第313話 家族会議
『お姉さま、有線センサー網の運用は順調ですね!』
「そうね。ノースエンドシティの方でも運用実績が溜まってるし、こっちのプラーヴァ神国もちゃんと機能してるみたいね」
魔の森に生息する魔物の一部が、電磁波に敏感に反応するということが判明して以来、<ザ・ツリー>では解決方法の模索を続けていた。
当面は超指向性の電磁波を使用するか、あるいはケーブルを引き回す有線接続、それも極力電磁波を漏らさないシールド線、または光ファイバーを使用するという対応を行うことが決定されている。
「司令。センサー情報の統合解析により、魔の森内部での大規模な生物群の移動が確認されています。注意が必要です」
「……ほう、大移動。いつぞやの死の行軍ってほどじゃない、のかしら」
『そうですね! どちらかというと、縄張の移動ですね! あちこちで動物たちや魔物たち同士の衝突が発生しているようです!』
各地に設置しているセンサー情報から、精度の良い情報が集まっている。それらを解析することで、森に暮らす魔物や動物たちの分布状況が判明してきていた。
特に音波のリアルタイム解析により、同一個体の追跡調査が可能になったことが大きいだろう。
森の内部に、使い捨てと割り切って小規模な拠点を建造。金網で囲うなどの補強策をとりつつ、有線で電源供給を行い、内部で解析用の演算器を稼働させることで、情報解析を現地で実施しているのだ。
データの転送遅延の問題を解消したことで、最終的に上がってくる情報の精度は格段に上昇している。
「やっぱり、大型の魔物がいると装備損耗が激しいみたいだけど……」
『ですね! いまのところ、そういう情報を集めるという意味でも監視網の拡大に取り組んでいますので、大丈夫ですよ! 金属反応も集まっていますので、そのうち有望な鉱脈も見つかると思います! そうすれば、損失を補って余り有る資源が手に入りますので!』
大型の猪や熊、あるいは攻撃性の高い鹿のような魔物。それらが縄張を変更する動きに伴い、構築済みのセンサー網が破壊されたり、あるいは演算拠点が潰されたりという問題は発生している。
ただ、それらが破壊されるという事実の観測も、有益な情報として処理できていた。
それに、破壊されれば新たに作ればいいだけだ。
以前の腹ペコ状態と比べ、現在の<ザ・ツリー>の懐事情は、相当に改善しているのだ。
「順調と言えば順調ね。想定よりゆっくりになっちゃったけど、止まってるわけでもなし。いいんじゃない?」
「恐縮です、司令」
当初は、自動機械を投入することで一気に道を通す計画だった。
だが、それをすると、魔の森の奥部から脅威生物が出張ってくるなどの危険が想定されたため、外縁部から着実に開拓する、という方針に変更したのである。
「家族から情報がもらえて良かったわ。あのまま知らなかったら、陸上戦艦を突っ込ませてたかもしれないし……」
家族から聞かされた情報に、過去、突出して作り上げた前線開拓地が巨大な魔物に蹂躙されたというものがあったのだ。
それも、ある程度戦力が整ったところで、まるで狙ったかのように押し寄せてくる魔物達と、その親玉のような脅威生物が突っ込んでくると言うのである。
予想でしかないが、家族が一定の場所に集まることで何らかの反応、アサヒに言わせれば魔法反応が大きくなりすぎることで、何かを刺激してしまうのでは無いか、との予想だ。
『我々の機械群は、魔法とは縁はありませんが、電磁波はバリバリに放出してしまいますからねぇ。同じような反応が発生する可能性はありますので!』
実際、上空を飛ばした飛行機械には、魔物の群れが襲いかかってきた。
地上でも同じ状況になるというのは、容易に予想できたのである。
「自動機械達も充電タイプに切り替えたから、稼働時間がきついんだよねぇ~」
「漏洩電磁波対策にシールド搭載型にしないといけないし、勝手が違うんだよー」
現地に投入している自動機械群も、全てが漏洩電磁波対策を施した新型だ。開拓に合わせて充電設備も建設する必要があり、マイクロ波給電を使用していた頃に比べると、かなり進行速度が鈍っている。
