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【書籍発売中】腹ペコ要塞は異世界で大戦艦が作りたい - World of Sandbox -  作者: てんてんこ
第1章 大海原

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第29話 駆逐艦、建造開始

 先日、勢い余って荷電粒子砲搭載型戦闘艦を設計していた彼女だったが、当面は駆逐艦サイズの船を運用する必要がある。


司令マム。それでは、レベル1の駆逐艦を生産します。初期生産数は2隻。鉄資源の収集が完了次第、追加で4隻。大型輸送船を合計3隻とし、輸送船1隻、駆逐艦2隻の船団による3グループ交易を行います」

「オッケー。船員は人形機械(コミュニケーター)を使うとして…そのうち、みんなも連れて行ったほうがいいのかしらね?」

はい(イエス)司令マム。外征は得るものが多いかと。ただ、当面は安全確保が難しいため、人形機械(コミュニケーター)のみの運用を想定しています」

「まあ、そうよねぇ。せめて、防衛機械ガードボットを量産できないとねぇ」


 防衛機械ガードボットとは、要人を護衛することに主眼を置いた一連の自動戦闘機械である。<ワールド(W)オブ(o)スペース(S)>では、どうも探せば重要人物(VIP)護衛の個別クエストなどもあったようなのだが、基本一人(ボッチ)でプレイしていた彼女は特にそういったクエストには手を出していなかった。そのため、<ザ・ツリー>内の在庫にも、残念ながら自動戦闘機械群は全く無いのである。


「量産は可能ですが、それよりもまずは貿易を安定させることが最優先です」

「そもそも、オーバーテクノロジー過ぎて表に出せないし。ただでさえ、想定より目立ってるのに、これ以上話題を投入するわけには行かないわ」


 テレク港街に浸透させているボット群からの情報で、貿易船団<パライゾ>が話題のトレンドをかっさらっていることが確認できていた。流麗な船体、強力な砲、そして見目麗しい船員達。運ばれる貿易品はどれもこれも一級品で、しかも対価はただの鉄である。情報は全く出していないため、<パライゾ>がどんな国から来たのかという話題が最も盛んに議論されているようだった。中には遥か南の孤島でひっそり暮らす一族で、資源を求めて外洋を彷徨っているなどという真実に直撃しまくった噂もあったのだが、交易船の技術力の高さから大国の出だ、と強い論調で吹き消されている。


「鉄の船を護衛に付けた、巨大輸送船というのもかなりの話題性はありますが」

「勝手に動き回って空も飛ぶ鉄の人形よりは、いくらかマイルドじゃない?」

はい(イエス)司令マム。そう思います」


 そんな感じで、次の航海予定が決まったのだった。

 ちなみに、駆逐艦の製造にはおよそ2週間程度。習熟期間をあわせ、2隻製造で1ヶ月との試算だ。完成次第、すぐに交易へ向かう予定である。


 レベル1駆逐艦は、単純にアルファと名付けた。1番(アルファ)級駆逐艦1番艦、アルファ。2番艦、ブラボー。将来的には解体して資源化される可能性が高いため、凝った名前を付けるつもりは全く無い。3番艦以降は、それぞれチャーリー、デルタ、エコー、フォックストロットになる予定である。


 主機としてディーゼル発電機を2基搭載し、インモータースクリュー1基を動力とする。主砲は150mm滑腔砲を3門。対空砲として多銃身20mm機関砲を6門。その他、近接防御用の機関銃および散弾銃を舷側に8門ずつ備える。観測用のマストを備え、原始的なレーダーも取り付けられている。基本的に自動制御だが、偽装用に人形機械コミュニケーターが操作することも可能だ。移乗攻撃などはこの機関銃、散弾銃で対応することになる。


「あっちの事情を知ってると、過剰戦力もいいところね」


 弾数や砲身冷却といった制限はあるものの、主砲1門あれば大抵の港町は占拠できるだろう、というのが戦力評価の結果だった。戦列艦は射程外から1撃で撃沈可能。弾種を変えればそれなりの厚さの城壁でも撃ち抜ける。どんな船に近付かれようと、即座にスクリューを回して離脱可能。そもそも、乗船されたところで人形機械コミュニケーターの戦闘能力のほうが遥かに高いのだ。


「とはいえ、あっちの…半島国家。いい加減名前を知りたいんだけど…あそこの戦力は思った以上に脅威なのよねぇ…」


 そう彼女が指摘したのは、以前北諸島を軍事侵略していた国である。


「次回、テレク港街で探らせましょう。距離は離れているとはいえ、港町ですので、何らかの情報は持っているでしょう」

「そうねぇ。ほんとは、あっちと交易できればいいんだけど」


 いつまで生き残れるかわからない小さな街より、ある程度安定した国家を相手にしたいというのは、当然の願望だろう。テレク港街は、周辺の地域では一番安定した町ではあるが、そもそも周りが殺伐としすぎている。あの半島国家と比べると、雲泥の差なのだ。


