表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
326/380

第326話 歴史の話

3巻発売中です。買ってね☆

「食糧増産も重要。我々が供給することは可能だが、無償で渡されたものでは、いつか愚かなことを考える為政者が出てくるのは自明」


「お前、さっきの主張……まあいい。そうだな、食糧が不足すれば国は荒れる。それを外国の援助に頼るってのも、とんでもなく不健全だからな」


 話題を強引に修正したアシダンセラ=アヤメ・ゼロは、投影ディスプレイに干渉して表示資料を変更する。


「故に、当面しのげるだけの食糧は融通するが、同時に食糧増産のための機材を、貿易という形で浸透させる。具体的には、農機具と肥料」


「……肥料は、その原料、作り方、効果も合わせて提供すると。知識の伝達は、あまり効果的とは思えませんが……」


「ああ、そこは心配するな。分かる奴だけが分かればいい、基礎教育まではさすがに俺らも面倒を見られないからな。目的は、情報をばら撒いて特権階級の独占を有名無実化することだ」


 アマジオ・シルバーヘッドが、アルバン・ブレイアスの疑問に回答する。


 当然、これらの方針は<アヤメ・ゼロ>とアマジオの間で共有済みだ。


 この場は、これから多くの物資運搬とその護衛として動くことになるアルバン・ブレイアス総提督に対する説明の場である。


「当面、治安維持は我が国の派遣部隊が行うことにしているが、最終的には現地で組織を作らせなきゃいかん。学のない奴らやら、野心が強すぎる奴らが力を持つと悲惨だからな。長期間、巡回を続ける必要はあるが」


「そのあたりはさすがに我等の管轄外ですが……ああ。人員の輸送は、海軍が担うことに?」


「そうだ。察しがいいな。国外派遣部隊だ、任期は短くしないと不満がでかくなる。まあ、半年程度が最長だろう。できれば、3ヶ月くらいで交代させてやりたい」


 ちなみに、細かい現地作業は基本、<パライゾ>が行うことになっている。が、これは積極的に開示するつもりの無い情報だ。


 特に、人心掌握は人形機械コミュニケーターが得意とする分野だ。閉鎖的なコミュニティでない限り、いるかも分からない領主などよりよっぽど慕われることになるだろう。それは、たまに来るだけのレプイタリ王国の部隊よりも、という事でもある。


 ちなみに、レプイタリ王国の派遣部隊は正当性を主張して回ることになっている。


 為政者にとっては、悪魔のような所業であろう。

 自分たちの株は下がり続け、他国の評価は上がり続けるのだ。


「配給できる食糧は、麦や干し肉などの長期保管可能なものばかりになる。色々と検討したが、これ以外のものは実現性に乏しい」


 続けて、アシダンセラが提供する食糧について苦言を呈した。政治的配慮で、あまり多くの種類の保存食を選定できなかったのだ。


 <ザ・ツリー>が保存食を提供するとなると、下手するとレプイタリ王国本土の食事よりも豪華な配給食が配られることになりかねない。


 アシダンセラとしては残念だろうが、味は二の次である。


 そもそも、あまり品質のよいものを配ると、横流しなどの問題に発展しやすい。故に、レプイタリ王国内、あるいはその他の国からでも調達可能なものを選定したのである。


 ちなみに、小麦や干し肉は適切に乾燥させていれば、かなりの長期間の保存が可能だ。そういう意味で、食品の海運は適さない。湿度は大敵だ。


「これからの方針は、ひとまず理解しました。気になるのは、この事業そのものの採算性ですが……申し訳ないのですが、私の頭ではどうしても、利益が出るところが想像つきませんでした。そのあたりは、ご説明いただいても?」


「ふーむ……。そうだな。直接的な利益も、出そうと思えば出せるとは思うがな」


 アマジオは、ふむ、と頷き、顎に右手を当てて考え込む。


「単純に、支援物資を借款扱いにして、将来的に取り立てることも出来る。まあ、あっちの国が最終的にまとまることが前提だがな。あるいは、ずっと内戦が続くなら、こっちから軍を進めて資源を確保することも出来る。まあ、こいつは周辺国家からの反発がでかいから微妙だが」


「それは……私も考えましたが、あまり利益が出るというほどでは」


 国家として、自国の権益を最大限とする。

 それを前提にすると、確かに、現状の手の出し方は理解しにくいだろう。


「まあな。主な目的は、プラーヴァ神国の僧兵どもの防壁だ。軍を送るより、現地で対応してもらった方が我が国の損失は少なくて済む。あとは、周辺国家に恩を売るってところだ。北方諸国は鉱山の多い地域でもある。我が国の企業を送り込んで、利権を確保して開発させることもできる」


