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第299話 フローズ戦の開始

 陸上戦艦<ヨトゥン>。

 プラーヴァ神国聖都攻略時に大破したものの、量産体制は整っていたためすぐに補充された巨大兵器だ。


 全長176m、全幅62m、全高69m(本体上部は地上高32m)。

 核融合炉3基を搭載し、周辺の部隊に独自にマイクロ波給電を行う出力を持っている。

 武装は多段電磁投射砲コイルカノン6基6門、電磁加速砲レールガン16基16門、その他小砲塔40基、垂直発射装置20門、カタパルト2基を基本としている。


 搭載量も、その巨体に違わず膨大だ。

 全力の砲撃を1時間以上継続することも可能である。

 もちろん、装薬を不要とする電磁砲台を使用しているゆえ、ということはあるが。


 今回、作戦犬の散歩(ウォーキングザドッグ)に投入されたのは、ヨトゥン4隻と多数の四脚戦車、多脚戦車。

 遥か後方にはギガンティア部隊が旋回しており、地上には対魔法障壁ミサイルの発射プラットフォームも展開している。


 少なくとも、現在プラーヴァ神国周辺で用意できる戦力のうち、最上位のものを揃えているのは間違いない。

 ただ、これらの戦力が壊滅する可能性も考慮され、最新式の装備が現在輸送中ではあるのだが。


「部隊の移動を開始」


「グループAからD、移動を開始しました」


「有効射程まで5km~」


「8分で到達予定~」


「……各ヨトゥン、動力炉モードを戦闘状態に変更。艦内温度・圧力上昇中……」


 アカネ、イチゴ、ウツギ、エリカ、オリーブは、今回も状況報告のオペレーター要員だ。

 イブがこういったシチュエーションを好むため、わざわざ口頭報告しているのである。

 もちろん、頭脳装置ブレイン・ユニットの訓練も兼ねている。


 映像の中、ヨトゥンと周囲の多脚戦車群が走り始めていた。ヨトゥン1隻に対し、四脚戦車300機、多脚戦車100機が割り当てられている。全体で1,600機の多脚機が走っていることになる。


