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第295話 戦線整理大作戦

 魔の森開拓の前線基地を急ピッチで整備する傍ら、プラーヴァ神国東部戦線の再編が開始された。

 さっさと憂いを無くすため、家族チミヤーの移送は<パライゾ>が請け負うこととした。家族チミヤーは地上を80km/hで走り続けることが出来る身体能力を持っているが、空中を600km/h以上で移動可能なティルトローター機には敵わないのだ。


 複数の人員を投入すれば、数日で全ての僧兵を傘下に収めることが出来るだろう。

 家族チミヤー側も、雑事がすぐに片付くのであれば、反対も無い。


 こうして急遽投入されたティルトローター機<シーホーク>が、東部戦線に向けて次々と飛び立っていく。


 <シーホーク>は無人で稼働しているのだが、命令されれば疑問を持たずに行動する家族チミヤー達が、文句も言わずに乗り込んでいたのが印象的であった。


「これで、東部戦線はなんとかなるかぁ」


はい(イエス)司令マム。補給拠点も整備します。幸い、戦線南西部のカティ・アンダル・リティン公国に港町があります。揚陸港として整備し、戦線へ物資を供給できるでしょう」


 現在、東部戦線の部隊は現地の物資を消費しながら維持されている。部隊の構成人数が少ないため、短期的にはそれで問題ない。だが、そのまま放置では季節を越えると様々な物資が不足していくことになるだろう。

 そのため、早急に軍事物資の補給を開始する必要があった。


「当面は空路輸送、長期的には鉄道ね。中期的には大型トラックかしら。戦線の北の方だと、鉄道を延ばすのも一苦労だものね」


「南北は1,000km近くあります。起伏も多く、間には人手の入っていない森林もありますので、そう簡単に繋げることは出来ません。街道はありますが、小型の動力車しか移動できないでしょう。どこかに空港を整備する方がいいかもしれませんね」


 魔の森から続く川も重要なインフラである。実際、内陸国は川沿いを中心として都市が広がっているのだ。川幅の関係であまり大きな船を行き交わせることはできないが、当面の輸送手段として検討は出来るだろう。


「鉱脈も探したいし、大動脈は作りたいわねぇ。平定は済んでるし、大々的に探査は進められるでしょう?」


はい(イエス)司令マム。ただ、そうすると急ぎで対応が必要なのが……」


「<フェンリル>ですね、お姉さま!」


 そうなのである。

 結局手を出さないまま放置していた<フェンリル>家族であるが、正直、これが非常に邪魔であった。

 レイディア王国の一部を完全に縄張りに置いたらしい<フローズ>、<ヤルン>、そして<ハティ>。外敵も無く、彼らはのびのびと王国内の縄張りを闊歩しているのだ。


「幸い、これ以上縄張りを広げようという意思は無いようですので、そこは安心材料ですが。とはいえ、レイディア王国のおよそ6分の1という広大な土地が、使用不能になっているのです! まだまだ土地は余っているとはいえ、外様に占有されて面白いはずがありません!」


「あの脅威生物が不確定要素となっていますので、レイディア王国のおよそ半分の土地の利用計画を立てられていません。しかも、放置しているとどんどんと森に侵食されてしまいます。そうなると、さらに今後の利用が難しくなるでしょう」


 <フェンリル>によって縄張り化された土地は、現在、急激に緑に覆われつつあった。

 複数の魔力溜まり(ホットスポット)から何かが溢れ出ているのか、目に見える速度で植生が拡大しているのだ。

 放置していれば、遠からず魔の森に取り込まれてしまうだろう。


「なるほどねぇ……。早めに手を打たないと、より面倒くさくなるのか。魔の森になるってことは、他の脅威生物とか、魔物が増える可能性もあるわね」


「それはそれで、重要な研究対象にはなりますがねぇ! ただ、その研究は今するものではありません! レイディア王国は東部戦線とプラーヴァ神国の間ですし、一部が塞がれているような状況です! さっさと平定して、補給路を構築すべきですね!」


