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【書籍発売中】腹ペコ要塞は異世界で大戦艦が作りたい - World of Sandbox -  作者: てんてんこ
第8章 開拓事業

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第266話 撮影会

「今のところ」


 <リンゴ>が続ける。


「我々の機能、思考力、データ処理能力には何ら問題は発見されていません。相当数の頭脳装置ブレイン・ユニットの比較を行いましたが、()()の有無による違いは確認できませんでした」


「面白いですね! <リンゴ>、他にそういう話題はないんですか!?」


 固まってしまったウツギとエリカの間からぴょこんと飛び出し、朝日アサヒが<リンゴ>に突撃した。

 <リンゴ>は、飛びついてきたアサヒを無駄に高度な体捌きで捕まえ、くるりと縦に回して側のソファに叩き込んだ。


「おお!?」


「落ち着きなさい」


 <リンゴ>はアサヒの頭を押さえて動けないようにしてから、投影された画像を切り替えた。


「この()()については、魔法ファンタジーの関与を想定せざるを得ません。我々の持つ科学理論に基づいて観測ができない現象は、ファンタジーと考えて支障はないでしょう」


 少なくとも、<リンゴ>はこの世の現象の科学的解釈に関しては、漏れなく網羅しているはずだ。<ザ・ツリー>と同時にこの世界に出現したライブラリには、すべての知識が詰まっている。そのライブラリをまるごと取り込んでいる<リンゴ>は、宇宙の全てを知っていると言っても過言ではない。


「そして」


 次に表示されたのは、<レイン・クロイン>の体内から発見された巨大な結晶。


「この結晶、分析機器では一切の情報を取得できませんでした。同じ検査方法でも、毎回異なる結果が発生するため、構成物質を同定することができなかったのですが」


 カシャリ、と表示が切り替わる。


「改めてX線による観測を行った結果が、こちらです」


 そこに映し出された画像は、真っ白な何か。画像の端はやや白黒の濃淡が見られるが、全体的に白く表示されている。


「ほーん……。こりゃまた」


 X線は、非常にざっくりと言うと、硬くて厚いものは白く映り、柔らかく薄いものは透過する。


「相手は結晶ですので、透過するとは想定していませんでした。しかし、結晶そのものではなく、周囲空間も何らかの問題でX線が透過せず散乱しています」


「はぁー! つまり、魔素によってX線が阻害されているってことですか!」


「阻害ではなく反射です」


「どっちでもいいです! 魔素が、X線で可視化できるってことですか! できるってことですね!」


 <リンゴ>的にはどっちでもいいということは絶対にないだろうが、教育の結果、アサヒは科学的正確性をあまり気にしない性格になっている(なってしまった)。まあ、ファンタジーに当たりを付けるという初期アプローチにはもってこいの特性だろう。たぶん。


「ちょっといろいろ確認しましょうか! X線撮影装置を早速」


「落ち着きなさい」


「むぎゅ」


 立ち上がろうとしたアサヒを、リンゴが巧みな体重移動でソファに沈めた。達人の体捌きである。


「アサヒの言う通り、魔素の濃淡を2次元的に確認できるなら、文字通り解像度が上がるかしら」


はい(イエス)司令マム。魔素計の数値と比較しつつ、計測器の設計を実施中です。近々十分実用的な計測器を製造できるでしょう」


「おお、おおーおおーー。これですね<リンゴ>、できたらすぐに前線に回してくださいすぐにハリーハリー!!」


 ネットワーク経由で情報を取得したらしいアサヒが騒ぎ出す。<リンゴ>は、ちらりとイブに目をやった。

 イブはため息を吐き、頷く。

 話が進まないほどではないが、とにかくうるさい。


「ちょお、んん!? <リンゴ>、急になんですか!!」


「アサヒはちょっと静かにしましょうねぇ」


「きゅん!」


 忍び寄った自走マニピュレーターがアサヒの首根っこを掴んで、投げた。追いかけた<リンゴ>が宙を舞うアサヒの腰あたりの服を掴んで減速させると同時、イブの両側に座っていたイチゴとオリーブが立ち上がりアサヒを捕まえ、これも巧みな体捌きで運動エネルギーを打ち消し、一回転させつつイブの上に軟着陸させた。


