第294話 東部戦線
「家族からの提案?」
「はい、司令。家族より、今後の統治に関しての提案がありました」
『それで呼ばれたのか。内政の話だっつーから珍しいと思ったんだ』
要塞<ザ・ツリー>の司令室。
司令席に座るイブと、その後ろに控える<リンゴ>
そして、正面のディスプレイに映るのはアマジオ・シルバーヘッド。
司令室の席には、いつもの5姉妹の姿もある。
プラーヴァ神国が議論対象であるため、担当の<アイリス>、そしてアマジオ付きの<アヤメ・ゼロ>も音声参加していた。
『錚々たるメンバーだな』
「アフラーシア連合王国担当以外の全員よ」
もちろん、その他のAI達も参加権が無いわけではない。単に常設アイコンが無いというだけで、視聴も発言も自由である。
「さて。で、私はまだ何も聞いてないから、説明してもらえるかしら?」
「はい、司令。家族と情報共有を行った際、先方より提案がありました。東部戦線の僧兵達に関して、家族の指揮下に組み込む対応です」
<リンゴ>の報告に、イブは首を傾げた。どうしてそんな話が出てきたのか。
『……上位指揮官不在の戦線の維持、か?』
「家族側は、戦線崩壊を懸念していると考えられます」
家族に対し、<パライゾ>側は惜しみなく(開示可能な情報のみだが)情報提供を行っていた。
そこに、プラーヴァ神国の統治問題、そして放置されている東部戦線の概況が含まれていたのである。
「家族が、そこを気にしてくれたってこと?」
「はい、司令。多分に権益確保の希望が含まれるのは間違いないでしょうが、少なくともこちらを害する目的は無い提案です」
東部戦線は、上位からの命令伝達が停止している状態であるため、完全に膠着状態となっている。神国の僧兵は忠実に当初の命令である現状維持を続けているが、時間がたつごとにその命令の有効性は薄れていくと予想されていた。
僧兵達が独自に行動を起こす可能性が、日に日に増しているのである。
『家族は、命令権を持っているのか?』
「はい。それは確認しました。家族の構成員は、少なくとも司教クラスの地位を持っています。現在の東部戦線には大司祭までの上位者しか存在しませんので、家族が派遣されれば、指揮命令系統に組み込むことは可能である、との見解でした」
司祭、大司祭は地方の統括者であり、司教は中央の役職者だ。基本的には、司教が大司祭をまとめている、と解釈される。
「いまだによく分かってないんだけど、結局、プラーヴァ神国の僧兵達ってどういう指揮命令系統を持ってるの。単に役職に従ってる、って感じじゃなさそうなのは分かってるんだけど……」
『それは俺も気になるな。レポート斜め読みした限りじゃ、魔力的な接続がどうとか書いてたが』
人間2人はそう言うが、恐らくアマジオはほぼ理解しているはずだ。生身であるがゆえにいろいろと制限のあるイブのため、わざわざ説明を要求したのだろう。空気の読める男だ。
「では、簡単に説明しましょう」
<リンゴ>はそう答え、説明用にディスプレイを展開した。
「あくまで家族本人達から聞き取りを行った内容です。主観的な内容ですので事実とは異なる可能性はありますが、概念は間違っていないと想定しています」
そうして表示されたのは、いわゆるスター型のネットワーク模式図だ。
だが、スター型となっているのは全体像のみであり、末端はすべてメッシュ型として表記されている。メッシュ型ネットワークを要所で接続し、スター型を形成している形である。
「僧兵、そして家族は、通常、同程度の力量の人員がある程度の人数で寄り集まり、メッシュ型ネットワークを形成しています」
「……ネットワーク?」
「はい、司令。ネットワークです」
僧兵達は、ある程度のグループを作り、その中でネットワークを形成する。ネットワークを形成すると、そのグループ全体で単一の行動基準を共有するのだ。
『つまり、このグループ内全員が頭を繋いで、個々人の意思を抑制。全体利益を優先して動くって事か?』
「はい。そのように解釈できます。ただ、メッシュネットワークを形成する人数が多すぎると動きが鈍くなるとのことでしたので、処理能力の限界はあるようです。そのため、一定人数以上はメッシュネットワークを繋げず、ハブを介して接続します。このハブが、どうやら上位役職者という立場になっているようですね」
そして、このネットワーク形成を実現しているのが、魔法という理不尽だ。
「プラーヴァ神国は魔法を使える人間を早い段階で徴集し、僧兵として訓練していたようです。魔法を使える、使えないという人間の選別をどう行っていたのかは目下調査中ですが、家族はある程度ノウハウを持っているようですので、将来的には何かの対価に情報を得ることは出来るでしょう」
「えぇ……。本当に人間? その説明だけだと、機械みたいに見えるけど……」
イブがそう言うが、実際その通りだった。プラーヴァ神国の僧兵からは人間味は感じられ無いのだ。
「どちらかというと、我々AI種に近い生態である、というのは認めます。個よりも全体の利益を重視するというのは、社会性昆虫にも似ていますね。家族からの情報をまとめると、そういう結論となりました」
『ネットワーク形成か……。確か、プラーヴァ神国の成り立ちにはウチのAIが関わってるって話があったと思うが……』
「それが大きく影響している可能性は高いでしょう。魔法を使った意思疎通に目を付け、ネットワーク形成を促したとしても、不思議はありません」
プラーヴァ神国の建国に、アマジオが回収し損ねた偵察機が関わっていたというのは、様々な聖遺物から判明していることだった。
実際、その機体が残したと思われる様々なデータも回収されており、聖堂に安置されていた残骸もある。腐食が激しいものの、明らかに高度科学技術によって製造された、何らかの自動機械が見つかったのだ。
もちろん、それはアマジオの確認により、アマジオの拠点<トラウトナーセリー>から出撃させた偵察機であると確定されている。
積み込まれていたAIは、長期単独行動を想定した生体ベースのコンピューターだったようだが、自由意志を持つほどの高度な機能は持っていなかったとのことである。
ただ、長期単独行動が可能だったが故に、数十年単位で現地人を支配、何らかの作業を行わせることができたらしかった。
「詳細は不明です。ただ、このネットワーク形成を基軸として、東部戦線の戦力を指揮下に組み込むことは可能、というのが家族側の見解です」
『家族の指揮下に組み込んで、目的意識の変化が発生する可能性は? 確かあいつら、魔の森開拓が最優先だろう。それが原因で戦線放棄されると意味が無いんだが』
家族の構成員は、魔の森から離れることを嫌う。一時的に増員や連絡のために他の地域への派遣は認めるが、長期に別の場所で待機させられるということは拒否するのだ。
これは、家族が魔の森開拓を悲願としていることの弊害である。魔の森開拓以外の雑事をこなすことに拒否反応を示すらしいのだ。
とはいえ、それまではその雑事を本国が請け負っていたため問題は無かったのだが。
「定期的に命令伝達するだけであれば、短期的には問題ないと。長期的には、前例がないため不明という見解です。ただ、1年2年で破綻するほどでは無いようですので、手当としては最適と考えられます」
「うーん……東部戦線が一番の懸念だったわけだし、可能であれば、それでもいいんじゃない。1年以内になんとかするなら、その時間稼ぎが出来るわけでしょ」
『そうだな。最悪、死の行進を装ってうやむやにするってのも考えてたからな、それよりは穏当じゃねえか』
そんなわけで、プラーヴァ神国東部戦線の(当面の)処遇が決まったのだった。
科学と魔法の融合作品……いやどっちかいうと知識チートかな。
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