第310話 穴掘り兎
崩壊した給電塔。
その破壊された基礎で発見されたのは、小さな兎であった。
「……うさぎ」
『ええ、お姉さま! わりとメジャーな魔物のようですね! 現地の言葉で穴掘り兎、我々風に言えば<ディギングラビット>といったところでしょうか!』
金属製の檻に入れられたその兎を前に、アサヒはテンション高くそう叫んだ。
兎がビクリと身体を揺らし、檻の隅に縮こまる。
「アサヒ、声を抑えなさい。おびえてるじゃない」
『おっと、失礼しました。まあ、元来兎というのは臆病な生き物ですから、仕方ありませんね!』
「いや、あんたの声が大きいのよ?」
この<ディギングラビット>、かなり小型の魔物らしい。アフラーシア連合王国の開拓拠点、ノースエンドシティで収集した情報によると、ほぼ最小クラスの魔物だ。
魔の森に広範に生息しており、わりとどこでも見かけるとのことだ。
そして、この魔物の特徴は、卓越した穴掘り能力である。
穴を掘って生活しており、食糧も木の皮や木の根など。
どうやら、地面に潜り込んでいる状態で<ザ・ツリー>による整地が始まり、ずっと隠れていたようだ。
その状態で、すぐ傍に打ち込まれた基礎構造体を、その理不尽な能力でぶち抜いた、というのが真相であった。
『穴を掘るという行為に、謎の補正が掛かるようですね! 前脚が強化されているような数値も観測できました!』
「……構造体の、再設計もしないと……。力学的な弱点が、基礎に多数見つかったの……」
「あら……。まあ、基礎を直接攻撃されるっていうのは、あまり考えないからねぇ……」
がっかりしているオリーブの頭を撫でてあやしつつ、イブも困った顔になる。
「地虫みたいな脅威生物の目撃情報が無いから、油断してたわねぇ。地下に魔物が潜んでいるってのは想定外だわ」
『地中探査の解析アルゴリズムを修正しましたので、このディギングラビットはほぼ探知可能になりました! でも、他にも似たような魔物がいるかもしれないので、慎重に行く必要はありますね!』
既に、拠点の探査は完了。実際に、地面に潜んでいる、というか整地に伴って埋められてしまっていたディギングラビットが14羽も見つかったらしい。
このまま建造を続けていたら、また構造体の崩壊が発生していたかもしれない。
『とりあえず何羽かこうやってサンプルで確保しました。残りは駆除して調査に回しましたが! まあ、しばらくこういう魔物との攻防が続きそうですね!』
進出早々に躓いたものの、とりあえず何とかなった。地中を含めてクリアリングは完了し、前線基地は着実に完成に近付いている。
「それと、偵察部隊が狩られてる件だけど……」
「はい、お姉様。クライミングウルフ、またはフォレストベアと呼ばれる魔物による襲撃が発生しているようです。ブラックマンキーの縄張を越えた途端ですので、魔の森は本当に魔物がひしめいていますね」
クライミングウルフは、魔の森の密集する木々という環境に適応した魔物の一種だ。狩りは基本的に樹上の動物、魔物を狙い、地面に巣を作っている。
魔の森は、全体的に木々が大きく育っている。それは、日光以外の要因、おそらく魔素かそれに準じる何かを吸収して成長しているためだ。張り伸ばされた葉によって、地面に届く日光は抑制されるが、それでも木々は上に伸びている。
ただ、さすがに日光がほとんど無いという環境は厳しいようで、大きく上に伸びることができる植物以外は、あまり見られない。
そういう意味では、実は地面付近は植物が少なく、あるのは複雑に絡み合った根と、曲がりくねりながら上に伸びる枝や幹だ。
そして、そんな環境であるため、動物や魔物はそのほとんどが樹上に生活の場を移しているのである。
フォレストベアという魔物についても、主な生活の場は樹上である。ただし、それなりの巨体であるため、地面を移動することも多いようだ。
「狼に熊、ねえ。ブラックマンキーは捕食もされていたみたいだけど……」
「クライミングウルフ、フォレストベアはさすがにジャンパーを食べることはありません。縄張に侵入したところを迎撃されているようです」
