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第277話 超音速人間

「ええ……。音速超えてるでしょ。衝撃波は?」


はい(イエス)司令マム。観測されませんでした」


『お姉さま! なんか楽しいことになってますね!!』


 ついに、朝日アサヒが首を突っ込んできた。

 それにより、アカネの感情図形エモーショングラフが僅かに安定を取り戻す。

 どうも、立て続けに理不尽ファンタジーな現象が観測されたため、ストレスを感じていたらしい。もしかすると、アサヒもそれに気付いて口を出してきたのかもしれない。


「アサヒ。そっちはいいの?」


『はい、まあ脅威生物の観測をしていただけですからね』


 そう言いつつ、アサヒのアバターがにゅっとディスプレイに出現した。


『城壁は無生物ですが、脅威生物の障壁がちゃんと展開されているんですね。興味深いです』


「<アイリス>は、上空や地下の展開状況と、歩兵クラスが接触したときにどう反応するかを確認したいと考えている」


 アカネは、自身が基盤バックボーンであるという特性を利用し、<アイリス>の思考を自身の頭脳装置ブレイン・ユニット上に展開することができる。時間が経ち、乖離が大きくなれば難しくなるようだが、株分けされて1年未満のため、まだまだ同期可能だ。


「南部の城門とその周辺の奪取を計画している。ある程度敵ユニットの排除が完了した後に、人形機械コミュニケーターによる侵入を試行しようとしている」


『なるほど。障壁が何に反応しているかのテストですね。少なくとも砲弾は防いでいますが、出入りする人間にはどう反応するかということですね』


 確かに、それは気になるところだ。


「全てを遮断しているなら、障壁の展開のON/OFF機構があるってことね。それが無いなら、何らかの識別をしていると」


『あ、そのとおりですお姉さま。なんとなく、自動展開している気はしますけどねぇ』


 そんな話をしていると、一発の砲弾が聖都上空に着弾した。

 そう、上空である。


「お姉さま。上空にも障壁が展開されている。城壁に展開されたものとの連続性は不明」


 空中の<ムネモシネ>から打ち込まれた徹甲弾が、球状の光る障壁に防がれ、爆散したのだ。上空からなら侵入し放題、ということにはならないらしい。


「それにしても、ヨトゥンがああも簡単に……」


 イブが確認しているのは、主砲4門を破壊されたヨトゥンである。音速を超える速度で走ってきた司祭が、あれよあれよという間に砲身を切り落としたのだ。巨大な機構で、かつ精密機械であるため、緊急回避もできなかった。


