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【書籍発売中】腹ペコ要塞は異世界で大戦艦が作りたい - World of Sandbox -  作者: てんてんこ
第1章 大海原

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第34話 パンが無いならコンブを食べなさい

「コンブという種類の海藻。これを乾燥させることで、軽く、かさばらず、そして長持ちできるようになる。そのままでも食べることは出来るが、あまり大量に摂取すると体調を崩す恐れがある。毎日食べるのであれば、一度水で戻すほうがいい。体に悪い成分を溶かすことが出来る」


「…。なるほど。当面の食糧としては、悪くないな。何より、軽くてかさばらないってのがいい。倉庫においておくのも、馬車で運ぶのも、軽い、小さいってのが一番いい」


 今、<リンゴ>の操る人形機械コミュニケーターが、クーラヴィア・テレクに昆布を売り込んでいる最中だ。


「で、ツヴァイさん。まあたぶん、こいつは主食にはならないと思うが…それは分かっているか?」

「分かっている。…主食となる穀物については、我々は売るほど生産できていない。それについては申し訳ないと思っている」

「いやいや。そいつは問題ない。謝ってもらうほどのことじゃない。本来は、ウチが自分で準備しなきゃいけないものだからな。…だから、申し訳ないが、このコンブ、たくさん持ってこられても交換は…」


 やはりというか、当然というか、商会長は自分の町の事しか考えていない。いや、それは想定の範囲内だ。町の外に勝手に住み着いた難民達のことまで考えるわけがないのだ。元住民とか、親類縁者ならまだしも、完全に赤の他人なのである。一応同じ国民とはいえ、政治体制的にも現状的にも、どちらかというと警戒すべき隣人なのだ。


「これら、またはこれらと等価の食糧でもいい。外の…町の外の難民達へ提供してもらいたい」

「…!? それは…!」


 急に出た難民という言葉に、クーラヴィア・テレクは息を呑む。


「薄々気付いていると思うが、彼らはそのうち、まるごと暴徒に変わる。それを防ぐには、食糧を提供し、恩を売るしか無い」

「いや…まあ、確かにそれは考えていたが…」

「全て殲滅するという選択肢もあるが、さすがにそれはどうかと思う。そして、可能であれば、取り込みたい。何をおいても、まずは人手が足りないのだから」


 クーラヴィア・テレクは、<リンゴ>が操るツヴァイの言葉に、じっと考え込んだ。すぐに否定しないということは、こちらの提案を一理ありと考えてくれたということだろう。当然、こちらがテレク港街の命運を握っているという立場的な考慮もあるだろうが。


「…分かった。難民への渡りと、食糧提供は一度商会の連中で会議をかける。このコンブは、今回はどの程度用意しているんだ?」

「今回は、この箱のサイズでおおよそ千個分。問題なければ、次からは満載してくる。それから、さきほど少し話したが、こっちが水」

「…水? その…白い箱の中に入っているのか」


 次に紹介するのは、司令官イブの提案により生み出された、飲料水50リットル入りのセルロース容器だ。滅菌処理してあるため、容器が破損しない限りは腐りもせず、ずっと保管可能な新商品である。実用的には、保管期限は5年程度と想定されている。


「そう。密封してあるから、腐らない。使うときは、容器を破壊する。この町は水には困っていないようだけど、難民の彼らについては恐らく、そうではないと思う」

「水源は…そうだな。あの草原は、湧き水のはずだ。確認したわけではないが、あの人数が居座っているとなると…もう汚染されているかも知れないな。…。…では、これを?」

「提供する。本来はこうも大量に出すつもりはなかった。バラスト代わりに大量に積み込んでいる。この箱は硬いが、脆い。衝撃を与えると割れるから、取り扱いは注意してほしい。使い終わったあとは、燃料として燃やすことはできる」

「分かった。水の件も合わせて議題にしよう」


 難民については、テレク港街も扱いかねている問題だ。放置はできないが、放置せざるを得ない状況。そこを何とか出来るかも知れないとなれば、<パライゾ>にとって有利な話が進められるだろう。


