第305話 航空戦力投入
「スマート砲弾、マッハ9で落下中」
あれからフローズ、ヤルンの2体と睨み合いが続いているが、2体はじりじりと下がっていた。
対峙するヨトゥンMは移動はせず、主砲を向け続けている。
その膠着状態の中、直上から赤熱した弾頭が降り注いだ。クラスター爆弾ユニットを切り離した推進ユニットが、質量弾として突入。その直後に大量の子爆弾が周囲に降り注いだ。
<フェンリル>2体は、直前に上空の弾頭に気付いたそぶりを見せた。だが、別方向から向かってくる極超音速ミサイルとの合わせ技だ。スマート弾頭とクラスター弾が地面を耕し、逃げようとしたフローズ、ヤルンの足元が吹き飛ぶ。
それでも、2体の<フェンリル>は不安定な足場を蹴り付け、ギリギリで退避に成功した。一瞬で音速を超える動きに、さしもの極超音速ミサイルでも制動が間に合わない。複数の質量弾頭が2体を掠め、大地を吹き飛ばす。
そして、これが決定打となったようだった。
すでに戦意を減退させていた2体の脅威生物は、凄まじい速度で身を翻す。
全力の撤退行動。
そこに、<ザ・ツリー>の追撃戦力が突き刺さる。
ヨトゥンM、多脚機械群が砲弾をばら撒き、レーザーが縦横を埋め尽くす。
追加で放出されていた対障壁ミサイルが次々と飛来し、逃げる2体を追い立てる。
ギガンティア部隊の、エウリュトス、テイア、レイア、テミスが全力砲撃を開始する。
<フェンリル>達の逃げ道を防ぐよう、絶妙に調整された攻撃。フローズもヤルンも踊るようにその攻撃を避けてはいるが、そのせいでうまく距離を取ることが出来ていない。
2体の運動性能を十分に観測した演算AIが、行動予測を行っているのだ。その予測精度は、時間が経つごとに向上している。
「すごー……」
映像は、爆煙と砂煙で覆い尽くされている。イブにはもう何が何だか全くわからないため、ただただ見守ることしかできない。
一応、各ユニットや<フェンリル>がワイヤーフレームで表示されているのだが。特にフローズ、ヤルンはそもそも動きが速すぎて、全く視認できなかった。
「攻撃機が発射した対障壁ミサイル、現着します」
ブレイザブリクの打ち上げたスマート弾頭が降り注ぎ、極超音速ミサイルや砲弾が大量に撃ち込まれる、この世の地獄のような戦場だ。
だが、それでも。
「<アイリス>は、これでも撃破には至らないと予測しているようですね、お姉さま!」
「当たれば倒せるのにねぇ……」
とにかく、攻撃が当たらないのだ。
逃げ道を塞いで無理矢理当てる程度では決定打にならず、集中すると避けられる。
動きを止める罠のようなものを用意しなければ、この<フェンリル>を仕留めることはできないだろう。
「捕獲ネットみたいなやつで拘束とかは……難しいかしらね」
「これほど瞬発力があるとわかっていれば、移動阻害用の装備も検討できました。やはり、脅威生物の対策は難しいですね」
イブのぼやきに、<リンゴ>はそう応えた。既存生物の枠にとらわれない、なんなら物理法則の枠からもはみ出している生物種。
雨あられと降り注ぐ極超音速の砲弾や子爆弾を認識し、的確に避け、そして最適な行動をとり続けていると想定される。
残念ながら、事前に設置していたセンサーはあらかた砲撃によって破壊されてしまっている。そのため、情報収集は現地自動機械によるものだけだ。
それでも、この<フェンリル>種と今後相対するに当たっての必要最低限のデータは集まっているだろう。
まあ、このまま撤退してくれるというのが一番なのだが。
「<アイリス>は意図的に逃げ道を作っていますね! フローズもヤルンも、それに気付いているようです! すごい能力ですねぇ!」
「フローズ、ヤルン共に間違いなく逃げようとしている。<アイリス>は、そのまま見逃すつもり」
<アイリス>は、ターゲットを的確に追い込んでいく。逃げ足を封じつつ、魔の森方向へ押し込む道を作っていた。そして、2体はその道を辿り、徐々に距離を離している。
「……今後の対応は?」
