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第319話 閑話(とある森の国2)

 アフラーシア連合王国、そして森の国(レブレスタ)間の貿易量は、日に日に増加していた。


 当初は東門(East gate)都市(city)で行われていた交易だったが、継続的かつ大量の品を取引できると分かってきたため、森の国(レブレスタ)の商人達はぞくぞくとこの小さな町を目指して集まってくる。

 そして、それを捌ききる能力は、東門(East gate)都市(city)には無かった。


 もちろん、<ザ・ツリー>が梃子入れすればなんとでもなるのだが。


 東門(East gate)都市(city)担当のI級戦略AI<フラガリア・ゼロ>は、現地住民の雇用を重視する方針とし、<ザ・ツリー>は直接手を出さないよう気を使っているのである。

 とはいえ、全てを従来通り手作業で対応させているというわけでも無い。

 必要に応じて重機も使用させるし、道具類も提供していた。

 あくまで、超科学による急激な改造を抑制しているというだけである。


 ちなみに重機については、ノースエンドシティの冒険者達であれば似たようなことが可能、という理由で、ほぼほぼ相場で貸し出しを行っている。


 そんな状況で、東門(East gate)都市(city)も拡張は続けているのだが、全く人が足りていなかった。

 たくさんの他国の商人が来たとしても、その日の寝床にすら困る事態である。


 そうして、その問題の対応に迫られた森の国(レブレスタ)側は、国境近くの自国領に、新たな宿場町、あるいは関所を作り上げたのである。


 その街の名は、ルワーナ。


 <パライゾ>謹製の物資が大量に運び込まれ、あるいは森の国(レブレスタ)国内から様々な荷物が集まってくる、一大物流拠点である。


◇◇◇◇


「そのまま、そのまま……はい! 止まれ! いいぞ!」


 その積み込み場では、誘導員が大声で多輪輸送車を誘導していた。

 多輪輸送車は、アフラーシア連合王国――否、<パライゾ>から貸し出されている大型の貨物車だ。

 それを運転しているのは、森の国(レブレスタ)の人員である。


 東門(East gate)都市(city)で物資を積み込み、それをルワーナで下ろす。

 ルワーナでまた荷を積み込み、東門(East gate)都市(city)へ運び込む。


 馬車では輸送効率が悪いため、<パライゾ>側から提供を打診され、しぶしぶながら森の国(レブレスタ)が了承したものだ。


 森の国(レブレスタ)としては、明らかに自国のものより高性能の貨車、自動機械の流入はなるべく避けたいのだろう。

 自国の産業が壊滅しかねないのだ。慎重にもなる。


 当面、東門(East gate)都市(city)とルワーナの間でのみ運行が許可されていた。


 もちろん、商人達には不評だ。馬車の何倍もの速度で、何十倍の積み荷を一度に運ぶことができるのである。例え使用料が掛かるにしても、馬と馬車を維持するコストに比べれば……という考えになるらしい。


 そんなわけで、ルワーナから森の国(レブレスタ)全土への輸送は、馬車と水運が使用されている。こちらは現在急ピッチで輸送路が整備されており、移動が楽になったともっぱらの評判だった。


「穴熊どもが興奮していたと聞いたが、まったく、とんでもないものを寄越してくれるわ」


 特に、輸送効率に直結する、足回りに関連する各種の部品。

 これらはもともと岩の国(ドラディア)からの輸入に頼っていたという事情もあり、比較的すんなり森の国(レブレスタ)に受け入れられた。

 そして、その性能は従来品よりも相当に高いものだった。


「穴熊どもも腕はいいが、とにかく、形が全て揃っているというのが信じられんらしい」


「おなじものを大量に作るのは、我らでも苦労するのだ。長老会ル・エルフィアが直々に口を出してくるのも分かるな」


 新設されたルワーナ議会では、連日、このような議論が行われていた。

 次々と<パライゾ>からもたらされる品々を調べ、輸入の許可を出さなければならないのである。


 特に、国内物流に大きく関わり始めた金属部品は、慎重に扱う必要がある。

 ともすれば、国内産業を人質に取られかねない、戦略物資になり得るのだ。


「大量に導入するなら、万が一取引量を絞られた場合に代替手段が取れるものに限る、か」


「実際、穴熊どもに可能なのか? ここからは反対側だ、情報が遅くて敵わん」


 穴熊――岩の国(ドラディア)の主要な構成種族であるドラーダ人は、伝統的に山岳地帯の地下で暮らしている者が多い。

 岩を掘り抜いた地下の道での生活に特化した体格で、背が低く、大変に強靱な筋肉が全身を覆っている。ずんぐりむっくりとした身体を持った種族だ。


 そして、そんな生態だからこそ、鉱山を掘り返し、産出した鉱物を利用する技術が非常に高いのだ。

 金属製品全般の扱いが苦手なレブレスタ人にとって、無くてはならないパートナーなのである。


 ただ、手芸に関する拘りが強く、かつそれ以外の生活全般への興味が薄いドラーダという種族と、容姿を重視し気高い者が多いレブレスタ人において、その性格の違いによる衝突がまま発生するという問題はあった。


