表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
289/380

第289話 悪巧み

 プラーヴァ神国の家族チミヤーという集団と協定を結んだ後、<ザ・ツリー>勢力はその拠点の開発を一気に進めた。


 家族チミヤーは、魔の森に道を通すことを至上命題としている集団だ。

 魔の森開拓について援助があるならば、たとえどんな勢力が相手であっても手を結ぶ。


 実利主眼というか、機械的というか、とにかく恨み辛みという感情とは無縁の集団である。そもそも、プラーヴァ神国への帰属意識が薄い、ということもあるだろうが。


 とにかく、彼らの事業に積極的に協力するという約束で協定を結んだのだ。<ザ・ツリー>は、遠慮無くその能力を発揮した。


 まずは、活動のための物資を集積する。

 魔の森を開拓するために切り開いた土地。入り口となるそこに、集積所を建設するのだ。


 巨大な倉庫が組み上がり、輸送機に空輸された物資が次々と運び込まれた。大量の輸送機が動員され、パラシュートを付けて投下されるコンテナを地上走行の大型機械が捕まえる。


 その光景には、さすがに家族チミヤーも驚いていたようだ。


 そうやって準備された資材を使用し、地上輸送用の道路が建設されていく。平行して敷かれるのは鉄道だ。まずは後方の根拠地と集積所を結び、物資輸送体制を整える。


 とりあえずの物資は空輸されるため、家族チミヤーによる開拓作業も再開された。

 放棄されていた中間開拓地を再解放するため、<パライゾ>から供給された食糧や装備を携え部隊が出発していく。ある程度の安全が確保できれば、物資輸送用の多脚機械、<バックパッカー>を投入できる。


 バックパッカーはアフラーシア連合王国のノースエンドシティで運用されている、不整地での物資運搬用の小型機械だ。少人数の人類パーティーと行動を共にすることを目的にしている輸送機械で、運用実績も着実に積み上がっている優れた機械である。

 最前線での利用はさすがに難しいだろうが、道中の運搬役としては優秀だろう。


 多脚戦車のような攻撃力の高い自動機械の投入は、現時点では見送っている。

 そもそも巨体過ぎて目立つうえ、接近戦を主な攻撃手段としている家族チミヤーとの連携が難しいという問題があるのだ。


 道中の護衛や拠点防衛に陸上戦艦ヨトゥンを使用する案もあったのだが、生身の人類と共働するには、稼働に伴って排出される重金属や放射性物質のフィルタリングが必要であるため、難しいと判断されていた。

 フィルター装置を追加すると搭載量に制限が出るため、コストパフォーマンスが悪化するのだ。それに、多脚戦車類と同様の問題で、共闘も出来ない。


 当面、最終防衛装置として、固定砲台として運用する多脚戦車を送り込むような協力体制を想定している。<パライゾ>は、とにかく物資を供給するのだ。


 ある程度開拓が進み、道の整備が進めば、鉄道敷設が可能になるだろう。そうすれば、防衛用、物資輸送用に装甲列車を走らせることが出来る。


 鉄道であれば、駆動エネルギーを外部供給とすることが出来る。そうすれば、排出される有害物質は極力抑えられるだろう。


 とはいえ、さすがに森の中に鉄道を敷設できるようになるには、安全確保が不完全。まだまだ時間がかかるだろう。


 そして、こういった自動機械を駆動させるため、現地にエネルギー炉を設置する必要がある。当面、使用するのは核融合炉だ。


 現在<ザ・ツリー>が運用している核融合炉は、おおまかに2種類存在する。


 移動可能な大型機械に搭載するための小型核融合炉と、拠点設置型の大型核融合炉である。


 大型の核融合炉は、自然環境からの採取が非常に困難な三重水素トリチウムの生産も担っている。


 小型核融合炉は重水素デューテリウムと三重水素の反応によりエネルギーを生産しているが、この三重水素を採取するのはほぼ不可能、という問題がある。重水素は海水から採取可能だが、三重水素はほぼ存在しない。

 そのため、トリチウムの生産が可能な大型核融合炉を同時に運用する必要があるのだ。


 重水素と三重水素が反応すると、ヘリウムと中性子が生成される。この中性子が炉壁などを放射化するが、たとえばリチウムと反応させることで三重水素の生産が可能なのだ。


 ちなみに、重水素のみ、あるいは軽水素(一般的な水素)とホウ素を使用する核融合など、別の核融合反応を利用することも可能なのだが、反応条件が厳しいため、D-T反応(重水素・三重水素を燃料とする反応)と比較すると効率が悪い。当面は三重水素の生産を続ける必要がある。