「はい、司令。このまま航空戦力を投入し圧力を増しつつ、魔の森近くまで追撃。その後、当初設定した防衛ラインの堅守。防衛設備の建築、防衛機の巡回を行い境界を定めます。今回の戦闘で押し込んだ領地は放棄し、緩衝地帯に設定することで、これ以上領域を広げないという意思を示す予定です」
<フェンリル>家族を元の魔の森の縄張りに押し込む、というのが計画の最終目標だ。討伐というのも一つのプランではあったが、また脅威生物の縄張り争いでしっちゃかめっちゃかになる可能性があったため、撤退させるというのは最上の結果だろう。
「お姉さま。護衛戦闘機が戦闘領域に到達しました」
「ブレイザブリクの砲撃はこれで最後~」
「戦闘機が対地攻撃を始めるよー」
さらに、ダメ押しの航空戦力が上空に到達した。極超音速ミサイルほどの攻撃力は無いが、超音速のミサイルでも十分なダメージソースになる。無誘導爆弾を装備している機体もあるが、目眩まし以上の効果は無いうえにそもそも動きが速すぎて当たらないため、こちらはただの重りになっていた。
「対地攻撃隊がミサイル投下を開始」
爆撃機が腹部の投下口を大きく広げ、抱えたミサイルを次々に放出する。空中に放り出されたミサイルは順次ロケットモーターに点火、目標目掛けて飛翔を開始。
圧倒的な数の火線が、空を彩る。
更に、ミサイルの後を追って機銃掃射のために戦闘機が高度を下げる。
超音速で迫る大量のミサイルに、複数の戦闘機。
この状況に、脅威を覚えたのか。
ヤルンが振り返りつつ、閃光を放った。動きの鈍ったヤルンを、フローズがその身をもってカバーする。
「ヤルンが火球とおぼしき攻撃を実行。初速、800m/sから1,000m/s。複数の火球を確認」
「対地攻撃隊が落ちたー!」
「ミサイルが一部撃墜~」
対空攻撃。火力集中のために密集していた爆撃機の真ん中で爆発が発生、半数が撃墜判定。
更に6発の火球が複数の場所で爆発し、飛翔中のミサイル群や戦闘機が巻き込まれた。
「爆撃機損耗率13%。戦闘機損耗率7%。ミサイル22%喪失。なかなかの攻撃力と攻撃範囲ですね」
「そのかわり、フローズがまた対障壁ミサイルを喰らったようですが……」
対地攻撃の圧力が減少し、その隙に2体が一気に走り出した。フローズは体当たりでミサイルを吹き飛ばしたせいで流血しているが、怪我を感じさせない勢いで逃走する。
「<アイリス>より報告。ヤルン、フローズは魔の森内に撤退しました」
砲弾による行動阻害が無くなれば、最高速度は超音速だ。2体の<フェンリル>は、一瞬でその姿を消していた。
取り逃がした形にはなるが、<ザ・ツリー>の脅威を正しく伝えることが出来た、という点では作戦目標は100点満点でクリアだろう。
「……よし。なんか思ったのと違うことがいっぱい起きたけど、結果良し!」
「はい、司令。<アイリス>は犬の散歩作戦の完了を宣言しました」
こうして、<ザ・ツリー>は大量の自動機械と砲弾類を消費しつつ、<フェンリル>を元の縄張りに追い返すことに成功した。
単純な消費資源だけを比べると、プラーヴァ神国侵攻作戦よりもよほど多い。
ヨトゥン複数が大破、モックアップタイプのヨトゥンMも最終的に3台が大破判定。四脚戦車、多脚戦車は数えるのも億劫なほどの数が全損。そのうち、百機以上が跡形も無く蒸発している。
砲弾やミサイルの消費量は言わずもがな。つぎ込んだエネルギーも膨大だ。相応に核融合燃料も使用している。
それでも、今後獲得可能な資源と比較すれば大した損失とはならないだろう。
<ザ・ツリー>は改めて、広大な土地を領土として確保した。<フェンリル>の縄張下であったため調査は出来ていないものの、周辺の土地相から予想すれば、それなりの鉱脈が眠っているはずだ。
「リザルトはまた後で、みんなで確認しましょうか。急ぎの仕事はあるかしら?」
「はい、司令。全て恙なく。<アイリス>を含め、先に慰労会を開きましょう」
ようやく追い返しました。
なろうファンタジー世界の魔物って強すぎませんか? 属性相性必須とか……。
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