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第284話 アイリスは頑張った

「我々は、魔の森の先を目指している。我々の目的とあなた方の目的が、少なくともあなた方の聖地までの道を拓くという事に関しては、一致していると考えている」


「……我ら家族チミヤーの目的は、その通りだ。これまで、その言葉を交わし同盟を結ぼうとする大勢の者がいたが、ついぞその約束が果たされることはなかった」


 家族チミヤーの代表は、そう言った。

 国としては短い、二百年に満たない時間の中でも、多くの間諜が入り込み、家族チミヤーの懐柔を試みてきたらしい。


 だが。


「物資は途絶え、人は送られず、しかし我らの武の派遣を求める。我らは、外の者を信用しない。信頼しない。約束しない。我らから、何かを出すことは決してない」


「我々があなた方に求めるのは、ただ前に進むことだ。道を拓くことだ。それは我々だけでも可能だが、あなた方の協力があれば、より進むだろう」


「……あなた方は、力を示した。我らが国は、あなた方の支配下となっている……」


 その程度の情報であれば、どうやら集めているらしい。もちろん、<アイリス>も可能な限り情報を集めている。家族チミヤーは、物資不足を理由に開拓を一時停止している。

 当然それは、<ザ・ツリー>の侵攻が原因である。


 だが、そもそも、開拓とその道の維持も限界に達していたようだった。


「我々の侵攻は、あなた方が外に戦争を仕掛けたためだ。我々の友人からの助けの求めに応え、我々はこのプラーヴァ神国への侵攻を決めた」


「……なるほど。そうか。……やはり、我らにとっては性急な選択だったか」


 教皇が、外征を決めたのだ。

 国内の土地は十分にあったが、国民が足りなかったのだ。食糧を増産しようにも、産出量は限界に達していた。しかし、魔の森の開拓には大量の食糧が必要だ。

 それに、武具も揃える必要があった。

 プラーヴァ神国の金属技術はあまり高くない。

 ゆえに、これらを外国に求めたのだ。

 自国の戦力が非常に高いということを理解し、十分に勝算があると判断し、教皇は外へ出ることを決めたのだ。


「必要な物資は全て用意する。すぐに信用しろとは言わない。だが、求められれば可能な限りの支援を行う準備はしている」


「……あなた方の言葉に従おう。我らも、あなた方と争うことは避けたいと考えている。大司教を下したあなた方との戦いは、我らにも耐え難い苦難となるだろう」


「我々とあなた方の見解は一致した。まずは、争わないということを双方で確認できた」


 そうして、イチハツ=アイリスとウレベリュアは握手を行う。

 決めなければならないことは多い。

 だが、家族チミヤーと<ザ・ツリー>の全面衝突は避けられたのだ。


◇◇◇◇


「同じ国民とは思えないわねぇ」


はい(イエス)司令マム。そもそも、僧兵達とは会話もできませんでしたので」


 村や町を占領しているとき、貴重な人形機械コミュニケーターを使用し、何度も対話を求めたのだ。だが、僧兵、司祭、大司祭はどれも対話は不可能だった。

 どんな思想で動いていたのか、どんな原理で意思疎通を行っていたのかは分からないが、どこであっても、誰であっても降伏勧告には一切応じない。

 対話は不可能。<ザ・ツリー>のユニットは敵と判断され、常に抵抗されたのだ。


「不思議な国ね。でも、国民の結束力……というか、僧兵の結束力は異常ね。ほんとに、今の段階で潰せて良かったわ」


はい(イエス)司令マム。初期時点で叩けたのは運がよかったと言えるでしょう」


「お姉さま、これはとんでもない脅威ですよ! このプラーヴァ神国は、一大陸の一部の国家の現象でしかありません。それも、技術レベルは最低、文明度も低く、ただただ魔法能力が尖っていただけです! それなのに、今のアサヒ達で苦労する軍事力! この惑星、早々に状況を把握しないと、手遅れになるかもしれません!」


