのである。


 このGPS衛星群だが、全てが静止衛星軌道、すなわち赤道上空を惑星の自転に同期させて周回するよう設定されている。各衛星は相互に通信可能な距離を保ちつつ、正確な位置情報電波を発していくのだ。

 そして、惑星上のどの位置にいても最低4基の電波を受信できる状態にすることが、今回のミッションの目的である。


 極点はさておき、少なくとも赤道付近における精度は数cm単位。今後、準天頂軌道に衛星を追加することで、全球での精度を確保できるようになるだろう。


「……診断、終わった……」


「全GPS衛星の自己診断が完了した。全機能良好(オールグリーン)。GPS信号の発信許可を、管制AIが送出した」


「……信号、受信した……。……問題、なし……」


 そして、<ザ・ツリー>謹製のGPS衛星は、その全てが問題なく稼働を開始。

 微弱なGPS信号が、赤道上空から全球に降り注ぐ。


 もちろん、信号強度は限界まで抑えている。

 相当に感度良く捉えたとしても、上空に明るい星が増えた程度の認識しかできないだろう。


「信号強度は、調整できるって言ってたわね?」


「そう。信号強度が必要な地域で活動する際に、一時的に強度を上げることはできる。状況に応じて対応すればいい」


 たとえば、木々に覆われた森の中。太い幹などで信号が遮られてしまい、微弱な電波では対応できない場合に、一時的に強い信号を送ることで利用できるようになる可能性がある。


「よしよし。これで、地上で迷子になることは防げるわね。後は……?」


「レーザー通信衛星を順次投入中。想定している活動領域においては、リアルタイム通信を維持できる環境を構築している」


「……監視衛星と、観測衛星も増やしてるの……」


 増設された発射場をフル活用し、次々と投入される人工衛星。

 <ザ・ツリー>の技術の粋を尽くして製造されたそれらの自動機械群は、衛星軌道上を我が物とすべく大量の情報を収集していた。


「少なくとも、衛星軌道上に我々の活動を阻害する障害は発見されていません。衛星投入は、予定通りの基数に到達するまで継続します」


「ありがと、<リンゴ>。ひとまずそこは順調ね。……あとは、他の大陸かしら」


「はいっ! お姉さま! アサヒが報告しますね!!」


 イブが次の話題を振ると、担当のアサヒがシュバと手を挙げ、元気よく立ち上がった。

 同時に、惑星のマップが空中に投影される。

 各地の距離を正確に表示するための、球体マップだ。


「周辺の海洋に、観測ブイを放出しています! 監視衛星に定期的に撮影させて、海流マップを作成している途中ですね! まあ、おおまかに分かってきたので、そろそろ艦船を出してもいいかなって思ってますが!」


「ふーん……。以前に比べると、格段に撮影機会って増えてるわよね?」


「衛星画像ですか? うーん、そうですね。たぶん10,000倍くらいにはなってると思いますけど」


「海洋の脅威生物とか、何か痕跡があったりしないのかしら?」


「あー」


 イブの問いを受け、アサヒはバラバラと何枚かの画像を表示した。ストレージから引っ張ってきたらしい。


「正直、これと分かるようなものはまだありません! でも、怪しいのはいくつか……このあたりですかねぇ!」


 そうして表示されたのは、海上に浮かぶ孤島だった。

 周囲を崖に囲まれ、なだらかな丘陵を持ち、全体が植物に覆われている。

 一見、何の変哲も無い島に見えるのだが。


「この島、明らかに移動しているんですよねぇ……最初は浮島かと思ったんですが、それにしては岩石がたくさん見えてますし、海流に逆らうこともありますし! で、結論としては、たぶんでっかい亀か何かじゃ無いかっていうことになったんですが!!」


「亀……?」


 海上を自由に動き回る、島と見紛うほどの巨大な生物。

 それが、監視を続けたアサヒが出した結論だった。


「まあ、ここからみたらほぼ裏側なので、監視にとどめてるんですけどね!! これ系の島みたいな脅威生物が、結構な数見つかってるんですよね!」


 <ザ・ツリー>の位置する地域から、だいたい惑星の反対側あたりの諸島周辺で、似たような島がいくつも見つかっているらしい。


「げぇ……。やっぱヤバいじゃんこの惑星……」


「それには同意します! それと、海中の脅威生物は、海面に浮かんでこないと観測できないので、衛星画像からだとほとんど捉えられないと思います! 数枚、鯨っぽいでっかい影が映った画像があるんですが、それだけです! ちなみに、全長の推定は850mでした!」