クライミングウルフは群れでジャンパーを追い込み、狩っているようだ。
フォレストベアは、普通に追いかけて破壊されている。移動力が非常に高いらしい。
「うーん……。損害度外視で情報収集ってフェーズなのは分かってるんだけど、さすがに無視できない損耗率ね……」
「後方のバックパッカーが襲撃された例も出てきました。これ以上進出すると、バックパッカーを含めた偵察隊全滅、という状況になりかねないと判断しています」
「そうねぇ」
そうすると、だ。
やはり、根本的に攻撃力も防御力も不足している、ということだろう。
いま運用しているユニットでは、これ以上の侵攻が難しい、ということだ。
これを解決するには、さらなる強力なユニットを開発するか、あるいは。
「例の家族達と、本格的に共働するしかないかしらね……」
イブは、そう判断する。
「少なくとも、人間サイズで、あの防御力と攻撃力を持ったユニットを量産するのは難しいわ」
「はい、司令。現状の技術レベルでは、なにより地球型惑星上での運用、ということを考慮すると、更に数レベル分を上げる必要があるでしょう」
「それには、何らかのブレイクスルーが必要ね……。資源問題はクリアしつつあるけど、高機能材料の製造設備か、分子合成器か、そのあたり」
現在<ザ・ツリー>が運用している製造設備群では、素材そのものの強度を向上させたりするような高度技術は実現できない。
設備建設の材料が不足しているというのもあるが、ネックになっているのはエネルギー源だ。
分子合成器、あるいは原子変換炉などの高位設備を常用するには、膨大なエネルギーが必要になる。それを惑星上で賄うには、様々なリスクがつきまとうのだ。
例えば縮退炉だが、あれは内部にマイクロブラックホールを持っている。万が一事故が発生した場合、周辺数十kmを巻き込んだ大爆発、程度で済めば良い方だ。最悪の場合、星系を巻き込んでブラックホール化する可能性もある。
そもそも、生み出すエネルギーがあまりにも膨大なため、消費しきれずに暴発する恐れもあった。
そういった強力だが扱いが難しい設備は、せめて周囲数千kmに何も存在しないような、惑星間宙域などに建設したいのである。
そして、そういう設備でないと作れないものを惑星上で用意するのは、当然ながら非常に困難だ。
つまり、現状よりも高機能な自動機械を量産できる状況ではない、ということである。
『まあ、それは我々の科学技術体系に依る限り、という但し書きはつきますがね!』
そういった環境を含めて準備が必要なユニットと同等か、あるいはそれ以上の能力を発揮するのが、家族達なのだ。
『育成に最低でも14年掛かる、というところはネックですが、まあ、既にあるものを使うのであれば気にする必要はありませんね!』
「むしろ、14年あれば準備できるノウハウがちゃんとあるのね……」
プラーヴァ神国では、生まれた国民をある程度の年齢で選別し、基準に達している個人を集め、育成し、僧兵として運用していた。実際にそれを行っていた部門は神国侵攻戦で全滅してしまっているようだが、家族達もある程度それが可能な情報を握っていたのだ。
『我々の力と、実際の行動を見て、彼らはとても協力的になってくれましたからね! 目的が一致している間に限ってですが、全面的に協力してくれるはずですよ!』
どうやら家族は、<ザ・ツリー>が開拓した前線基地を見学し、非常に感銘を受けたらしい。
前線に基地を作っても、その防衛に人員を取られるためずっと難航していたとのことだ。それを、人的損耗を考慮する必要の無い自動機械が取って代わることができるというのが、非常に画期的だったらしかった。
穴掘り兎ちゃんは、みんなのご飯です(暴論
食物連鎖を考えるの、たのしいです。問題は、最底辺の筈の植物が捕食者に変わってしまうことですが。
どうするんだよおい……。
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