 アサヒ的にも、落ち着いて研究できる環境がほしい、ということだろう。

 <フェンリル>の領域は貴重な研究対象にはなるだろうが、なにせ広大だ。その全てを観察するのは非常に困難で、さらに時間がたつほど難易度は上がっていく。


 それに何より、レイディア王国の国土も<ザ・ツリー>に組み込まれたのだ。

 さっさと解放し、有効利用したいというのがアサヒの希望なのだろう。


「じゃあ、あの<フェンリル>達を追い払うか討伐するってことかしら?」


はい(イエス)司令マム。元々、<フェンリル>の縄張りは森の中のみでした。これまで国側に進出してきていなかったのは、過去に人類と争った経験があったのかもしれません。何らかの脅威があると認識していたものが、何かのきっかけで平定可能と認識した。そんなところでしょう」


「何せ、急に出てきましたからね! 魔の森そのものは、外から観察する限りは何か大きな異変があったようには見えません! 見えないだけで縄張り争いがあった可能性もありますけれども、<フェンリル>を追跡する限り、彼らは魔の森内部にも大きな縄張りを持っているようですので、可能性は低いでしょう!」


 <フェンリル>達はその巨体ゆえ、追おうと思えば森の中でも追跡が可能だ。とはいえ、意識しなければ、優秀な<ザ・ツリー>の解析プログラムでも見つけられない程度には優れた隠密性があるようだが。


「子育て中ということもあります。脅威を見せつければ元の縄張りに戻る可能性もありますので、ひと当てして様子を見るという方向で作戦立案を進めようかと」


「そうね。んー、陸上戦艦ヨトゥンを当てるか……。でも、たしかあいつ、何かとんでもない火を吹いてたわよね」


 大型の脅威生物には、大型の兵器をぶつける。それが基本方針ではあるものの、過去の記録画像から、この<フェンリル>という脅威生物は都市を焼き尽くす力を持っていると予想されていた。レイディア王国の首都は、失火程度では考えられないほどに焼かれ、破壊し尽くされている。

 それを為したのは、間違いなくこの<フェンリル>という魔物種だろう。


「これまでの経験上、逸脱した大きさの脅威生物は、相応の強度の魔法障壁を持っていると考えられます」


「魔法障壁相手には、多脚戦車では力不足! ヨトゥンクラスの打撃力がほしいところです! ギガンティアやタイタンを当ててもいいですが、防御力に難がありますからね! ミサイルプラットフォームとして使うくらいでしょうか!」


「対魔法障壁用途の質量弾型極超音速ミサイルも準備済です」


 魔法障壁への対策は、最終的に、単純な質量と弾速による打撃がもっとも有効という結論が出ていた。大型の多段電磁投射砲(コイルカノン)による砲撃か、極超音速ミサイルをぶつけ続けるということだ。


 <フェンリル>は、地上を縦横無尽に移動できる運動性能を持っていると想定される。移動先の予想が困難で、超長距離からの砲撃は難しいということだ。

 そのため、自律飛行型のミサイルが有効と予想されていた。


「数km程度の距離では不安です! 数十kmは距離を置きたいと考えると、8,000m/sの砲弾でも着弾まで数秒。直撃させなければあまり意味がありませんので、やはり極超音速ミサイルが必要ですね!」


「弾頭が4トン、全体で15トンねぇ……。重すぎない?」


「はい、重すぎますお姉さま! ギガンティアに搭載できる数も限られます! 基本的には地上発射想定ですが、カタパルトが無いと最高速まで加速でないのが欠点です!」


 対魔法障壁ミサイルは、空中で亜音速状態の機体から放出するか、あるいは地上で電磁カタパルトによって超音速に加速して放出する運用を想定している。

 そうしないと、内蔵ロケットエンジンだけでは加速しきらず、有効打にならないのだ。


 つまり、それなりの発射設備が必要ということだ。移動式にするにしても、相当の大型車両が必要になってしまう。

質量……。質量弾頭は全てを解決する……。

古来より、重さが強さと決まっていますからね。

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― 新着の感想 ―
魔法障壁にはレーザーの方が効果的だけど、森の中だと射線が確保できないから使えないのか…… フェンリルといえば転生者のペットになることが多い気がするけど、アサヒによる子フェンリル育成記が始まる!?
[一言] 早くて固くて回復も出来て頭も良くて、しかも特殊能力も持ってる脅威生物に対して、超技術一族が考えた方法・・ それは「重くて速い弾を沢山ぶつける」! これは、超戦艦のフラグと見た、楽しみ!
[一言] >古来より、重さが強さと決まっていますからね。  よし。  ならば失敗作で責任問題にまでなった50mに少し足らない超巨大人型クレーン重機を使いましょう。  武装を持たないのに、巨大な怪物を…
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