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第301話 痛み分け

「直撃を確認しました。ダメージ判定中です」


「直前に魔法障壁の発光現象を確認」


 極超音速、マッハ6程度で突入した弾頭は、その運動エネルギーを遺憾なく発揮した。衝撃を殺しきれなかったのか、フローズの体が大きく吹き飛ぶ。


「運動エネルギーの2割から3割程度が本体に到達、と判定しました」


 <アイリス>の演算結果をイチゴが復唱する。

 映像の中、地面に叩き付けられたフローズは何度か転がった後、体勢を立て直してヨトゥンAを睨む。


「<アイリス>、攻撃を一時中断。牽制を実施している」


 明確にダメージを与えた、と<アイリス>は判断、戦術目標を威嚇に変更した。生き残った自動機械の砲身を、フローズに指向して停止する。


「映像解析中です。フローズ、口元に血液を確認しました。恐らく、内臓へのダメージです」


「口元に攻撃は当たってないからね~」


「吐血~?」


 ぼたぼた、と口の端から血が零れる。それは、着弾の衝撃が内部に浸透した証左だろう。ようやく、フローズに対して有効な攻撃を通すことが出来たのだ。


 とはいえ、見る限りそれ以外に怪我らしい怪我をしているようには見えない。

 運動に問題が出るほどのダメージではない、ということか。


「さて……お互い、力は示せたと思うけど……」


 <フェンリル>種の知能がどれほどあるのかは分からないが、これまでの行動を解析する限り、かなり合理的に動いているということは判明していた。

 よって、勝ち目が薄い、あるいは勝つのが非常に面倒だと理解してもらえれば、このまま撤退を選んでくれる可能性もある。


 フローズは、ジリジリとその四肢を動かしており、それに合わせて向けられる砲身は微調整を繰り返す。


 しばしのにらみ合い。


 やがて、フローズがジリジリと後ろに下がりだした。


「<アイリス>は静観するようです」


 そのまま、少しずつ距離の開いていく対峙が続き。

 十分な距離、1km以上の距離が開いてから、フローズは踵を返し、走り始めた。かなりの速度を出したのか、爆発的な砂煙を上げながら、一気に姿が見えなくなる。


「<アイリス>は戦闘終了を宣言した。偵察機を呼び寄せている」


「損害レポートの収集を始めました」


 その報告を聞き、イブは大きく頷いて立ち上がった。


「よし、初戦は勝利! まだまだ油断は出来ないけど、戦闘状況を解析して次に臨むわよ!」


「「「「「はい、お姉さま」」」」」


 こうして、<フェンリル>種と<ザ・ツリー>のファーストコンタクトは終了した。


 有効な攻撃を与えることは出来たが、実際に討伐を行うことが出来たわけではない。この結果が吉と出るか凶と出るかは、まだ分からない。


◇◇◇◇


 追加の陸上戦艦が、ヤーカリ港に上陸する。数は3隻。魔の森近くの開拓村に配備され、固定砲台の代わり、そして動力供給用として使用される予定だ。

 機会があれば、整地にも使用されるかもしれない。


 陸上戦艦<ヨトゥン>は強力な打撃力を持つが、いかんせん防御力に難があった。


 いや、巨大構造物という点で考えれば、十分な強度は有しているのだ。

 ただ、相対する敵が強すぎるだけで。


 とはいえ、このままではコストの割に使いにくい兵器である、というレッテルが貼られかねない。主に、司令官イブの脳内で。


「しかし、あのフローズの吐いた炎、すさまじかったわねぇ……」


 とはいえ、さすがに<フェンリル>種との相性だけでヨトゥンの使い勝手について語るのは憚られた。超音速で移動可能で砲弾の直撃にも耐える地上目標など、ゲーム時代でも出てこなかった。宇宙にはいたらしいが。


「大破したヨトゥンBを回収しましたが、内部構造体がほとんど融解していました。炭化タングステンも表面が融解した形跡がありましたので、瞬間的に3,000℃を超える熱量が発生していた可能性があります」


「さんぜん……」


 鉄ベースの合金であれば、融解だけでなく沸騰して蒸発するほどの熱量だ。そんな熱量の弾体をぶつけられれば、少なくとも現在<ザ・ツリー>が保有している兵器には防ぐ手段がない。