 そんな大型核融合炉を複数、魔の森入り口に建設中である。

 これらが稼働すれば、現状のマイクロ波給電によるエネルギーロスが緩和されるのだ。それにより、同時稼働可能な自動機械数は数倍になるだろう。


 この物資集積所はこのまま規模を拡大し、プラーヴァ神国北側の魔の森開拓全てを管理する巨大な基地となる。家族チミヤーに対する支援、通常生活用の住居の提供も行われる。また、魔の森から採取される様々な素材についても一括で扱う予定だ。


 魔の森素材の安定収集・供給に成功すれば、魔法研究の最前線がここになるかもしれない。


 そして、ヤーカリ港から各地の生産拠点や集積拠点を経由しつつ、鉄道を接続する。これが完成すれば、プラーヴァ神国の大動脈となるだろう。農地開拓の拡大も、自動機械の投入によって飛躍的に向上する。化学肥料も普及中のため、穀物の生産量は数年で数十倍になるだろう。


 これらの大量の物資を家族チミヤーに供給すると共に、他国への輸出も行う。

 現在は実質レプイタリ王国とだけ行っている海上貿易だが、周辺国へもそれを広げるのだ。


 食糧が国民に行き渡ることになれば、それらの国々の国力も上がるだろう。そうすれば、鉱物資源の採掘も拡大する。食糧を鉱物に変換することが出来るのだ。


 効率だけを見ると良くはないが、人道的には悪くない貿易だろう。


 また、国力が高まれば、魔の森の探検にも力を入れることが出来るかもしれない。

 魔の森に関しては、いくら人手があっても足りないのだ。<パライゾ>製冒険装備を供給することで、冒険フィーバーが起こるということも考えられる。


 人類国家との付き合い方というのは、当面は手探りが続くことになるだろう。

 現状で観測している限り、<ザ・ツリー>の脅威となるような国力を持っているのは、森の国(レブレスタ)であろうか。あの国はいまだ、底が見えない。

 ただ、険悪な関係というわけでもない。

 そのため、<パライゾ>の印象が悪くなるような行動を控えるようにしているのだ。


 まあ、プラーヴァ神国への侵攻と征服がばれると面倒かもしれないが。

 これは当面の間隠しておく予定のため、問題は無いだろう。


 その関係で言うと、侵攻していたプラーヴァ神国と各国の戦線については何らかの手当を行う必要がある。

 今のところ、前線に配置されていた僧兵達については放置しているが、本国との連絡が付かなくなったことに遠からず気付くだろう。もし連絡のために戻ってくるようなら殲滅すればいいのだが、それで前線が留守になるのは面白くない。


 プラーヴァ神国が<パライゾ>に占領されたということは、現在拡大しているプラーヴァ神国の勢力圏は、そのまま<ザ・ツリー>のものになったということだ。


 これを、僧兵不足を理由に縮小するというのも面白くない。


 地図上で言えば、国家2つをまるごと、さらに隣の国を半ばまで侵略しているのが現状だ。

 その国土全てを、何の対価も得ないまま解放するのは避けたいところである。


 これについては、レプイタリ王国に協力を仰ぎつつ対応するしかないだろう。

 救援要請に応える形で軍を派遣し、支配地域を奪い返すようにするなどが考えられるだろうか。

 何にせよ、この問題は時間制限があるため、早急にアマジオ・シルバーヘッド公爵に要請する必要があった。

プラーヴァ神国の勢力圏をそのまま維持する妙案があればいいのですが。

アマジオ氏に頑張っていただきましょう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] お話だとサクサク核融合炉設置の話が進展するんだけど、現実には多国籍総掛かりでもあれだもんねぇ。 亀やカタツムリの歩みより遅いもんなぁ... まあ、「今生ではもうないかな」と諦めてた阪神タイガ…
[一言] いやああああああ!! 魔の森がトリチウムの汚染水で汚染されて健康被害が出ちゃうううう!! って騒ぐ一般人でないかなぁw
[良い点] 更新乙い [一言] >>よとぅん君 >>稼働に伴って排出される重金属や放射性物質のフィルタリングが必要 垂れ流しは草枯れる
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