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第314話 アサヒ・オン・ステージⅡ (1)

「魔法とは何か!」


 ばーん、と後ろにオノマトペを表示し、朝日アサヒが叫んだ。


「アサヒ、ボリューム下げて」

「アサヒ、うるさい」


 壇上で、アサヒはうんうんと頷き、手を振ってスライドを表示する。


「それでは、現状分かっている内容をまとめましょう! 情報共有です!」


 聴衆からの野次を完全に無視し、もちろん音量も落とさず、アサヒは続けた。


「アサヒは元気ねぇ」


「はい元気ですお姉さま!!」


 最初にスライドに表示されたのは、何かの装甲板のようなものを貫いた槍の画像だ。


「こちらは、アフラーシア連合公国はノースエンドシティの冒険者の方々にお願いして実験した、そのときの映像です!」


 スライド上で、その実験の様子を記録した映像が流される。


 身体の各部に観測用のマーカーを貼り付けられた被験者が、振りかぶった槍を投げた。

 凄まじい勢いで投げられた槍が、目標である積層装甲板に突き刺さる。


「このように! 何の変哲も無い、穂先が青銅の槍ですが! 魔法の力を借りると、我々の誇る装甲板すら容易に貫きます!」


 その実験映像に、イブはおお、と声を上げた。

 なんだかんだで、こういう理不尽ファンタジーな解析映像をじっくりと観察するのは初めてである。


 今まで見ていたのは、怪獣大決戦のようなものばかりだったのだ。


「そして、もうひとつ!」


 アサヒが次に映したのは、別の板に対する実験の記録映像である。


「こちらは、<ビッグモス>の素材から作り出した装甲です! ファンタジーな作用でやたら強度が高いという、とても理不尽な素材です!」


 映像の中、同じように投げられた槍が、装甲を貫く。だが、先ほどとは異なり、穂先が半分ほど刺さったところで止まってしまった。


 生体由来の有機化合物が、化学的な見地では遙かに強靱なはずの積層装甲よりも強度的に優れているという、実に理不尽ファンタジーな結果を示しているのだ。

 リンゴ達、科学の申し子たる情報知性体が眉をひそめるのも無理は無い。


「これ、仕組みを解明しようとしても困難極まりないので、そこは脇に置いておいてですね。この比較試験で気がついたのは、この槍の穂先です!」


 アサヒはヒートアップしながら、スライドを切り替えた。


「積層装甲を貫いた槍の方は、穂先は鋭利なまま! 硬い金属やセラミックと衝突したはずなのに、たかが青銅が形を保っているとか、まあ意味が分かりませんよね! ところが、こちらのビッグモス装甲! こちらに使った穂先は、このように、しっかりと損耗しているんです!」


 実験後に回収された穂先の拡大画像が、大写しで表示される。

 確かに、ビッグモス装甲を貫いた穂先は先端が潰れ、全体的に傷が付いているようだった。


「で、それならばとビッグモス装甲と積層装甲を組み合わせたもので実験したんですが……」


 次の映像では、表面のビッグモス装甲は貫通したものの、裏の積層装甲は僅かに凹む程度で弾き返された槍、そしてその穂先の拡大画像が表示された。


「なんとなんと! 今度はしっかり、積層装甲が仕事を果たしました! ちょっと計算より傷が深いんですが、まあそれは今更なので無視するとしてですね!」


 ビシリ、とポーズを決め、アサヒは叫ぶ。


「魔法は魔法で防げます!」


 ジャーン、という効果音とともに空中ディスプレイが瞬き、『魔法 VS 魔法』というテロップが表示された。


「この惑星の住民達は当たり前のように魔法を使っています! たとえば<貫通>とかそれに類する名前の付けられた技があるんですが、これを使われると、どんなに強靱な装甲でも、だいたい貫かれてしまいます!」


 <貫通>の魔法を使うと、そこら辺の枝を使っても、鋼鉄板を貫くことができる。それも、枝側には損傷無く、だ。


「ただし、それは<貫通>するという事象にのみ適用されます! <貫通>の魔法を使って斬撃を放っても、<貫通>の効果は限定的で、ぶつかったところこそ破損しますが、斬られるということはありませんでした! ですので、<貫通>の魔法は<貫通>させることに特化しており、攻撃力、打撃力が上乗せされるということではない、ということが分かりましたね!」


「……んー。つまり、単純に威力が上がってるわけじゃない、ってことかしら?」


「はいお姉さま、その通りです! あと一応、硬く、分厚いほど<貫通>の効力は落ちるようで! 厚さ1mのコンクリート壁を<貫通>させることは、なかなか難しかったんですよね! 同じ厚さの土壁は余裕だったんですが!」