 データ解析の手伝いのために<ザ・ツリー>に戻されていたアサヒが、イブの隣で叫んだ。


「北大陸ですら、南部がかろうじて調査が終わった程度! 東側は、西側は。そろそろ、本格的に調査団を送り込む必要がありますよ!」


「そうね。通信経路の確保も目処が立ったし、派遣部隊を揃えることも出来るわね」


はい(イエス)司令マム。衛星写真はたまっていますが、解析不能な地域が多数存在します。我々の脅威となる文明の有無は、早急に調査が必要でしょう」


◇◇◇◇


 イチハツ=アイリスは最初の交渉を終えると、すぐにベースキャンプの設営にかかった。

 後方で待機している部隊から、多脚重機が資材を抱えて走ってくる。それらは瞬く間に組み上げられ、即席の資材置き場が出現した。


 そこに運び込まれたのは、コンテナに収められた大量の食糧だ。


 袋詰めされた麦、ビスケットなどの穀類。

 燻製肉、塩漬肉。

 カロリーバーのような、加工保存食。

 パッキングされた水や酒。

 岩塩、精製塩。

 蜂蜜、砂糖、シロップ類。


 複数のコンテナに目一杯詰め込まれたそれらを、初回サービスとして全てを家族チミヤーに引き渡したのだ。

 今後の物資は、価値のあるものとの物々交換となる。基本的には魔物の素材を想定しているが、鉱石なども受け付けることになるだろう。


 また、商品サンプルとして、布地や糸などもつけていた。

 布地も糸も、麻のような植物繊維のものを使用していたようで、品質の高い<ザ・ツリー>製品にずいぶんと興味を示していた。セルロース糸やナイロン糸、生産を開始した綿である。


 とはいえ、強度や美しさで言うと、魔物の生産した糸というものが既にあるようで、それほど驚かれたというわけではない。

 交換対象として一部確認したところによると、絹のようなものらしかった。


 アサヒ曰く、化学的な構造にはとくに特異な点はなく、強度も相応。

 ただ、どうやら何らかの魔物が大量に生産するらしく、それを採取しているようだ。


 最後に、金属製品。

 これらは非常に喜ばれた。単純に強度の高い、硬いだけでなく粘りのある金属は、武器に重宝されるようだ。

 食糧も当然重要だが、それはある程度狩りや採集で手に入るため、武器の方を熱望された。


 とりあえず、簡易的な精製プラントと鍛造設備を用意すれば受け入れられそうだというのが現状の見立てである。


 現在、家族チミヤーの拠点は森の浅い場所に引き上げているらしい。奥地に行くには物資が不足しているとのことだ。奥地では基本的に魔物による襲撃が頻繁に発生し、食糧の生産や採取が非常に難しい。森の浅い場所、あるいは外でそれらを生産する必要があるのだ。

 だが、奥地に拠点を持ったままだと、その防衛と、物資の輸送に手を取られる。外からの供給が無いと、拠点の維持すら難しいのだ。


 本来、この戦争の間だけと一時的に引き上げ、奥地は維持の要員のみを残し、供給が安定してから再進出する予定だったようだ。

 それが、<ザ・ツリー>の侵攻により全て狂ってしまったということだ。


 これまで、プラーヴァ神国は辺境に位置していたこともあり、国土を拡大してもまともな衝突は起こっていなかった。それが、数十年前に別の国家の国境と接することとなり、その拡大が停滞してしまっていたのである。


 家族チミヤーとしては、無理して戦力を外に出すのではなく、現状いけるところまで魔の森に侵入してからゆっくりと拠点構築を行いたかったようなのだが、教皇側が早急な拡大を望んでしまったというのが、神国による大規模侵攻の始まりとなったのだ。


 この情報を確認すると、アマジオ・シルバーヘッド公爵はため息をつきながら「外交音痴がよお……」とつぶやいたとかなんとか。


 何にせよ、物資提供によって家族チミヤーとの関係は良いスタートとなったのだ。

 あとは、双方の利益を高めつつ協力関係を築いていけばよい。

アイリスちゃんは頑張り屋さんのいい子です。

問題は、イチハツちゃんという体を手に入れたことですね。スキンシップ待ったなし。

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― 新着の感想 ―
エルフがいたということは、当然ドワーフの地底帝国も! 衛星では見つけにくいでしょう 更にはアースドラゴンとか堅くてつおい脅威生物が! アサヒによって調査が進み……どこかで大反発が発生しそう?
[良い点] 更新乙い [一言] >>この惑星、早々に状況を把握しないと、手遅れになるかもしれません! それはそう 視界や国交が通ってない勢力が、いつの間にか勝利条件達成目前だったとか、それでなくても核…
[一言] 早期制覇が無かったら泥沼状態になるところだったと 地味に向こうの侵攻タイミングも都合ご良かったのね
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