「850m……?」


「映ってる影だけで、です! もっと大きいかもしれませんね!!」


 鯨のような形で、少なくとも850m。いくら海洋生物は大型化しやすいとはいえ、にわかに信じがたいサイズ感である。

 要塞<ザ・ツリー>よりも、遥かに巨大なのだ。


「建造中の<オーディン>級よりも大きいですね! まあ、これも<ザ・ツリー>からはずいぶんと離れていますのでひとまず影響はありません!」


「要警戒ってことかしら……。まあでも、衛星数が増えれば警戒しやすくなるわよね?」


「はい、お姉さま! オリーブお姉さまがそのあたりを計算してくれましたので! 24時間全球監視、できるようになります!」


「……ぶい」


 振り返って右手をブイの字にして自慢してきたオリーブに、イブは歩み寄ってその頭を撫でた。オリーブは、ふんすと鼻から息を出し、満足げだ。

 そんな妹を見て、イブも満足げであった。


「監視時の解像度も、対象周波数帯も格段に上がりますので、目標大陸の選定も進むと思います! 特に、夜間の赤外線監視を継続的にできるようになりますので、文明レベルの推察がやりやすくなりますね!」


「大戦艦の建造も順調だしね。予定だと、んー、残り1,150時間……?」


「おおよそ48日です、お姉さま!」


「おお、そのくらいね。ようやく大陸間拠点を増やせるかぁ……」


 大戦艦を中核とした、大規模な派遣艦隊。これの出発までの予定はしっかりと組み上げられており、その行程は順調に消化されている。


 監視体制の構築、GPSの稼働、全球通信網の敷設。

 全て衛星に頼ったものであるため、衛星軌道上を安全に利用できるかどうかに全てが掛かっていた。


 そして、今のところそれは順調に進んでいるように見える。


 それが、隠蔽対策がうまく機能しているのか、それとも本当に衛星軌道上に脅威は無いのかは不明ではあるが。


「次の上陸地点の選定は進めています! いくつかの候補を絞って、周辺の脅威度を測定します! あと30日もあれば、そのあたりの解析も済む予定ですので!」


「そのあたりで、進出先を決められるのね」


「はい、お姉さま! 候補は2~3に絞る予定です! そこからメリットデメリットを勘案してお姉さまに決定してもらうことになりますね!」


 大量の情報から、最適な上陸地点を選択するのは、アサヒ達のようなAIであれば簡単にできるだろう。

 だが、司令官はイブであり、彼女は人間だ(たぶん)。

 人間には感情があり、最適解では無い選択肢を選ぶ可能性がある。


 そして、<リンゴ>を含めた<ザ・ツリー>のAI達はずっとイブを観察しているが、彼女の好みを完全に把握できているわけでは無い。


 もちろん、やろうと思えば、彼女の構成物質全てを観測し、精密なシミュレーションモデルを構築することもできるだろう。


 だが、そのやり方を<ザ・ツリー>の超知性体達は是としなかった。

 イブに仕える、その存在意義レゾンデートルを、うまく処理できないと判断したのだ。


 よって、これからも、彼女らはイブの下す不完全な指示を愚直にこなしていくことになるだろう。

リンゴちゃん達も、そのリソースに限界のある独立した知性体です。

報酬系を必要とする演算装置を使用している以上、欲望と付き合い続ける必要があります。

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― 新着の感想 ―
宇宙怪獣は出るかな?
更新乙い オラこんな惑星いやだぁ!!! こんな危険な所に居られるか!!私は自分の部屋に戻るぞ!! 関わりたくはないけど、脅威度の調査はしないといけないめんどくささよ
異世界転移した影響でアバター体になったイヴ・キツネスキーは、少なくとも“魂”は人間でしょう。 身体は、遺伝子的にいう独立人種の狐人族なのか、人間と狐のキメラ体なのか、人間というには情報不足ですね。 《…
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