「それだけ聞くと、威力の問題のような気がするけど……」


 アサヒは、いろいろな条件で実験を繰り返していたらしい。だいたいの記録は、装甲の強さに比例した結果となっていたのだが。


「興味深いのは、自己修復性を持たせた壁の場合ですね! これ、内部の空隙にジェル状の衝撃吸収剤を充填したタイプで、穴が開いた程度ならすぐに塞がって、空気中の酸素と反応して表面が硬化するっていうものなんですが……」


 このタイプの壁だけ、<貫通>の効果の魔法にも関わらず対象が大きく破損したのである。それも、自己修復性が発揮されないレベルの大穴があいたり、亀裂が入ったりなど、明らかにただの槍で突いても発生しない破壊だ。


「で、最終的に、積層装甲板よりもよっぽど脆弱なはずのこの自己修復性装甲の方が、<貫通>の魔法に対する耐性があると結論づけました!」


「普通の装甲板は穴が開くけど、こっちは完全破壊される? <貫通>って名前にしては、妙な効果ねぇ……」


「そうなんですお姉さま! ま、まだまだ仮説なんですが、どうやら<貫通>の魔法は、対象を<貫通>する結果を発揮するのではないかと!」


「……?」


 アサヒのそのまとめに、全員が首を傾げる。


「つまりですねぇ……。<貫通>の魔法、どうやら、対象を貫通できるように威力や硬さを向上させているわけでは無くて、貫通した結果として、それに耐えられるように弾体が強化されているんですよ。結果が先で、現象が後。なかなか面白い仮説だと思いませんか?」


 対象を<貫通>するという結果を引き起こすために必要な強度と威力が、撃ち出した槍に付与される。それが、アサヒの立てた仮説だった。

 ゆえに、自己修復性のある壁を<貫通>させるため、過剰なまでの威力が発揮される、ということらしい。自己修復できないほどの損傷を与えなければ、<貫通>できないからだ。


「これ、魔法の使用者が対象が何かを知らなくても、自動で威力調整されるんですよ。量子乱数を使って対象を選定したにも関わらず、必要な威力が発揮されるんです。これは何度も実験したので、ほぼ間違いないと見ています!」


 ちなみに量子乱数器は、与えられた初期状態が全く同じでも得られる結果が異なるという、完全な乱数発生装置だ。物理的に、発生する乱数を予測できないのである。


 科学的には完全なランダムにも関わらず、<貫通>の魔法は正しくその効果を発揮する。つまり、魔法は物理現象にとらわれないということだ。


「ってことは、その<貫通>の魔法を使った攻撃を食らったら、うちの兵器は間違いなく貫かれるって、そういうことになるのかしら?」


「そうだったら絶望的なんですが! どうやら、できることは有限のようです!」


 これは、魔法の使用者の認識に依存するようですが、とアサヒは前置きし。


「装甲の後ろに、十分に間を空けて別の装甲を隠していた場合、前の装甲は易々と貫いたにもかかわらず、後ろの装甲で受け止めることができました。あるいは、十分に厚くした装甲であれば、魔法使用者が魔力枯渇の症状を発症し、途中で槍が止まったこともありました」


「……そうか、魔力ね。その現象を起こすのに十分な魔力が無いと、中途半端な結果になるっていうことか」


「はい、お姉さま! そして、魔法はどうやら、魔法と食い合います!」


 科学的な分析結果として、と、アサヒは<ビッグモス>装甲を改めて表示する。


「キチン質ベースで、謎の分子構造も見受けられましたが、魔石と切り離せばだいたい予想通りの硬さです! 物理的にはそれほど硬くありません! 元が柔らかいので、<貫通>の魔法とぶつかると容易に貫かれるんですね!」


「硬質化させる魔法と、貫通させる魔法がぶつかって、双方が無効になるってことかしら?」


「たぶんそんな感じです、お姉さま!」

魔法って何なんだ、というひみつに迫る回です。続きます。

アサヒちゃんに喋らせると、長くなりますね。


★Twitter ( @Kaku_TenTenko )、活動報告などもご確認ください。

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新ありがとうございます!
[気になる点] アサヒちゃんはまだ魔法少女にならないのですか? 魔法を使うアサヒちゃんが見たいです。 [一言] 『硬質化』の魔法も『貫通』の魔法も魔力付与系ですね。 今の話だと『貫通』の魔法は、目標…
[一言]  ゲームなら貫通属性の属性値強化とかと言えば終わる話なのに、ゲーム的なワードを制限して説明するとなったら、ここまで遠回しになるのか……(驚愕)
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