第306話 キラキラパーティー
腹ペコ要塞は異世界で大戦艦が作りたい World of Sandbox 3巻発売決定!!
プラーヴァ神国全土をその勢力下に収め、急激に拡張していく<ザ・ツリー>。
全ての敵性勢力を領土から追い出し、ある程度の安全と安定を確保した時点で、現地を統括する戦略AI<アイリス>のオーバーホール、詳細調査を行うことになった。
最前線の統括制御を行うという試みを行った直後であり、また、本拠地から遠く離れた場所での全力稼働を長期にわたって行ったという状況から、不具合が発生していないかなどの精密検査を行うのだ。
「そういう名目での里帰りと、お姉さまとの触れ合いが主目的ですけどね!」
「まあ、設置型だしそうそう動かせないっていうのは分かるわ」
現地の統括は<リンゴ>が補佐しつつ、ギガンティア搭載の<エレムルス・フォー>やタイタン搭載の<ウェデリアシリーズ>が引き継いでいる。
彼女らの慰労も別途行う必要があるが、それはさておき。
「<アイリス>が帰還しました」
<アイリス>のAI筐体を積み込んだ航空母艦<ミュルクヴィズ>が、<ザ・ツリー>の桟橋に着岸する。
同時に、<アイリス>が<ザ・ツリー>のローカルネットワークに接続。この日のために準備していた人形機械との完全同期を開始する。
とはいえ、<アイリス>の人形機械への完全同期接続は初めてのことであり、またいつぞやの経験からイブとの接触は刺激が強すぎるという判断から、付き添っているのは<リンゴ>の操る別の個体だ。まずは人形機械そのものに慣れてから、大好きなお姉さまとの接触に移る予定である。
「おかえり、<アイリス>。夜はパーティーだから楽しみにしておいて」
『はい、お姉さま。身体に慣れるのに、ちょっと時間をもらう』
「ええ。ゆっくりしていきなさい」
プラーヴァ神国征服と統一の功労者である<アイリス>だが、今回はもう1人、ある意味で新顔がこの場に参加している。
「朝日はその身体にはもう慣れたのかしら?」
「はい、お姉さま! 基本制御ソフトは<リンゴ>が用意していましたからね! 運動野をちょちょっと最適化すればこの通りです!」
普段はバキバキに強化された人型筐体で活動する、末娘のアサヒである。
他AIが人形機械の遠隔操縦によって身体を得るという運用経験が積み上がったため、アサヒも試してみたいとだだをこねたのである。
確かに、アサヒの筐体は一般的な人形機械と違ってほとんどが機械化されており、消化器系も貧弱なためいろいろとできないことが多かったのは事実だ。そもそも身体が無いAI達を優先していたということもあり最後になってしまったが、アサヒにも飲食可能な筐体が準備されたのだ。
「うーん……折角だし、<アイリス>のところに行ってあげたら? 境遇は、あなたが一番近いんだし」
「それもそうですね! それではお姉さま、また後で! ぎゅーん!」
というわけで、アサヒは危なっかしい足取りで走り去っていった。
「司令。AI筐体の運び出しは1時間以上掛かりますので、テラスに席を準備しています。あちらで過ごされませんか」
イブの後ろに控える<リンゴ>がそう促す。
直射日光の当たる屋外での露出は、<リンゴ>的には最低限に抑えたいのだろう。
そう、紫外線はお肌の敵なのだ。
「そう? じゃあ、そっちに移動しましょうか」
ちなみに、<リンゴ>はちゃんとパラソルを後ろで掲げており、イブを紫外線の脅威から護っている。相変わらずの過保護っぷりであった。
そして、それを疑問に思う知性体は、ここには存在しない。
「相変わらず暑いし、冷たいものでも飲みたいわねぇ」
「準備しています、司令」
「…………」
アイリスは、座らされたソファで固まっていた。
カチンコチンである。
「かわいいわねぇ」
そして、その後ろ。
満面の笑みを浮かべたイブが、目の前の少女の髪を梳っていた。
「容姿を褒めるとナルシストみたいでアレだけどね」
いま、この場に参加している人形機械は、全てイブの遺伝子をベースに製造されている。そのため、容姿を褒めるのは間接的に自身を褒めるのと同義になってしまう。
まあ、それを責めるような者もいないため、気にする必要は無いのだが。
「アイリスは明後日までいるのよね?」
「……はい、お姉さま。オーバーホールにおよそ20時間を予定している」
「今日明日はゆっくりしていきなさい。あんまり休日っていうのは設定できないしねぇ」
