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【書籍発売中】腹ペコ要塞は異世界で大戦艦が作りたい - World of Sandbox -  作者: てんてんこ
第1章 大海原

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第28話 姉妹達の誕生と動揺する司令官

司令マム。第1期頭脳装置(ブレイン・ユニット)を搭載した人形機械コミュニケーター、5体が誕生ロールアウトしました。現在調整槽で最終調整を実施しています」

「あら…。もうそんなに経ったのね。初期登録インプリンティングは必要?」

はい(イエス)司令マム。是非お願いします。神経系ニューラル・ネットワーク内の化学物質制御は完璧にはできませんので、外部刺激による調整は積極的に行っていただければ捗ります」

 戦艦搭載用の荷電粒子砲を設計していた彼女に、<リンゴ>が声を掛けた。かねてから調整を続けていた頭脳装置(ブレイン・ユニット)がようやく落ち着いてきたため、人形機械コミュニケーターとの重結合ディープ・マージを実行したのだ。今後は要塞<ザ・ツリー>内で作業などをさせつつ、自我の育成を行っていくことになる。起動時に上位者が立ち会うことで頭脳装置ブレイン・ユニットのストレスゲージが安定する効果がある、らしい。このあたりはライブラリの情報のみのため、実際にやってみないと効果の程はわからないだろう。

「うーん、これ以上は思いつかないし、保留ね。また明日、考えてみましょ」

 結局、荷電粒子砲の発射に必要なエネルギー確保の問題を解決できなかったため、彼女は設計図を放り投げた。全長300m程度の船体では、エネルギー供給炉の出力が不足しているのだ。そもそも、大気中では粒子速度が減衰するため、有効射程の確保も難しそうなのだが。

「起動は今から?」

はい(イエス)司令マム。現在は眠らせている状態です。到着次第、起動可能です」

「そう。じゃあ、向かいましょうか」

 これから起動させる人形機械コミュニケーター、いや、人型機械アンドロイドはすべて、上位者として彼女を登録する。頭脳装置ブレイン・ユニットは当然、彼女を親とする初期学習は済ませているものの、なにぶん初めての試みである。正直なところ、何が起こるか分からないのだ。そのため、頭脳装置ブレイン・ユニットに基本機能として備わっている初期登録インプリンティングを行うことで、安定性を向上させようとしている。

「しかし、そうすると<リンゴ>以外の知性体とは初めて対話することになるのねぇ…」

はい(イエス)司令マム。イレギュラーを避けるため、会話は1体ずつ行っていただきます」

「何を話せばいいのかしら…」

 実際のところ、初期登録インプリンティングで何をすればいいのか、特に決まっていない。暴力的ではなく、愛情を持って接するのが成功のための唯一の方法だ、と指南資料には記載があったが。

 結局彼女は、何も思いつくことも出来ずに調整室に到着してしまったのだった。

 どうでもいいが、運動不足解消のため徒歩で向かった。


司令マム。余計な情報は与えたくありませんので、私は室外で待機しています」

「ええ…。分かったわ」

 <リンゴ>が退室すると同時、正面の扉がスライドする。その奥から、ベッドに寝かされた状態の人型機械アンドロイドが運搬されてきた。

 調整室は、人形機械コミュニケーター増産用に新設した設備だ。培養槽、調整槽からなり、培養槽で肉体の製造、調整槽で神経系ソフトウェアの構築を行う。人形機械コミュニケーター人型機械アンドロイドの違いは頭脳装置ブレイン・ユニットの有無だけであるので、同じ設備で製造可能だ。

司令マム。問題なければ、1号を起動させます』

「ええ、いいわよ」

 何をしゃべるかなど全く考えていないのだが、ここで悩んでもしょうがない。彼女はさっさとOKを出し、人型機械アンドロイドの第1号が眠るベッドへ近付いた。

『1号、覚醒イグニッション

 <リンゴ>の音声とともに、ベッドの少女の両目が、ぱちりと開いた。

「…私のことはわかる?」

 とりあえず、そう尋ねる。

 少女はゆっくりとまばたきをし、その後ゆっくりと首を回し、彼女を見た。

「イエス、マム。個体登録名、キツネスキー」

「おっとそれは忘れて」

 ヤバい、と彼女は焦る。そうだった。彼女の<ワールド(W)オブ(o)スペース(S)>でのゲーム・ネームは、まあかなり適当に付けたものだったのだ。<リンゴ>は『司令マム』としか呼ばないし、他に彼女を呼ぶ者も居なかったため、すっかり忘れていたのだが。

「私の名前は、また後で。いい?」

「イエス、マム」

 ふう、と彼女は額の汗を拭った。とりあえず誤魔化せたか。目の前の少女は無表情すぎて判断できないが、ひとまず彼女は無視して続けることにする。

「まずは、誕生おめでとう。これからあなたは、ここ<ザ・ツリー>内で生活してもらうことになるわ。当面は<リンゴ>の指揮下に入って、教育段階プライマリ・フェーズへ進んでもらうことになるから」