「運用実績は積み上がっている。そのうち最適化できる」
「有線ですから、より密度の高い情報収集ができますし、支援も同様です。一長一短、といえばいいんでしょうか」
姉妹達からの報告に、イブは頷いた。
速度は失ったが、その分質が向上しているのは間違いない。
「それにしても、家族と共働できるのは助かったわね。私たちだけだったら、もっと時間が掛かっていたんじゃないかしら」
「はい、司令。同意します。有効な攻撃手段が開発できるまで、魔の森の開拓は停止していたかもしれません」
『あの方達、本当に強いですからね!』
そして、護衛戦力という意味では、前線で活躍する家族の働きが非常に際立っていた。
彼らは自動機械達と行動を共にし、襲い来る魔物達を撃退してくれるのだ。
まあ、彼らからしても、後方支援を完璧にこなしてくれる自動機械達は頼もしい味方のはずだ。
「なんとか取り込みたいわねぇ……」
『そうですねぇ!』
イブはしみじみと、そう呟く。
それはもちろん、家族を<ザ・ツリー>の一員として迎えたい、という意味ではない。
彼らの持つ魔法という技術を、<ザ・ツリー>で再現したい、という意味だ。
◇◇◇◇
「……ノイン殿。改めて、協力を感謝する」
定期会談の最初に、家族の総主教、トゥーランタがそう頭を下げた。
「また改めて、どうされた。トゥーランタ殿」
それに返答するのは、<パライゾ>側代表の<ノイン>。家族との調整役として活動する人形機械だ。
「あなた方のおかげで、我々は悲願達成の道筋を得ることができた。教皇や大司教は我が国の外に力を求めたが、正直、あまり期待はしていなかったのだ。……結果的に、我々はあなた方<パライゾ>という友人を得ることができたのだが」
「ふむ。まあ……そうだな。我々としても、あなた方が目指している聖地に興味を持っている。目的が一致したことは、幸運だった」
幸いなことに、<パライゾ>と<家族>の目的は合致していた。聖地に辿り着くことを悲願とするプラーヴァ神国と、聖地に存在する<トラウトナーセリー>という要塞の廃墟を目指す<パライゾ>。
そして、辿り着いた後については聖典にも記載無く、<法神>からの指示も無いため、その後は解放されることになる、というのが家族の見解だ。
聖地到達という悲願達成の後、彼らはただの人に戻る。そういった教義のようだ。
そのため、<パライゾ>の目的である<トラウトナーセリー>の調査を邪魔することも無い。家族と<パライゾ>は対立すること無く、協力体制を築くことができたというわけだ。
「とはいえ、まだまだ時間はかかる。数年をかけるつもりは無いが、数ヶ月で到達できるものでも無い」
「理解している。我らにとっては、それでも驚くべき開拓速度だ」
ノインの返答に、総主教トゥーランタは深く頷いた。
ゆっくりとだが、確実に前に進んでいる。そういう手応えがあるのだ。それは、これまでの一進一退を繰り返すだけの日々とは、明確に異なっているのである。
「ただ、この速度で道の開拓を続けるつもりであれば、いったん、我らの言葉を聞いてほしい」
「……分かった。話を聞こう」
その状況に、何か気になることがあるのか。トゥーランタは姿勢を正し、口を開いた。
「場所の選定は任せることになるが、防衛拠点を建設した方がよい。あまり奥に行きすぎると、多くの魔物に襲われるというのが、我らに伝わった情報だ。それは、斥候部隊が何度も観測した事実である」
トゥーランタ曰く。
魔の森の深い場所では、出現する魔物がどんどん強くなっていく。数も増える。そして、その兆候を無視したままにすると、やがて魔物の大軍に飲み込まれる、というのだ。
「恐らく、危機的状況となる前の段階で足を止め、態勢を整えなければならない。そして、できればその拠点には、聖都と同じような障壁を備えることが望ましい」
道を作って電柱を立て、電線を引く。電柱というか、レーザータレットですが。
そこまで意図したわけでは無いんですが、完全にタワーディフェンスですねこれ。
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