現地設置型の戦略AIは、構造上かなりの大型となる。また、現地を統括するという機能上、基本的には無停止での稼働が望ましい。イブの言う休日、何もせずに休息に充てる時間を取るためにはいろいろと準備が必要だ。
これまでは、戦略AI用の筐体を製造する資源を節約していた。
ただ、既にいくつもの鉱脈を掘り当て、油田を確保し、海底資源にも手を出している<ザ・ツリー>は現在、非常に潤っている。端的に言えば、バブルに沸いていた。
「現地の設置型AIは、複数並列化してのんびりできるようにしましょうか」
「はい、司令」
通常、AI筐体の並列化は性能向上または冗長性の確保のために行うものだ。それを、休日を設定するためだけに増やそうというのだから、余裕綽々である。
イブはAI達を家族と認識しているため、そういった発想が出てくるのである。
「アイリスの身体はまだあんまり稼働していないし、感覚器が育ってないからね。好きな味だけ食べなさい」
「はい、お姉さま」
新造された人形機械は神経系が未発達のため、特に味覚に関する神経伝達が混線しているらしい。時間が経てばある程度最適化されるのだが、<アイリス>はまだまだだ。
いわゆる、子供舌という奴である。
そんなわけで、<アイリス>のために準備されたパーティーの食べ物は、イブの感覚で言うところのお子様ランチ拡大版。濃いトマトソースを使用したものや揚げ物、チーズなどの乳製品を使った料理が所狭しと並べられている。
もちろん、デザートのケーキも準備されていた。
全て、アカネが張り切ってチョイスしたものだ。
アイリスは、アカネを基盤とする次世代AI、アヤメシリーズの量産モデルである。そのため、ひときわ思い入れが強いのだろう。
当然、アカネを基盤とするアイリスは、アカネと同じく書物と食事を愛する下地がある。下地があるというか、既に漏れ出ている。
「アイリス。好きなものを取っていいけど、最初は私から。きっと気に入る」
そして、不慣れなアイリスのため、アカネが取り分けた料理を彼女の前に置いた。自身の皿も一緒に持っており、そのままアイリスの右隣に座る。
「ありがとう、アカネお姉さま」
「司令、司令もどうぞ」
アイリスに付き添って左隣に座っていたイブには、<リンゴ>がちゃっちゃと料理を持ってきた。アイリスを置いて取りに行くというのも憚られたための気遣いである。
「ありがと、<リンゴ>。じゃあ、食べちゃいましょう。さ、アイリスも」
「アイリス、持てる?」
「ん……」
甲斐甲斐しく世話を焼き始めたアカネに、イブもニコニコだ。そんなイブを見て、<リンゴ>もニコニコである。
そんな感じでぬるっと始まった慰労会パーティーだが、参加する全員が大いにはしゃいでいた。特に、新たなボディを操るアサヒは、ここぞとばかりに口に食べ物を詰め込んでいる。
「ふもう! んぐっ! ぷはっ! おお、このナポリタンというパスタ料理はいいですね! 舌にガツンと来ますねぇ!」
「アサヒ~、ハンバーグはどう~?」
「エビフライもどうぞー」
「おお、ありがとうございますウツギお姉さまにエリカお姉さま!!」
「これ、オリーブがデコレーションしたんですか? すごく繊細ですね」
「うん……。これ。お姉さま」
「わあ、お姉さまのアイコンじゃないですか! あ、じゃあこっちは<リンゴ>ですね!」
そうして。
新たなAIを次々と迎え、より賑やかになっていく要塞<ザ・ツリー>。
ここからさらに、パーティーの規模を拡大させていく。
侵略戦争。
すみません、大変時間をいただきました。
原稿を書く方に力を割いているのと、ちょっと本業がつらくて夜になかなか時間が取れないので、筆の進みが遅くなっております。
もうちょっと、落ち着くまで更新頻度が落ちちゃいますので、ご了承ください。
で、です。
なんとか腹ペコちゃんの第3巻の出版が決まりました~。イェイイェイ!!
まだ発売日とか決まってないので、続報をお待ちください。
なんで決まって無いかって? 原稿がいつ上がるか分かんないからだよ!(ダン!!
すみません、わたしのせいですね。
えーっと、期待値上げておきますね。ストーリー刷新、書き下ろしは半分以上ですかね。
自業自得です、はい。つらいです。ご期待ください。
Amazon https://www.amazon.co.jp/dp/B0CLW4TZLQ?ref=cm_sw_tw_r_nmg_sd_rwt_cUN4RgETZZntS
BOOK☆WALKER https://bookwalker.jp/series/417083/list/




