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第304話 総攻撃開始

「前回はこれで引き下がりましたが、どうでしょうねぇ」


「足は止まったみたいだけど……」


 巻き上げられた土や岩石がバラバラと降ってくる戦場で、<ザ・ツリー>のユニット群と<フェンリル>の2体がにらみ合う。


 どうやら、またも傷つけられたことで非常に警戒しているようだ。

 現地戦略AIもその雰囲気を嗅ぎ取り、牽制の行動を選択している。


「時間稼ぎかもしれませんね! ほら、血は出てますが、量は少ないですし! うーん、解析によると、明らかに出血量が減ってるみたいです!」


「ええ……いや、そんな怪我って簡単に治るもんじゃ……」


 リアルタイム映像解析により、さまざまなステータスが数値化されている。そのうち、フローズの損傷割合が徐々に減っていた。

 それによると、左前足の怪我が凄まじい勢いで復元しているらしい。

 動きが止まっているのは、この治癒の効果を高めるためか。

 警戒を装い時間稼ぎをしているようだ、というのが<アイリス>の予想であった。


「とはいえ、こちらも時間を掛ければ掛けるほど有利な盤面に持って行けますからねぇ。<アイリス>は、航空戦力の投入を決めたようですよ」


 <フェンリル>に対してダメージを与える手段が確立したのである。あとは、それを繰り返すだけだ。

 そこで、ダメージソースとなる対障壁ミサイルを空中発射できる攻撃機を発進させたのだ。


 基地からのミサイル射出は在庫を気にする必要はないものの、戦場から距離があり、攻撃タイミングに制約が掛かってしまう。


 攻撃機にミサイルを搭載し空中発射を行えば、発射位置も発射タイミングも自由に選択できるのだ。当然、巨大なミサイルを積んだ攻撃機の運動性能は非常に低下するため、制空権を確保しないと使えないが。


「ゲーニー要塞より、飛行部隊が発進します。空中プラットフォームとして、ギガンティア級空中空母<エウリュトス>が戦闘空域に向かいます」


「タイタン級空中護衛艦<テイア>、<レイア>、<テミス>が軌道変更を開始」


「エウリュトスから護衛機が発艦を始めたよ~」


「ナグルファル級航空母艦<ミュルクヴィズ>も発艦開始~」


「フリングホルニ級戦艦<ブレイザブリク>……主砲照準開始。……スマート弾頭、クラスター砲弾を選択。……牽制射をする……みたい……」


 対<フェンリル>戦の後詰めとして待機していた戦力が、次々と出撃していく。

 フローズ、ヤルンが牽制を始めたため、こちらを脅威として認識したと判断したのだ。


 さらに、ブレイザブリクがおよそ900km離れた海上から自律飛行スマート弾頭の発射準備を行っていた。致命傷を与えることはできないが、目眩ましや牽制として使用するのだ。


 スマート弾頭は軌道変更能力を持ち、後部ロケットモーターにより射程延長や最終突入時の増速が可能な砲弾だ。

 今回はクラスター砲弾のため、最終増速は不要。その分、射程の延長が可能である。とはいえせいぜい数kmではあるが。


 ブレイザブリクの主砲は三連装多段電磁投射砲(コイルカノン)で、最大射程は1,000kmを超えているのだ。


 ブレイザブリクは照準を完了すると、発砲を開始。

 4基12門の巨大な砲身が、ソニックブームによる轟音を響かせながら次々とスマート弾頭を射出する。1門あたりの発射速度はおよそ5秒。ブレイザブリク単艦で、分速144発の巨大な砲弾を送り込むことが出来るのだ。


 砲弾の初速は8,000m/s程度だが、空気抵抗によって速度は落ちていく。とはいえ、成層圏を超える高さの弾道軌道となるため、空気抵抗を受けるのは地上付近のみだ。

 また、着弾までは数十分かかる。全ての攻撃に先んじて発砲したのは、そのためだ。


「エウリュトス所属航空部隊が戦場へ接近」


「フローズ、ヤルンが航空部隊に気付いたようです。上空に視線を向ける動作を検知」


 もっとも現場に近いエウリュトスから発艦した攻撃機群に、2体の<フェンリル>は何らかの理由で気が付いたようだ。恐らく、発振されるレーダー波と思われる。


「さて、あと数分もあれば怪我は治りそうですが……。どう出ますかね?」


「あの感じだと、増援に気が付いてるのかしら?」


 このまま戦闘を再開しても、おそらくさきほどの焼き直しになる。前線のヨトゥンMシリーズがまた破壊される可能性はあるが、最悪、後方のヨトゥンを回せばいいのだ。その間に、再び対障壁ミサイルを投入できる。