「絶賛、軍艦を増産中ね。いまのところ、うちの軽貿易帆船(LST)でも対抗できそうな性能だけど。数で攻められると、さばききれないかしらね?」

はい(イエス)司令マム軽貿易帆船(LST)3隻で行っても、10隻以上で対抗された場合、対応しきれません。構造的にも脆いため、1発でも砲弾が当たれば、航行不能になります」

「所詮はプラスチック製よねぇ…」


 正確にはセルロースだが、指摘したところで誰も得をしないため、<リンゴ>は黙殺した。


「せめて、区分の巡洋艦クラスの船ができなければ、近付けません。あちらの国家が、テレク港街側に貿易船を派遣してくれれば、まだ望みはありましたが」

「逆側ばっかりだもんね」


 かの国家の貿易相手は、現在<ザ・ツリー>が交易を行っているテレク港街と反対側にしかないようだった。しかし、それも当然といえば当然。テレク港街側の港町は尽く衰退しているか、廃墟になっているかのどちらかだ。食糧を欲していると想定されるあの国が交易を望むのは、もちろん豊かな穀倉地帯を有し、かつ戦乱の少ない国だろう。年がら年中内乱で荒れているような地域には、近付きたくないに違いない。


「建造予定の駆逐艦6隻と、ハリボテの主力艦1隻が揃えば、対話の可能性はありますが…」

「まあ、しばらくかかるわね。しかも運用中は貿易が滞るし。…うーん、とはいえ、あの港町もいつまで取引ができるかしらねぇ…」


 テレク港街、その周辺地域、さらにそこが所属する国家。テレク港街のボット群が集める噂、そして光発電式偵察機スイフトからの映像解析。そこから分かったのは、いつ爆発しても不思議がない火薬庫に、ついに火の手が迫ってきたという情勢であった。


「既に地方領主軍と思しき勢力の対峙が始まっています。意図は不明ですが、開戦までは秒読み段階です。テレク港街からは距離がありますので、直接的な影響はないと想定されます」

「とはいえ、間接的な影響は計り知れないわね。鉄鉱石の輸入も問題じゃない?」

はい(イエス)司令マム。鉱山のある町は、戦乱に巻き込まれる可能性が高いですね。食糧はありませんし、鉄はかさばりますので略奪対象にはなりにくいでしょうが、しかし住人たちは逃げ出すでしょう」

「そうすると、鉄の生産が止まる…」


 今の所、唯一の鉄供給源なのだ。しかし、内陸すぎて今の<ザ・ツリー>の戦力で介入は難しい。せめて、航空戦力を派遣できればピンポイント爆撃による司令部壊滅なども狙えただろうが。


「う、うーん…。せっかく駆逐艦建造の目処を立てたところなのに、これじゃあねぇ…」


 最初の予定の6隻。この建造は、おそらく問題ない。しかし、その後は徐々に鉄の供給が減っていくと予想される。


 <ザ・ツリー>が介入すれば、例えば、鉱山の防衛は無理をすれば可能だろう。だが、防衛後の採掘はさすがに主導できない。しかも、採掘中はずっと防衛を続ける必要がある。

 変な噂にもなるだろうし、最悪侵略行為と取られ、全面戦争になる可能性もあった。


「相変わらず鉄鉱山は見つからないし、難しいわねぇ…」

はい(イエス)司令マム。ままなりません」


 なんとか、別の国との貿易を始める必要がある。そのためには、テレク港街から可能な限り鉄資源を搾取しなければならない。


「情報を渡して、自衛させるしか無いかしらね?」

「自衛、ですか?」

「不思議そうね。自衛よ。私達は手は出さず、情報を与えて延命させる…ってところかしら。根本解決にはならないし、最終的にはダメになるだろうけど、まあ、生き延びさせて可能な限り鉄資源を供出させる。限界まで搾り取るのよ?」


 なかなかエグいことを提案する彼女ではあったが。実際問題、そのくらいしか打つ手はない。

 なるほど、と<リンゴ>は内心で唸った。利益を最大化するか、早い段階で損切りするか、そういった視点で考察していたのだが。最小限の投資で絞り尽くす、その選択肢は考慮していなかった。


 そう、なにもテレク港街側の事情を斟酌する必要はないのだ。


はい(イエス)司令マム。再検討します」

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