第344話 大戦艦が作りたい
要塞<ザ・ツリー>の司令官、イブは、統合管理AIである<リンゴ>、および現勢力を管理する6体の姉妹達を前に立ち上がった。
「この惑星を、本格的に調査する!」
「お~」
パチパチと拍手が鳴り響く中、イブはさっと右手を掲げた。
それに合わせ、投影ディスプレイが世界地図を表示する。
「いま、私たちが勢力を拡大しているのが、この大陸。そして、そのほかに5つの大陸、2つの大型諸島が確認されているわ!」
映し出されたのは、縁取りされた1つの大陸と、その他5つの巨大な陸地。そして、大海のただ中にある1つの諸島と、とある大陸の端から伸びるように広がる諸島だ。
「6つの大陸、2つの諸島。これら全てに、何らかの文明があるということは分かっているわ。でも、逆に言うとそのくらいしか情報は無いのよね」
イブが口にしているのは、<ザ・ツリー>に所属する知性体であれば全員が理解している内容だ。ただ、皆が知っているからと言って適当に進めるのは格好が付かない。
こうやって演説をぶちかました方が、皆がやる気になるだろう。なるはずだ。なるよね?
「私たちが目指すのは、当然、勢力の拡大よ。だから、障害になり得る他勢力は把握する必要があるし、必要に応じて対抗しなければならないわ。でも、情報が足りない」
正直なところ、足掛かりとしている北大陸があまりにもゴタゴタしすぎて、他に資源を回す余裕がなかったというのが今までである。
また、脅威生物の問題さえ無ければ、もっと大量の自動機械を惑星上に放つことが出来ていたのだが。
衛星の運用すら危ないこの惑星では、その危険を冒すより足元を固める方に集中していたのである。
「皆も知っての通り、我々の資源生産量は右肩上がりで安定しているわ。北大陸の脅威はまだあるけど、でも、余剰資源を惑星探索に回す分には問題ない状況になってきた。それなら、やらない理由はない!」
イブはむん、と片手で握りこぶしを作り、気合いを入れた。
「さあ、イチゴ。これから準備するのは何かしら?」
「はい、お姉様。遠征部隊の建造と編成です」
おとなしく椅子に座っていたイチゴはきっちりとそう答えると、ディスプレイに情報を追加した。
「航空機の派遣が、時間的にも資源的にも最も効率的です。しかし、あまりにも目立つうえ、対空攻撃に対し脆弱で、制圧力もありません」
ギガンティア級を中核とした航空部隊の派遣案は、真っ先にイブが却下したのだ。
とにかく目立つし、紙装甲。複数の<ワイバーン>級の脅威生物と遭遇した場合、全滅は必至である。
それでも全滅したことそのものが情報になるという考え方も出来なくはないが、まあ、もったいないだろう。戦時中では無いのだ。
「そこで、大戦艦を中核とした艦隊派遣のプランを策定しました。大型艦船を使用することで、大量の物資、戦力を輸送できます。拠点を確保できれば、そのまま要塞建設も可能です。大型の自動機械を上陸させることで、周辺確保も容易となるでしょう」
そこで提案されたのが、大艦隊の派遣だ。
そこらの木っ端勢力など鎧袖一触で粉砕できるほどの戦力を持った、長期間自律行動できる大艦隊を派遣し、さっさと拠点を作り上げるというプランだ。
「これに伴い、運用する衛星も規模を拡大します。GPS衛星を、仮運用から本運用へ。準同期軌道を新たに設定し、44基を打ち上げます。また、地上観測用光学衛星の基数をさらに追加し、全球を途切れなく観測できるようにします。データ通信用衛星も更に拡大し、通信ネットワークを増強します」
そして、これまで消極的な運用しかしていなかった衛星も、本格的に梃子入れを行う。
現在、軌道上で大型の生産設備を運用しているが、数ヶ月が経過しても特段の問題は発生していない。であれば、宇宙空間に短期的な危険は無いと判断できる。
もしかすると、大量の衛星を投入することで問題発生する可能性はあるのだが、正直、衛星関連に関して言えば全滅したとしても大した資源損失にならないのだ。