 あそこまで接近されてしまうと、どうしようもない。

 普通は、そこまで肉薄される前に排除する想定なのだが。前線に展開した兵器類をガン無視して近付かれたため、退避の時間も稼げなかったのだ。


「ひとまずレーザー砲の集中運用により排除は可能と判明しました。それだけでも有用な情報です。強力なユニットはタグ付けし、戦場を制御しましょう」


「了解した。タグ識別開始。<アイリス>が把握している対象ユニットは6体」


 あの司祭クラスに自由に動かれると、遠くないうちに全てのヨトゥンを無力化されてしまうだろう。それは面白くない。

 対抗できるのは、いまのところレーザー砲の集中運用だ。

 察知されない距離から狙い撃てば、極超音速砲弾も有効かもしれない。


「今の装備で排除は可能なのかしら」


「飽和攻撃を行うしか無いと現地戦術AIは判定している。<アイリス>も同意している」


『対処できない量の攻撃を叩き込むというのは、質で勝る相手に対する基本の作戦ですね』


 相手は、自身ないし相手に指向する砲を見て対処可能な能力を持つ。少なくとも、漫然とレーザー砲で狙い撃っても、回避されてしまうというのは経験済みだった。


『動きをトレースさせてますけど、どうも、相互通信してる雰囲気がありますねぇ』


「群体制御っぽい動きをしてるかな~。ユニット同士で通信してる可能性、大だよ」


 アサヒとエリカの解析結果に、<リンゴ>も頷いた。


「<セルケト>種も、群れの中で通信しています。魔法を扱う人間も、それを行えると考えた方が自然でしょう」


 相変わらず、地表では四脚戦車と僧兵達が争っていた。互いに戦力を削り合う、泥沼の乱戦だ。

 とはいえ、四脚戦車側の経験蓄積が進んでおり、徐々に情勢は<ザ・ツリー>有利に傾いている。キルレートは増加傾向。

 ただし、ヨトゥンの戦力低下により、天秤が一気に傾いてしまった状況だ。


「殲滅だけなら、空中艦隊による爆撃で片が付きそうね」


はい(イエス)司令マム。ただ、そうすると何の情報収集も出来ません。<アイリス>は情報収集を最優先として攻略作戦を進めています。最悪、情報さえ得られるのであれば、今回の部隊が全滅してもかまわないと指示していますので」


 単に相手を殲滅するだけであれば、アウトレンジから砲弾を送り込み続けるだけで可能だろう。だが、それで手に入るのは一方的に耕された廃墟だけだ。


「追い詰めることで、侵入済みのBOTから情報を得やすくなるかもしれない。現に、いままでこの障壁の情報は秘匿されていた。今は、中心部までBOTを送り込めている」


「それで見つけたのが、あの大きな魔石なのね。アサヒも見た?」


『はい、お姉さま! 興味深いですねぇ。魔石が障壁の中核を担っているのは間違いないようですが、仕組みはさっぱりわかりません』


 聖都の中央地下に安置された、巨大な魔石。この魔石に対し、信者達が祈りを捧げているのだ。その様子は、移動する信者とともに侵入したボットがしっかりと観察していた。

 さすがに人の目が多すぎるため、今のところ接近することはできていないが。


「お姉さま。<アイリス>は<ムネモシネ>による地上爆撃を決定した。ヨトゥンの戦力低下に伴う措置」


「あのまま放置したら次もやられそうだし、妥当じゃないかしら?」


 空中護衛艦タイタン、11番艦<ムネモシネ>は上空2,000mほどを飛行しつつ、腹面に設置された砲から炸裂砲弾の打ち下ろしを開始している。地上設備の破壊と、ついでに強ユニットの司祭達の牽制が目的だ。


 彼らは明確に脅威であるため、早めに潰してしまいたい。


『現地戦力だとレーザー砲で焼却するのが唯一の対抗手段ですかあ。まあ、さすがに外界認識を視覚に頼っている以上、光の速度の攻撃を避けれる道理はなし。もし避けたら、そいつは未来視みたいなスキルをもっているということに!』


「今のところ、そういった脅威は観察されていない」


 アサヒが楽しそうにそう言い、アカネは普通に返した。バッサリした切り返しだが、この2人は大抵こんな感じで会話しているので、本人達は楽しんでいるのだろう。


 地上は爆撃によって耕され、土煙が大量に発生している。視界が悪いと、レーザー砲による攻撃が難しい。少なくとも、土煙に覆われた四脚戦車による狙撃は期待できないだろう。


「<アイリス>は炸裂砲弾の使用をやめた。判断ミス」


「あら」


 <アイリス>は初陣であるため、現場での考慮不足は普通に発生する。<ザ・コア>を使用できる<リンゴ>であれば完璧に近い予測演算も可能だが、<アイリス>のもつ計算資源で実行できる予測機能には限界があるのだ。

 そういう意味で、この聖都攻略は<アイリス>のための教育の場でもある。


「上空からのレーザー攻撃で、もう1ユニットを潰そうとしている。該当ユニットによる精密狙撃制御が開始された。……、今」


 映像の中で、フラッシュのような閃光が瞬いた。プラーヴァ神国側の戦力評価値が、カクンと下がる。

 土煙を蒸発させるほどの熱量が一点に集中し、焦点に存在する物質がプラズマ化したのだ。


 問題は、レーザー砲を同時に発射するため、一時的にマイクロ波給電システムの送電容量が枯渇することだ。レーザー砲を使用した機体は内蔵コンデンサーが空になるため、出力が低下する。

 空爆の最中というのに、僧兵達は元気に四脚戦車を撃破していた。

物理現象を魔法でなんとかするまでがお約束です。

「残像だ」つって超速移動したら、ソニックブームでめっちゃうるさいはず。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新乙い [一言] 情報収集が捗るう!!
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