第338話 やったか!?
「ターゲットを見失った」
正面ディスプレイの望遠映像には、吹き上がった土砂しか映っていない。
さすがに魔の森の奥地にセンサーを仕込む時間は無かったため、戦場の観測は遠隔でしか行えていなかった。
「情報収集機が移動中。現着までおよそ10分」
「先行させるわけにもいかなかったし、仕方ないか……」
<ザ・リフレクター>に気付かれないようにするため、付近に自動機械は派遣していない。
いくつかその巨大な甲羅にとりつけていたものもあったのだが、先ほどの攻撃に巻き込まれ、全てが破壊されている。
現在、待機させていた情報収集用のドローンを急行させている最中だ。
「砂煙は、あと数分で晴れるでしょう。<ザ・リフレクター>を視認できるはずです」
<リンゴ>が現場からの情報を解析しつつ、そう報告してきた。
望遠映像が切り替わり、遠景が表示される。
そこには、巨大なキノコ状の煙、あるいは雲が映し出されていた。
「おお……とんでもないことになってるわね……」
燃石が発生させた膨大な熱を受けた周辺大気が超高温に熱せられ、急激な上昇気流が発生したのだ。
キノコ雲は成長を続けており、かなりの勢いで上昇している。
「お姉さま! 映像の解析結果、出ましたよ!」
そんな現場の映像を無言で眺めていたイブに、アサヒが叫びながら駆け寄ってきた。
「あ、アイリスにも渡しておきますね! 時間があったら見てみてください!」
「わかった」
現場のコントロールを行っている<アイリス>には、さすがに詳細なデータを確認する余裕は無い。恐らく、アサヒが作った概要情報だけを確認しているのだろう。
その結果によっては、今後の作戦行動が大きく影響を受けるはずだ。
「もうちょっとしたら、映像でも確認できるはずですけども! とりあえず、粉塵に覆われる直前までで取れた情報で、どれだけの効果があったかを推定しましたので、報告です!」
砲弾群の直撃により、<ザ・リフレクター>は何らかの損傷を負ったはずである。
弾頭の持つ運動エネルギーは、衝突によって多くの部分が光と熱に変換されていた。
光はもちろん、熱も赤外線として遠隔で観測可能だ。
これらの情報を拾った複数のセンサー情報を統合し、現場で何が起こったのかを推定したのだ。
「さあさあ! ちょーっと気になったんですけどね! 燃石弾頭がこの魔法障壁に衝突して、とんでもない熱量が発生したわけですが……」
超スロー映像の中、次々と魔法障壁に衝突する燃石弾頭。弾頭は一瞬で潰れ、直後にまばゆく輝く光の球が出現する。
一点に発生した極高温が周囲の空気を熱し、火球が発生したのだ。
そして、これらの火球から放射される熱線が、<ザ・リフレクター>を炙る。
火球によって映像が急激に埋まっていく中、一瞬、首を甲羅内に引き戻す様子が確認できた。
運良く頭部にダメージを与えられていれば、という期待はあったのだが、さすがにそこまでは無理だったらしい。
とはいえ。
燃石の発する熱線により、<ザ・リフレクター>の甲羅に十分な熱ダメージが入ったということは、映像から確認できたのだ。
<レイン・クロイン>を利用した実験により、燃石の熱で炙られた脅威生物の肉体は、その強度が著しく落ちるということが実証されている。
つまり、<ザ・リフレクター>の甲羅は、魔法的な強靱さを失った可能性が非常に高いということだ。
「このように、しっかりと甲羅が熱せられ、表面が変形しているのが確認できます! つまり、魔法障壁を貫通して熱が伝わっているということです! この状態であれば、後続の劣化ウラン弾頭は直撃したはずですが……」
だが。
次の映像は、また衝撃的なものだった。
「これです! スローで繰り返し再生しますね。恐らく、何発かの弾頭は直撃していると思われます! ただし、この甲羅。これが、弾頭の直撃のタイミングとは別に、一気に爆発したようなのです!」
映像の中、甲羅が爆発する。大小の破片が、まるで散弾のように飛び散っていくのだ。
このあたりで、発生した煙や火球が拡大し、<ザ・リフレクター>の身体を覆い隠してしまう。そのため、映像解析ではこれ以上の情報は得られない。
