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第269話 知恵の碑

 プラーヴァ神国内、<パライゾ>によって支配された街、村の教会は完全に破壊され、更地にされていた。

 これは、教会という権威の象徴を無くすことで、完全に支配下においているということを強烈に印象付けることを目的としている。


 そして、そこに更なる施策が追加された。


 教会は、大抵が街の中央に建設されていた。というか、教会を中心に街が広がっている、というのが正しいか。

 とにかく、中央部に教会があり、そこから放射状に街が広がる、というのがプラーヴァ神国の基本的な構造である。


 その教会は更地となり、瓦礫もきれいに撤去されている。そこに<パライゾ>の多脚重機がやってくると、凄まじい勢いで整地を行った。

 元々きれいに平地になっている場所だが、そこを寸分の狂いもなく均し、踏み固め、杭を打ち込み、真っ白いタイルを敷き詰める。


 各街、村の教会跡地は、一昼夜のうちに純白のタイルで舗装された。


 整地されたその中央に、台座が準備されている。


 その台座の側に、要人警護用歩行機械プライメイツに護衛された人形機械コミュニケーターが立っていた。

 普段と明らかに違うその光景に、住人達が徐々に集まってくる。普段はあまり道草を食っていると警備機械シェリフによって仕事に戻るよう促されるのだが、この日は警備機械シェリフも広場周辺に立っているのみで、何か特別なことが始まるのだと彼らは悟った。


 そして、動ける者たちがほぼ全員、広場に集まった。


 そのタイミングで、回転翼機が街に近付いてくる。バタバタと回転翼が騒音を撒き散らしているが、住人達にとっては慣れたものだ。


 また、空から何かが降ってくる。


 彼らはそう考えて、回転翼機に注目する。


 今回使用されている回転翼機は、重量物を運搬するための超大型機だ。そして、確かに巨大な構造物を、その腹から吊り下げていた。


 回転翼機は広場の真上まで来ると、腹に抱えた巨大構造物を、ゆっくりと下ろしていく。

 台座には深い穴が空いており、そこにその構造物が設置された。


 広場の中央に設置されたのは、巨大な黒い板。

 いわゆる、モノリスである。


 荷物を下ろし終えた回転翼機が、地平線の向こうに消えた後。

 モノリスが薄く発光し、その表面に文章を表示した。


『今後、1日1回、ここに文章が追加される』


『この文章の遵守を要求する』


 黒い板の表面に、白い文字でそう書かれていた。


「何か、聞きたいことがあれば、回答する」


 そして。

 微動だにせず立っていた人形機械が、声を発した。


「疑問があれば、今日は私が答える。明日以降は、この広場で、声に出して祈ること。全てに回答できる訳では無いが、翌日、このモノリスが道を示すだろう」


 こうして、プラーヴァ神国に、文明をもたらす石碑が出現したのだった。


◇◇◇◇


「いかがでしょうか」


「いやまあ面白い見世物だとは思うけどね?」


 相手は宗教国家のため、こういう趣向は案外すんなりと受け入れられるのだろう。

 坊主の説教の代わりに、モノリスが語ってくれるわけだ。


「スクロールする機能も付いてるみたいだし、見逃しもなくて至れり尽くせりね」


「1年380日、毎日文章を追加します。おそらく誰かが書き写すでしょう。勝手に経典を作ってくれるというのも、楽で良いですね」


 本当に楽かどうかは知らないが、各街に人形機械コミュニケーターをいちいち派遣する必要がなくなるというのは十分なメリットだろう。

 人形機械コミュニケーターは使い勝手の良いユニットのため、メッセンジャーとしてのみの使い方はもったいないのだ。何か重大な問題の解決にのみ使用したいのである。


 もちろん、何もなくてもたまには顔を出さないと、ありがたみが薄れてしまう。

 そのあたりの采配は、<アヤメ・ゼロ>がうまくやるだろう。


 ちなみに、モノリスの動力は原子力電池だ。メンテナンスフリーで何十年、何百年と運用可能のため、こういった用途に適している。

 とはいえ、そもそもモノリス本体のメンテナンスも必要のため、全体の寿命はもっと短くなるだろう。当然、定期的にメンテナンスを行えばその限りではない。


「これ、本体のAIとかあるんだっけ?」


はい(イエス)司令マム。今のところは、ヤーカリ港に。今後、内陸の地質の安定した場所へ移設します」


 モノリスと基幹AIはネットワークグリッドに組み込まれており、相互に情報を保持している。天変地異などで局所的に寸断されても、全体として通信が損なわれることはない。基幹AIについても複数を同時運用することで、耐障害性は大幅に向上する。