 とはいえ、どちらも長命種であり、両者ともにいけ好かないが交易相手として無くてはならないと理解しているからこそ、ギスギスしつつも関係をずっと続けているという事情がある。


 岩の国(ドラディア)としても、多くの食料や魔道具の動力源たる魔石を供給してくれる森の国(レブレスタ)との関係は重要だった。


「一応、あれらの技術で作り上げたものはいくつか回ってきている。時間は掛かるが、同じような精度で作ることはできる、とな。だが、価格も高いし、そもそも同じ形で大量に作るのは、やはり難しいらしい」


「いろいろと<パライゾ>人にも話を聞いたが。大量に同じものを作るからこそ安くなる、とは言っていたな。一品ものを作るだけなら、単体の価格はもっと高くなると」


「私もそれは聞いたぞ。それを作るだけなら、穴熊どもに頼んだ方が安上がりとな」


 同じものを大量に生産する。その技術を、なんとか岩の国(ドラディア)に会得してもらいたいものだが、そもそも森の国(レブレスタ)でもあまり実現していない。


 ようやく、機織り機が安定的に動作するようになってきたところなのだ。


 そして、布地についても、<パライゾ>からは多く供給され始めている。


「中央の機織りは、それこそ<パライゾ>の部品を使ってずいぶん良くなったと聞いたが……」


「背に腹は代えられんと、遂に岩の国(ドラディア)に共同開発を持ちかけたとも聞いたな」


 森の国(レブレスタ)国内で機織り機が安定稼働できる目処が立てば、少なくとも、糸や布の輸入はより量を増やすことができるだろう。


 幸いなことに、<パライゾ>産の布地は――恐らく彼女らの好意ではあろうが――かなり高額で取引されており、その流通量も厳密に管理されている。


 当面の間、国内では高級品としての用途で使用されるだろう。

 そして、国内産の機織り布地は普段使いのものとして流通量を増やすことができる。


 もちろん、その思惑も機織り機の稼働が前提ではあるが。


「硝子製品や陶磁器もサンプルが来ているな。これも……提示された量の桁が違う……」


「我が国内の年間消費量と変わらんぞ。無理だ無理」


 物流の専門家達は、ああでもない、こうでもないと会議を続ける。


 結局、硝子や陶磁器は、製品では無く原料の輸入ということで決着した。不純物の無いクリーンな原料を使えば、混じりけの無い美しいものを生産できるようになる。


 最悪輸入が滞っても、国内産出の従来品を使用すればいいだけだ。


 見た目は悪くなるだろうが、使えないほどでは無い。


「我が国からの輸出ができていることだけが救いだな……」


蝶の魔物(ソウルバタフライ)の素材を優先して回せているからな。量が量だからだぶついていたところだ。それは助かるし、恐らく今後数年は多く産出できるだろうが」


「あの縄張争いが落ち着いたら、また希少な素材に逆戻りか……」


 現在、対<パライゾ>の主力輸出品となっている蝶の魔物(ソウルバタフライ)は、魔の森の奥部で発生していると考えられる、何らかの強大な魔物同士の縄張争いの余波で大量に出現している。


 縄張争いが落ち着けば、当然、その出現頻度も落ちることになるだろう。

 つまり、それに変わる輸出品を今から見繕っておかなければ、数年後に国内流通が阿鼻叫喚になる可能性があるということだ。


「これも頭が痛い問題だ……」


「当面は、付加価値の高い魔道具か工芸品を出していくしかないが……」


 もういっそ、素直に<パライゾ>の少女達に助けを求めた方がいいのでは無いか。


 そんな頭の悪い意見が出る程度には、ルワーナ議会は混迷を極めていた。

すみません、最近閑話が多めですが……。うーん、でもこの物語、閑話の方が面白いまであるな……。

もうちょっと姉妹達に頑張ってもらいましょう。そうしましょう。

というわけで、森の国のお話でした。

現在の舞台の中では、かなりの先進国です。なので、いろいろと悩んでもらいます。

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― 新着の感想 ―
閑話好きなので多くてもいいです
[良い点] 現地民の苦労も面白いからヨシ!! 無能でもなんでもないから読んでて楽しいのよね 無能でもなんでもないからこそ、本人らは苦悩してるんだけども…
[良い点] 閑話で物語の深みが増して面白くなるのでいいです [気になる点] パライゾの他の勢力側への主人公の公開はどう行われるのか気になります。 女王陛下のお出まし楽しみにしています
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