 ヨトゥンは、多少の障害物であればその突進力で蹴散らすことができる。平原に広がる低木林が粉砕され、でき上がった道を多脚機が通過していく。


「すごい迫力ね」


 なだらかな丘や林が巨大な質量に跳ね上げられ、押しつぶされ、砂煙を盛大に巻き上げながら開拓されていく。

 実際、一部では土地開拓にヨトゥンを投入したこともあったのだ。

 現時点では積極的に農地を広げる必要があるほど人口がいないため、あまり活用されていないのだが。


「先頭のヨトゥンBが、目標<フローズ>を有効射程に捉えた」


「全ヨトゥンが有効射程圏内に到達次第、一斉砲撃を開始します」


 ヨトゥン4隻は、僅かに進路を変更する。艦体の中央線上に設置された全主砲の射界に、目標であるフローズを捉えるためだ。


「有効射程距離に捉えたよ~」


「全ヨトゥンが砲撃体勢に移行したよ~」


「……全砲塔安定確認。偵察機の情報をリンク中。弾道演算完了……全基発砲……」


 4隻の陣形は単縦陣。戦場に設定した地域は林や森、山が少なく、草原や低木が多い。ヨトゥンの周囲に、群体生物のように多脚機が群がっていた。


「着弾まで3、2、1、今」


 縄張り巡回にのんびりと歩いていた、<フェンリル>のフローズ。そこに、多段電磁投射砲コイルカノン24門から放たれた金属砲弾が襲いかかった。

 初速は8,000m/s。およそ5秒で、目標ターゲットに着弾する。


「着弾しました」


 望遠映像ではあるが、超高解像度・高速度でその瞬間が捉えられていた。


 空力加熱によって急激に昇華する保護塗料の煙を引きつつ、24発の砲弾が、僅かに時差を付けてフローズに殺到する。


 砲弾が着弾した瞬間、フローズの体表面を光の膜が覆った。魔法障壁だ。


 最初の数発は魔法障壁を突破できず、粉々に砕け散る。

 そしてその着弾の衝撃でフローズの体勢が崩れ、それ以降の砲弾は直撃せず、体表面を滑ったり外れたりと有効な着弾は観測できなかった。


「あらぁ……。やっぱ、ちょっと体が小さすぎるかしら。砲門が多いと、こういうこともあるわよねぇ」


 最終的に、周囲の地面が砲弾によって盛大に吹き飛び、膨大な砂煙が発生。

 最終判定は、有効な攻撃無し。フローズの姿は完全に隠れてしまった。


「目標探査中~」


「ちょっとどこにいるか……出たっ!」


 砂煙の壁を突き破り、フローズが飛び出してきた。即時映像解析されるが、やはり怪我などは確認できず。砲弾を数発ぶつけた程度では、有効な攻撃とはならなかったようだ。

 だが、その運動性能もある程度測定された。


「……弾道再計算中……完了。再度斉射……」


 多段電磁投射砲コイルカノンが、再び砲弾を放った。


 数秒の時間を使い、砲弾がフローズに突き刺さる――


「目標、回避行動を確認」


 地面が爆発する。

 フローズの踏みしめに耐えきれずに破砕された地表が、更に発生した衝撃波で粉々になったのだ。


 全ての砲弾を、フローズは回避した。不意打ちで攻撃されたにもかかわらず、直後に次の攻撃を目視し、超音速でその巨体を移動させたのだ。

 砲弾の飛翔速度は、音速を遥かに超えている。つまり、音は聞こえず、視界に捉えなければ気付くことは不可能である。フローズは、砲弾を目視し、そこから横ステップで回避したのだ。


 フローズの目の高さでは、水平距離は17km程度。有効射程距離に設定したのは20kmであるため、地平線から飛んでくる砲弾を視認、弾道を認識し、回避運動を行ったのだ。

 それは、通常の生物に可能な反応速度ではない。それこそ、物理法則に反する動きだ。


「再び、目標をロストしました」


 地面に着弾した砲弾が、再び大量の土煙を発生させた。まるで噴煙のように、土砂が周辺を覆い尽くす。


「げ、砲弾回避するの!? 無理じゃん!!」


「至近で撃ち込む必要があるようですね」


 フローズ、というか<フェンリル>という脅威生物。体長こそこれまでの脅威生物たちに劣っているが、少なくとも現時点での脅威度は相当に高いという判定だ。

 むしろ、体重が軽い分、動きは軽快だ。

 遠距離砲撃が通用しないのであれば、至近距離で戦闘を行う必要がある。

 そう考えると、かなりの脅威であると言えよう。


「ヨトゥン、増速しました。<アイリス>は至近距離での戦闘を選択しました」


「レーザー攻撃をするみたいだね~」


「四脚戦車・多脚戦車も一緒に行くみたい!」


 ヨトゥン部隊は単縦陣を保ったまま、フローズへの最短距離を進む進路を取った。これは、真正面で相対することで、後続の視認を隠せるというメリットがある。

 ただ、砲塔は先頭のものしか使用できないため、攻撃する場合は回頭が必要だ。


「目標、再視認。低出力レーダーが選択された。ヨトゥンAが火器管制レーダーを限定使用」


 精密な射撃を行うため、ヨトゥンが封鎖していたレーダーの使用を開始する。地上からのレーダー波照射であるため、遥か遠くのワイバーンを刺激することはないだろう。万が一に備え、そもそもの出力を抑えるという対策も取っている。


 だが、レーダー起動にフローズが反応した。

 想定はしていたが、やはり電磁波を感知できるようだ。


「フローズを探知、ロックしました。フローズ、ヨトゥンを視認したようです。移動を開始」


 フローズが砂煙を突き破り、ヨトゥンに向けて走り出した。

 速い。

 ドップラーレーダーの計測により、その速度がかなり正確に検知される。


「200km/hを超えたー!」


「まだまだ加速してるっぽい!」


 走る。

 大地に脚を突き刺し、地表を吹き飛ばしながらフローズが駆ける。

 彼我の距離は、瞬く間に縮まっていった。


「……ヨトゥンA、Cが右に転舵。B、Dが左に転舵。射界……確保」


 <アイリス>は即時、ヨトゥンの移動を制御。側面をフローズに向け、レーザー砲塔を準備する。併走する多脚機も、装備するレーザー砲をフローズに照準した。

 照準方向は、ヨトゥンAの管制システムが全てを掌握し、管理する。


「射線計算、完了。砲塔制御、完了。照射を開始した」


 その瞬間、映像の中でフローズが真っ白な輝きに包まれた。

陸上で単縦陣とか使うとは思わなかったぜ……。

ちなみに多脚戦車達の陣形も考えると、輪形陣が4つ縦に並んでる感じです。

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― 新着の感想 ―
なぜ頑なに遠距離攻撃に拘るのか? 過去に電撃が効いてる描写を書きながら電撃を使わない。 過去に縄梯子は障壁を通る描写を書きながら、投網等を使わない。 頑なに地中からの攻撃侵略を使わない。 他にも多々有…
[良い点] 謹賀新年!! 今年も愉しませて戴きます! [気になる点] ヨトゥンが如何にかっこ良く壊れるか。 ワンコにわからせるか。 [一言] 新刊購入しました! 本棚の定員オーバー(整理未達)により机…
[良い点] 更新乙い [一言] わんころ~ そういえばキツネもイヌ科でしたっけかね 家畜化下だと徐々に顔とかが犬っぽくなってくるとかなんとか
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