 耐熱塗料をたっぷり塗った純タングステン装甲などであれば防げるかもしれないが、熱以外の耐性に問題があるし、そもそも希少元素でありとても量産は出来ない。


「うーん……いよいよエネルギーフィールドか何か、非物質装甲を実用化する必要があるか……?」


魔物ファンタジーに相対するには、それくらいの装備が必要かもしれませんね!」


 イブの言葉に、アサヒが嬉しそうに同意する。

 アサヒ的には、ファンタジーに対抗する装備を考えるというだけで楽しいことらしい。


「エネルギーフィールドは、大気分子と反応するため惑星上での利用には著しい制限が掛かります。フィールドを展開した状態で移動するだけで、膨大なエネルギーが消費されてしまいます」


 通常、宇宙空間で星間物質などから船体を保護するために使用するのがエネルギーフィールドという非物質装甲だ。接近してきた物質を斥力を発生させて弾き返す、という機能が一般的である。

 その仕組み上、有大気惑星上で使用すると常に斥力が発生し、フィールド発生装置に大きな負荷が掛かってしまうという問題があるのだ。


「今この時点だけでの最適解は、脅威生物の魔石を利用した魔法障壁の利用だと思うんですけどねぇ……」


「諦めないわねえ、アサヒも」


 イブは苦笑するも、そろそろその利用実験にも許可を出す必要があるかもしれない、と思い始めていた。少なくとも、魔の森開拓においては魔法障壁を利用しないと、何かあるたびに膨大な損失が発生する可能性がある。

 脅威生物が出てくるたびに陸上戦艦をスクラップにされては、さすがに収支的に問題だ。


「原理を解明できなくても、実績によって予測することはできます。科学も結局、そうやって発展してきたのですから。解明できないから利用しない、というのは、我々科学の申し子からしてもナンセンスですよぅ」


「まあ、ねぇ……」


 結局、なんかイヤだ、という理由で拒否しているだけなのだ。それについては、イブも薄々気が付いていた。


「とりあえず、それは今回の件が片付いたら改めて考えましょう。さ、次の段階に進むわよ」


はい(イエス)司令マム」「はい、お姉さま」


◇◇◇◇


 A級戦略AI<アイリス>は、ひとまずの勝利を得た。

 ヨトゥン1隻大破、1隻中破。四脚戦車125機大破、56機破損。多脚戦車38機大破、22機破損。

 それが、今回の一戦での被害だ。

 ヨトゥンBとその周辺に展開していた多脚機がごっそり破壊されたのである。

 ヨトゥンDも足回りにダメージが蓄積しており、解体処分が決まっている。


 ただ、やはり<フェンリル>種に有効なダメージを与えるためには、多脚機よりもヨトゥンのような大型・高出力な兵器が必須だ。

 多脚機のレーザー砲を束ねればダメージを通すことはできるだろうが、あの移動速度に全く対応できないのである。超音速で跳躍を繰り返す目標に追随できず、端から平らげられてしまうだろう。


 ヨトゥンという明らかな敵、いや的を準備することで、ようやく攻撃を当てられるようになるのだ。


 <アイリス>は思考する。


 この際、損害は気にする必要は無い。

 であれば、デコイを使って撃破するのがもっとも効率が良いのではないか。


 今回、なんとかフローズを撤退に追い込むことが出来た。

 だが、フローズから見ても、こちらの戦力の底は予測できるだろう。


 これまでの行動から、フローズはそれなりの知性があると予想された。

 であれば、何らかの対抗手段を持って、再びこちらに攻撃を仕掛けてくる可能性は十分にあるのだ。

そういえば、まともにぶつかって双方痛み分け、みたいな戦いは初めてな気がします。

学びの多いエピソードですね。


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― 新着の感想 ―
[一言] これは後から考えないパターンだな! 指揮官はのんびり暮らすー、いいね
[良い点] 更新乙い [一言] >>魔法障壁 ばりあー!! 消耗しても良い兵器にポン付けするなら、データ取りにも良いんじゃないかなって 物量には合わないのはそう >>あいりす 頑張って考えている!!…
[一言] ツリー側は使い捨て前提で戦力を出し惜しみ無しなだけ優位 向こうは手痛いダメージを負ったまま引く様子がない相手 損得を決断するなら、即座に追撃がない範囲まで撤退を選びますね
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