 と。


 もっともらしいことをペラペラと喋るアマジオであったが、その目的は当然、<ザ・ツリー>によるプラーヴァ神国完全支配の隠蔽である。

 いくら相手が海軍のトップで、昔なじみとは言え、そんな目的を口に出せるはずが無い。


「まあ、いまいち釈然とはしませんが、理解はしました。少なくとも、我が国が一方的に持ち出すわけでは無いと分かれば、いいでしょう」


「本当は、こういう話も俺は通さずそっちでやってもらいたいものだがな?」


「はっはっはっ……。……申し訳ないが、もう数年はしないと、まともな人材が揃わんでしょう。伝統(レジェンダリー・)元老院(セネト)も陸軍も、腐りきっておりましたゆえ」


 肩をすくめ、アルバンはそう愚痴った。海軍が外征に明け暮れ、国内統制をサボっていたツケである。


 レプイタリ王国の国内では、大きな粛正により、様々な人員が払底してしまっていた。


 そしてその補填を、アマジオ・シルバーヘッド公爵が単独で行ってしまっているのである。

 

 拡張(アーギュメント)頭脳(・ブレイン)構造体を使いこなせば、一国の舵取りなど造作も無い。しかも、主要都市にはボット群による諜報網が張り巡らされているのだ。

 ほとんどの情報は制御筐体に集約され、自動的に適切な指示が発生する仕組みになっていた。


「5年か10年か、そのくらいで俺の手から離れてくれるのが理想だぜ。その頃にはお前も引退だろう? 心置きなく老後を過ごしたけりゃ、気張るんだな」


「分かっておりますとも。あなた様と同じく、田舎の領地にでも引きこもって余生を過ごすのが、私のささやかな夢ですからな」


「それはささやかか……? まあ、昔よりはよっぽどマシな状況ではあるか……。いま、この時も、些か綱渡りだったがな」


 いろいろとこれまでの出来事を思い出したのか、アマジオはため息をつく。

 その様子に、おや、という表情でアルバンは身を乗り出した。


「その言いようですと、何か私の知らない問題でもあったのですかな……?」


「…………」


 そう問われ、アマジオはしばし考えるように宙を睨んだ。


 傍目には何かを迷っているように見えるが、実際はAB構造体を経由して<ザ・ツリー>と膨大なデータのやりとりを行っている。

 何をどこまで開示するか、それを超越知性体<リンゴ>とやりとりしているのだ。


「まあ、お前ならいいだろう。我々ご自慢の海軍ネイビーは、一歩間違えれば壊滅させられた可能性がある」


「……何ですと?」


 アマジオは肩をすくめ、同じ席で黙々と菓子を口に運んでいるアシダンセラを見やった。


「お前達、テレク港街に艦隊派遣しようとしていただろう。派遣直前にパライゾが来て全てをひっくり返しちまったようだがな」


「それは……はい。そうですな……」


 その<パライゾ>の目の前で、そんな話をしていいのか。表情でそう語るアルバンだが、アマジオは頷くことでその不安を払拭する。


「パライゾ艦隊の行動が1ヶ月遅れていただけで、最悪、彼女らとテレク港街で鉢合わせしていた可能性がある、ってことだ。幸いにして、その未来は避けられた。もう笑い話にしていいだろう?」


「な……ん、と。いや、そう言われると、時期的には確かに……」


「我々が衝突する、という事態は避けられた。それでこの話は終わりだ、アルバン殿。双方にとって、実に有意義な結果となった。それは間違いないだろう?」


 ドライ=リンゴの補足に、アルバンは無言で頷く。


 今、彼の頭の中では、パライゾ艦隊とレプイタリ海軍が衝突した場合の予想が行われているのであろう。


 <パライゾ>の技術力をよく知るアルバンだ。その予想の結果は、悲惨な物であるに違いない。


「……まさに、綱渡りでしたな……」


「おうよ。ま、おかげで何もなかったんだ。つまらん過去のことなど、考える必要は無かろうよ」

さて、少しだけ異なる歴史への言及がありました。

ほんの1ヶ月、レプイタリ王国への対処が遅れていたらどうなっていたのか。


★第3巻の宣伝

うーん、気になりますねー。辿る歴史が違う物語がどこかに……あっ! これは、KADOKAWAから出版されている「腹ペコ要塞は異世界で大戦艦が作りたい World of Sandbox」じゃないですか! しかも、2024年9月30日に第3巻が発売されていますよ! もしかすると、WEB版とは違う歴史となった物語が読めるかもしれません! 早速買わないと!


KADOKAWA公式 https://www.kadokawa.co.jp/product/322401000142/


腹ペコ要塞は異世界で大戦艦が作りたい3 World of Sandbox ( https://amzn.asia/d/4YROivn )

ISBN:9784047378971

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
Web版読み終わってから読もうと、買ってからまだ読んでないけど、アマジオと敵対世界線なの…?地味に好きなキャラなんじゃが…
[良い点] 更新乙い [一言] >>為政者の正当性 暴力と、モノ!! >>販促 ダイマはいいぞ!!
[良い点] 基礎知識の義務教育化は甘塩さんの仕事でしょ(笑) 腐敗分子の“頭”を文字通り入れ換えて、馬車馬のように使えばいいのよ。 奴隷化の魔道具がある世界なんだから、機械を埋め込んで機械人形に改造…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