 プラーヴァ神国における内政は、このモノリスネットワークによって管理されることになる。<リンゴ>が介入せず、人形機械コミュニケーターの派遣も最低限に。現地管理用のAIに内政を任せる、という運用の試金石となるだろう。


「運用自体は問題ないと思うけど、現地人の反発がどんなものか、ってのが予想し辛いわよね」


はい(イエス)司令マム。宗教という母体があり、上位存在からの指示に抵抗の薄いこの国だからこそ、受け入れる素地があると想定しています」


 人間が顔を出さず、モノリスから指示する。

 確かに、無味乾燥で味気ない。そして、そんな社会になったときに、人類はどういう反応を示すのか。その知識、経験がないため、半ば実験的にこういった統治体制を構築したのだ。

 要は、データ取りだ。


「アフラーシア王都の講堂は、なんか面白い感じになってるしねぇ」


 アフラーシア連合王国の王都に建造した、叡智の講堂。公爵たちに音声で指示を出すという体制をとったのだが、人形機械コミュニケーターを併用しているため、評価が分散して計測しにくい状況となっていた。


 とはいえ、治安維持に現地の戦力を流用しているため、今更体制の変更は難しい。

 既得権益は、一朝一夕で解消できるものではないのだ。


 もちろん、すべてを粉砕するという解決方法もあるのだが、まあ、今更である。さすがに、大きな問題もなしに突然排除するのは、住人たちの感情的にも受け入れがたいだろう。

 本当に問題がある場合は人形機械コミュニケーターが直々に叩き潰しているため、正義執行機関として認知されつつある、という経緯もあった。


「もうちょっと警戒されるというか、遠巻きにされると思ってたんだけどねえ」


人形機械コミュニケーターが、想定よりスムーズに現地人に受け入れられています。アフラーシア連合王国内での地位は盤石となった、と考えてよいでしょう」


 アフラーシア連合王国内で流通する統一通貨、狐娘印の日用品や農業肥料、薬品類。様々な道具類も、基本的にはすべて<パライゾ>が供給している。

 それらが全て適正価格で販売されているのだから、人気も上がろうというものだ。


 もちろん、対価に提供される労働力も無駄にしているわけではない。

 農作業や畜産、燃石の採掘作業。一部は金属製品の製造、木工、磁器製造にも従事させている。当然<パライゾ>製と比べるべくもない性能だが、いつまでも供給し続けるわけにも行かないため、ある程度労力を割いて教育している最中だ。


 そして、このあたりのノウハウを収集し、適宜フィードバックしていくわけである。

 アフラーシア連合王国、そしてこれからはプラーヴァ神国が、<ザ・ツリー>のための広大な実験場として使われることになる。


「学習指数も向上してるし、悪くはないわね。んー、やっぱり外的刺激が重要なのかしらねぇ」


はい(イエス)司令マム。特に、頭脳装置ブレイン・ユニットについては五感を使用した情報収集が最も効率が良いという結果が出ています」


 人形機械コミュニケーターという端末を使用している頭脳装置ブレイン・ユニットと、そうではない頭脳装置ブレイン・ユニットを比較すると、神経ニューラルネットワークの成長速度に差が出るらしい。

 入力される情報の密度が異なるのと、出力に対するフィードバックが多彩なためではないか、というのが<リンゴ>の予想だ。


人形機械コミュニケーターを安全に運用できる環境が整ってきました。より一層、頭脳装置ブレイン・ユニットの教育を加速させることができるでしょう」

ザ・ツリーの拡大フェーズです。やはり分散グリッド。分散グリッドがすべてを解決する。しらんけど。

多彩なケモミミ娘達、現地では大人気です。最近のトレンドは多様化ですからね。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新乙い [一言] はい、コンピ様……じゃなくてモノリス様、市民は幸福です!!
[一言] モノリスの前で獣の大腿骨を宙に放り投げなきゃ…
[一言]  モノリスが降ってきて、そのモノリスに文字が浮かび上がるってーと、もうン十年前のゲームを思い出しますねぇ。  そんな始まりで、ノアの方舟をモチーフにしたやつで、惑星の動物のツガイを捕まえて…
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