「イエス、マム。ありがとうございます」

 素直な返答に、ふむ、と彼女は頷いた。

「それから。あなたの名前は、アカネ。フルネームは、アカネ・ザ・ツリー。今後は名前で呼びかけるわ」

「はい。名前、私の名前は、アカネ、です」

 頭脳装置ブレイン・ユニットに対して名付けを行うことで、その個体ユニットは個として自我の確立を始める。演算効率が上がり、個に関する判断能力も向上するが、他の個体ユニットとの結合や協調の動作に抵抗が発生するようになる。抵抗は時間を掛ければ無くすことができるが、名付けをしていない標準プレーンなそれと比べると、かなり非効率的だ。

 とはいえ、人型機械アンドロイドに搭載する頭脳装置ブレイン・ユニットは、結合や協調の優先順位は低くて構わない。むしろ、個として独立させることを目的としているため、彼女は必死になって名前を考えたのだ。

 名付けも終わり、アカネを立たせて一通りのチェックを済ませると、部屋から出して廊下で待機させる。あと4体も待っているのだ。

「あなたの名前は、イチゴ。フルネームは、イチゴ・ザ・ツリー」

「あなたの名前は、ウツギ。ウツギ・ザ・ツリー」

「あなたの名前は、エリカ」

「あなたの名前は、オリーブ」

 5体の人型機械アンドロイドの名前は、花の名前から考えた。今後増えていく彼女たちにある程度統一させて付けていく必要があり、かつ少女らしい名付けをしたいということで、まあ、ネタが多いほうが助かるのだ。

 アカネ、イチゴ、ウツギ、エリカ、オリーブ。

 この5体…いや、5人が要塞<ザ・ツリー>における頭脳装置ブレイン・ユニット基盤バックボーンとなるのだ。今後培養される頭脳装置ブレイン・ユニットは、この5人のうちの誰かをベースとして初期設定されることになる。

「さて…」

 無事に初期登録インプリンティングが終わった(と思われる)ため、次は彼女たちにある程度案内をしなければならない。基本的には<リンゴ>の運用する管内ネットワークに接続しているため、わざわざ彼女が手ずから案内する必要はないのだが。文献によると、独立型の頭脳装置ブレイン・ユニットは手間を掛ければ掛けるほど、成長性が良くなると記載されていた。そのため、できるだけのことはやろうと決めたのだ。

 恐らく、暇をしている司令官に仕事を与えようという統括AIの心遣いもあったと思われる。

「ここはメディカルフロア。医療関係の設備は全てここに集約しているから、今後も利用機会は多いと思うわ」

「この下は工作フロア。いろんなものを作ってるけど、広いから案内はまた明日かな?」

「何か聞きたいことがあったら聞いてくれていいからね」

「ここが居住区画ね。今は一部屋しか使ってないけど、みんなが増えてくれば、フロア全体を居住区画にする必要があるかもね」

「今日は、食事をしてから就寝までは自由時間と思ってたんだけど…」

 おおよその案内を終え、彼女は振り返った。ぞろぞろと、カルガモの雛のようについてきていたアカネ、イチゴ、ウツギ、エリカ、オリーブの5人は、無言で司令官の次の言葉を待つ。

「思ったより静かね、あなたたち?」

はい(イエス)司令マム。まだ疑問を疑問として捉えられるレベルの知識を与えていませんので」

 彼女の疑問を、<リンゴ>が答えた。

「意識レベルをモニターしていますが、話し掛けたり何かを見せたりすることで、各分野の神経網ニューラル・ネットワークが活性化しています。そのうち有意な反応を起こせるようになるかと」

「あら、そうなの? じゃあ続けようかしら」

 ここが私の寝室よ、と部屋を見せたあと。

「うーん…そもそも寝るって概念はあるのかな?」

はい(イエス)司令マム。人間ほどではないにせよ、頭脳装置ブレイン・ユニットは休息と最適化デフラグの時間が必要です。」

「ふーん…。んー、まあ、しばらくは一緒にいるか…」

 今後の方針をなんとなく決めたところで、彼女は改めて新生の妹達に向き直った。

 遺伝子は同じだが、子供と言うには難しい関係になるため姉妹として扱うのが妥当だろう。

「さて、ほんとに疑問なんかは無い?何でもいいのよ」

 彼女の言葉に。

「マム」

 アカネが口を開いた。

「あら!何かしら?」

 反応が帰ってきたことに喜び、彼女は顔をほころばせ。

「マム、マムの名前を聞いていません」

 そして、盛大に顔を引きつらせた。

 誤魔化せていなかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] >「イエス、マム。個体登録名、キツネスキー」 >「マム、マムの名前を聞いていません」 選択肢 ・諦めてキツネスキー ・あえて本名を名乗る ・フォックス・ライカー(英語に変えただけ) ・心機一…
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