「甲羅が、おそらくひとりでに爆発しました! 後続のほとんどの砲弾が、直撃より前にこの破片に衝突したんじゃ無いか、というのが解析の結果です!」
「えぇ……。なんじゃそりゃ……」
ダメージを受けたことで、自動で爆発する甲羅表面。
それはまるで。
「爆発反応装甲……? そんな機能まであるの、あの怪物????」
イブは、呆然とそう呟いた。
だが、そこにアサヒが補足する。
「それがですね、お姉さま! これはまだ推測の域ではあるんですが、リアクティブアーマーみたいな機能が最初から備わっていた訳じゃあなさそうっていう解析結果がでてきましてね!」
アサヒ曰く。
甲羅が内包していた、水分あるいは何らかの物質が、高温で熱せられたことで急激に蒸発。爆発的に膨張し、破壊された甲羅表面が飛び散ったのでは無いか、ということらしい。
「高温を伴う攻撃だからこそ、こういう反応が起こったんじゃ無いかーっていうのが解析AIから出てきた推測のひとつです! ただまあ、このリアクティブアーマー現象が問題でして……」
これらの破片が高速で飛び込む砲弾に衝突すれば、相応の衝撃を弾頭に与えてしまうのだ。
そうすると、その衝撃圧力で、先端に仕込まれた燃石が発熱。
これにより、魔法的な頑強性を弱める熱の発生が、かなり手前で発生してしまった可能性が非常に高いのである。
「想定だと、甲羅に直撃、そこにめり込ませながら発熱させることで、一気に甲羅を貫徹させるはずでした! ですが、甲羅に与える熱ダメージがかなり軽減されてしまったかもしれません!」
もちろん、極超音速で飛び込む劣化ウラン弾頭の破壊力は凄まじい。
魔法障壁さえなければ、十分なダメージを与えることが出来るはずだ。
だが、燃石を合わせた方が、より大きな衝撃を通せたのは間違いない。
「こう……甲羅の構成物質として、熱伝導率の高い物質が混ざり込んでいると、ああいう爆発現象が発生するかもしれない、とのことで。解析AIも、なかなか尖った予想を出してきてくれましたね! いやあ、教育した甲斐がありましたよ!」
「……一筋縄じゃあいかないわね。……そろそろ、煙が晴れるか」
アサヒからそんな説明を受けている間にも、現地の状況は刻一刻と変化していた。
砲弾の衝突によって発生した強烈な上昇気流に巻かれ、粉塵や煙が一部で薄くなっている。
そんな隙間から、遂に<ザ・リフレクター>の姿が確認できたのだ。
「おおっ! きてますねえ!!」
「これは……どうなのかしら……!?」
熱による蜃気楼でゆらゆらと揺らめく映像の中。
<ザ・リフレクター>の、破壊された甲羅が確認できた。
そして、それが赤く濡れているように見えるのは、流血の証か。
「ターゲットにダメージを確認。ダメージ量を算定中」
情報を受け取った<アイリス>は、リアルタイム解析を継続している。
今回のこの一連の砲撃で、<ザ・リフレクター>に対してどれだけのダメージを与えることができたのか。
もし有効な攻撃手段である、と確認できれば、あとはこれを繰り返せばいいのだが。
だが、その期待は、程なく裏切られることになる。
「大規模な振動現象を探知」
前線に最も近い<アイリス>が、最初にその現象に気が付いた。
大地が、揺れている。
地鳴りのような、咆哮のような音が、周辺に響き渡った。
「……!? 沈んでる!?」
映像の中。
<ザ・リフレクター>の山のような巨体が、目に見える速度で低くなっているのだ。
「……あ! お姉さま、これ、<ザ・リフレクター>が地下に逃げようとしてますよ!!」
「ちょいちょいちょいちょい! ありかいそんなん!!」
イブの上げる悲鳴の中。
<ザ・リフレクター>は、地中に吸い込まれるように、凄まじい勢いでその姿を消したのだった。
大怪獣が地面に逃げるのはお約束!(でもないか?)
ザ・ツリー側の誤算は、想定以上にザ・リフレクターが硬かったってことです。
燃石砲弾で柔らかくなる筈だったのに……!
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