「あとは、食糧について、少し実験をしたい」

「…実験?」


 ツヴァイに手を挙げさせ、それに合わせ、付き従わせている人形機械コミュニケーター、ドライが持っていた袋を机に置く。


「芋を持ってきた。うまく栽培できれば、おおよそ90日で収穫できるはず」

「芋か…。俺が知っている芋は、このあたりの気候ではうまく育たないと聞いたが」


 ちなみに、持ってきた芋は、いわゆるタロイモに分類されると思われる種類だ。周辺の村落で栽培されていたものを、侵入させたボットに確保させたものである。


「それは恐らく、寒冷地…寒い土地で栽培されているものと思う。これは、暖かい地域で栽培されているもの。こういったものを栽培できるようにし、少しでも食糧を確保できるようにしてほしい」

「…そうだな。これからは、そういった努力も必要か…」


「難民達をうまく取り込み、農民として働かせてもいい。無理をさせなければ、女子供でも作業はできる」


 そう。<リンゴ>と司令官イブ、そして5人の姉妹たちで検討した結果、難民達の大部分を農作業に割り振るという方針になったのだ。テレク港街周辺に農地として利用できる土地は無いが、難民達が集まっている平原を畑にすることはできそうだった。起伏はあるものの、当面はそこを使うしか無い。将来的には、森を切り開いて農地化するのが良いだろう。


「そう、か…。当面の食料を準備し、仕事を与えれば…」

「男は兵士として訓練させる。女子供は、農作業を割り当てる。働けない者達は…当面、仕事の割り振りを考えさせるか、手が動くならば内職をさせればいい。給金の配布は無理でも、食糧を対価とすれば、数年は持つはず」

「…へっ。よく考えてるな。うちの会議に参加してほしいくらいだ」

「必要とあらば。とはいえ、当面はあなたに采配してもらうしか無い」

「分かってるよ、流石にな。全く、優秀すぎて末恐ろしい」


 クーラヴィア・テレクの説得に成功した、と<リンゴ>は判断し、次の手札を切ることにする。


「農地を開墾するなら、道具が必要。これは我々が提供する」

「そうか…。…いや、そうだな。頼もう。この街では、本当に対応しきれない。基本的には、全てそちらの指示に従うとしよう。なんとも情けないことだがな…」


 彼の返答に、<リンゴ>は安堵した。ここで意地を張られても、これからの計画の成功率が下がるだけで何も良いことは無かったからだ。おおよその賛同を得られたため、<リンゴ>は計画の開始を行うことにした。



司令マム。クーラヴィア・テレクによる賛同を得られました。計画を開始してもよいでしょうか?」

「ええ。よろしくお願いね、<リンゴ>。計画の進捗は適宜報告してちょうだい」

はい(イエス)司令マム


 まずは、食糧の確保だ。収穫している昆布の一部を乾燥工程に回す。イワシ系の群れる魚を捕獲し、これも干物にする。また、今回は魚の養殖も手を出すことにしている。幸い、ライブラリ内に養殖に関する論文なども収められていたため、設備さえ作ればすぐにでも対応可能だ。<ザ・ツリー>内の設備で筏などを作成し、テレク港街の沖で養殖を行うことにしている。


 こういった、食糧を作るための設備や農機具。こっそりと浸透させるためのボット類や、伏兵として利用するためのいくつかの戦闘機械。そして何より、緊急増産した干物類と飲料水。これらを完成した貨物船2番艦に満載し、護衛の駆逐艦チャーリーと共に、早速送り出す。


「今回は小舟カッターもたくさん載せたんだっけ?」

はい(イエス)司令マム。近海での漁や、養殖の管理に利用します。魚肥も製造し、大量の作物を育てることを想定しています。できれば先に栽培実験を行いたいところですが、時間が許しませんね」

「そうね。もっと早く決断していれば、どこかの陸地で先に試験でもなんでもできたんだけどね」


はい(イエス)司令マム。これを教訓とし、さらに精進します」


「ふふっ。よろしくね、<リンゴ>」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 気付いたら最新話……続きも楽しみにしてます! [気になる点] いずれは魔法などの解明もされて行きそうで楽しみです。個人的には異世界といったらファンタジー金属も外せないので転移前には作れなか…
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