「また、重力分布観測衛星も増やすことで、惑星全体の地質調査をより詳細に実施します。当面、光学観測衛星と重力分布観測衛星でデータ収集を行い、資源分布を解析します」
資源分布がある程度分かれば、偽装本拠地、あるいは実際に移転する候補地を選定することも出来るだろう。
そうやってある程度候補を絞り、そこに艦隊を送り込むのである。
「ありがとう、イチゴ。アカネ、オリーブ。衛星は任せたわよ?」
「わかった、お姉さま」
「うん、お姉ちゃん……」
衛星の生産と打ち上げ運用をアカネとオリーブに託すと、イブは残りの計画を確認する。
「大戦艦は、ウツギとエリカね。戦略はイチゴが協力しなさい。戦術レベルの立案は2人に任せるわよ?」
「うん、お姉ちゃん!」
「わかった、お姉ちゃん!」
「はい、お姉様」
大戦艦。
それは、現在運用しているフリングホルニ級戦艦よりもさらに巨大な艦だ。
これを旗艦とし、別大陸への進出を行うのである。
大型のエネルギー炉と大量の弾薬を内に抱え、超越演算器により全てを制御する、現在の戦艦機能をさらに拡大した、まさに大戦艦だ。
既にひな形となる一番艦の設計は着手しており、ある程度形になっている。
また大戦艦だけでは戦力的に不安なため、同時に巨大な空母の運用を想定している。こちらは、航空母艦というより様々な自動機械を運用、場合によっては現地で製造まで行える超巨大艦となる。航空母艦と揚陸艇、工作艦を合わせたような、ほとんど移動要塞と言っても過言では無い代物である。
「データ収集・解析はアカネとオリーブ。派遣艦隊の準備はウツギとエリカ。イチゴは全体の管理と、艦隊運用のお手伝いね。みんな、大丈夫かしら?」
「「「「「はい!」」」」」
5姉妹に仕事を割り振り、最後に、とイブは朝日に目を向ける。
「アサヒはデータ解析よ。前にちょっと聞いたけど、怪しい地形とかあるんでしょ? そういうのを見つけて、詳細解析を指示する係ね。大丈夫?」
「任せてくださいお姉さま!」
イブに指名され、アサヒはピッと手を上げて元気よく返事した。
「気になるっていうのは、あれですね! 東の大陸にある、謎の台地ですね!」
「そうそう。ああいう、何か気になるところを調べるのよ。場合によっては、衛星の軌道調整もいるかもしれないし、しっかり話し合いなさい」
「わっかりましたぁ! あとは、裏の大陸の雲に覆われてるところとか、隣のでっかい諸島も気になるんですよねぇ。おかしな気候がけっこうあるみたいですし、重力分布観測衛星でじっくり見てみたいものです!」
惑星全体の衛星写真は取得しているのだが、衛星数が限られるため、経時変化はあまり確認できていない。本当はレーダー衛星で詳細な情報を取得したいのだが、慎重を期して当面はパッシブ観測にとどめる予定だ。
「北大陸を現地の皆に任せられるようになってきたしねぇ。私たちは、常に未来に向けた仕事をすべきだわ!」
イブの宣言に、おー、と声が上がった。
確かに、本拠地の独立AIが直接現地統治を行う必要は無い。末端はどんどん他のAIに任せ、経験豊富な本部のAIは常に全体を見据えるべきである。
「ちょっと心配はあるんだけど、アマジオさんに相談役になってもらえれば、北大陸はほぼ大丈夫だと思うのよね」
「はい、司令。アマジオ・シルバーヘッドの協力があれば、問題は無いかと考えます」
イブの言葉に、<リンゴ>も同意した。経験という面では追随を許さない重鎮が、北大陸に根を張ってくれているのは大変助かるのだ。現在進めているプロジェクトも、アマジオの拠点である<トラウトナーセリー>への到達だ。
わざわざ頼まなくても、しっかりと協力してくれるはずである。
まあ、<ザ・リフレクター>との戦いを見て、ドン引きしていたのだが。やってくれるはずだ。
勢力拡大のお時間です。
いろいろと問題は残っていますが、全力を尽くさないとどうにもならないようなものでは無くなってきたので、これからどんどん外に広がっていくことになるでしょうね。
ちなみに、大戦艦建造でまた資源がカツカツになります。