 <フェンリル>側の対応力が多少上がったとしても、あと3回は同規模の戦闘は可能だろう。

 更に、<ザ・ツリー>側は追加投入した航空戦力を使用できる。

 障壁破壊に合わせて更に攻撃を重ねれば、追加ダメージも期待できるのだ。


「フローズの体勢が少し変わった。後退する可能性が高い」


 アカネがそう報告しつつ、フローズの解析映像を表示した。

 フローズの重心位置が変化しているため、何らかの行動を起こそうとしているのは間違いない。

 ただ、イブにはそれが、襲いかかる前に力をためているのか、それとも逃げ出そうとしているのかまではわからないが。

 <アイリス>は、どうやら戦意が無くなっている可能性があると判断したようだった。


 映像の中、ヤルンが低く唸っている。

 もしかすると、フローズに対して文句を言っているのかもしれない。


「これは、しばらく睨み合いになりそうですねぇ」


「攻撃機と輸送機は……うーん、やっぱりあと50分はかかるか」


 ゲーニー要塞から現地までの距離は1,200km程度離れている。攻撃機は超音速飛行が出来ないため、現着までは1時間程度は必要だ。ミサイル発射だけであればもっと手前でも可能なため、実質は20分ほどあれば攻撃圏内に入ることは可能である。


 あとは、事前に飛ばしていた輸送機である。

 ちょうど空中給油を開始したところだったため、全て完了するのに20分ほど。

 そこから現地まで、更に20分程度必要だ。


 まあ、この睨み合いであれば、あと数十分は継続するだろう。フローズ、ヤルンも万全の状態に戻ってしまうだろうが、<ザ・ツリー>側も戦力増強が完了する。

 そうすると、戦いはまた振り出しに戻る事になるが。


「おや、2匹が会話しているように見えますね?」


「あら、ほんと。……撤退してくれるかしらねぇ」


 唸るヤルンに、フローズがちらりと視線を向けた。警戒は継続しつつ、何か意思疎通を行おうとしているようだ。


 ヤルンの唸り声が、少しずつ小さくなっていく。


 そうして、さらに時間が経過する。

 フローズ、ヤルン共に、睨み合いが始まってから10m程度後退していた。もっとも、彼らの体長を考えると一歩下がった、程度の距離ではあるが。

 それでも、2体が撤退に意識を割いているというのはほぼ間違いないだろう。このまま何事もなく下がってくれれば一番簡単に済むのだが。


「お姉さま。航空戦力は、あと数分で攻撃可能距離に到達する」


「追撃するのかしら?」


 <アイリス>は、最大の攻撃が可能な状況になった時点での総攻撃を選択したようだった。


 まず、後方の基地から対障壁ミサイルが発射される。これらは超音速まで加速した後に数分で戦場上空に到達できる。

 それとほぼ同時、落下軌道に入ったスマート砲弾群が落下位置の自動制御を開始。姿勢制御フィンが展開され、各砲弾がそれぞれの軌道修正を実施。


「上空から超音速でクラスター弾ばら撒いて目眩ましとし、対障壁ミサイルを突入させます。それに合わせてヨトゥンの主砲を撃ち込み、追撃とするようですね」


「レーザー照射を合わせられればいいけど、実弾とは相性が悪いものね」


 エネルギー兵器と実弾を集中運用できない、という話だ。通常はそんなことを気にする必要は無いのだが、脅威生物を相手取る限り、その問題はついて回ることになる。

ここから航空兵器のターン。

と思いきや、艦砲射撃から入ります。w


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新乙い [一言] 艦砲射撃で耕すのは良き
[良い点] 数十分の誤差があるのに音速で動く相手に同時攻撃を仕掛けるのが高性能AI感出ていて良き
[一言] 群れではなく数体だと不利を悟るとすぐ去りそうだけど、まだ判断し切れないか撤退するにしてもタイミングを図ってるんかなー
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