「な、なにおうふぅ」


 イブは、顔から突っ込んできたアサヒを抱きしめて物理的に口をふさぐ。


「よし。<リンゴ>、続けなさい」


はい(イエス)司令マム


 <リンゴ>が次に表示したのは、<ザ・ツリー>を中心としたマップ情報。


「計測途中ではありますが、おおまかに分布はわかりましたので説明します」


 計測した魔素濃度をプロットした、濃度マップだ。


「<ザ・ツリー>を中心とし、半径120kmほどがおおよそ最低値です。外縁から<ザ・ツリー>に向けて、徐々に魔素濃度は高くなっています」


 <ザ・ツリー>を中央に、ややいびつな同心円がいくつも描かれる。計測された魔素濃度で、同じ数値の点を線で結んだ等高線だ。真円とはとても言えないが、それでも、<ザ・ツリー>を中心とした円状。

 間違いなく、魔素濃度の中心点は<ザ・ツリー>である。


「気になるのは、最も魔素濃度の高い箇所が、<ザ・ツリー>周囲1kmの円周であるということです。<ザ・ツリー>の魔素濃度もかなり高いですが、比べ物になりません」


 <リンゴ>が説明しながら、マップを拡大する。


 <ザ・ツリー>とその周辺数百mは、濃淡はあれどおおよそ1,200%ほど。そこから急激に濃度は上昇し、最大点で2840%。おおよそ2500%程度の濃度が、この約1kmの円周です」


 魔素濃度が最も高いのは同心円の中心ではなく、そこから1km離れた円周上。


「ほーん……。……うーん、意味わからん」


 そのマップを眺め、イブは首を傾げた。アフラーシア連合王国の魔の森で観測中の魔素溜まり(ホットスポット)のように、中心付近が最も魔素濃度が高いというわけではないらしい。


「……ほねえはま!!」


 と、イブの胸に顔を埋めていたアサヒが、ペシペシと小さな手でタップする。何か言いたことがあるらしい。仕方なく、イブが力を緩める。

 がば、とアサヒが顔を上げた。


「これは水面の波紋によく似てますよ、お姉さま! 魔素の特性うぶぅ」


 うるさくなりそうだったため、イブは再びアサヒの頭を抱え込んだ。


「波紋?」


はい(イエス)司令マム。現在観測した魔素濃度の分布を見る限り、波紋によく似た山と谷があるようです。実際の波紋のように、外側に広がっているのかは継続的な観測が必要ですが」


 <リンゴ>が気を利かせて、魔素濃度マップを横からの表示に切り替える。

 確かに、<ザ・ツリー>を中心に、外側に向けて波が発生しているように見えた。


 もしこれが見た目通りの波紋だとすると、一体いつ発生したのだろうか。


「定点観測地点の魔素濃度の変動を継続記録すれば、いずれ判明するでしょう。……重要なのは、我々は遂に、理不尽ファンタジーの根源と思われる<魔素>の観測手段を手に入れたということです」


 再びアサヒがタップしているが、イブは今度は手を離さない。


「魔素とX線がなぜ反応するのかなど不明点はありますが、それはいずれ解明できるでしょう。現時点では、相当の魔素濃度が無い限りは観測できませんが、やりようはあります」


「……X線なら、恒星からも出てるのかしら?」


はい(イエス)司令マム。ただ、本惑星の大気に吸収されますので、地表では観測できません。発振源を準備する必要があります。また、遠方に届かせるためには相当な強度の照射が必要になります。X線は高エネルギーですので、周囲への影響を考慮する必要がありますね」


 通常の可視光カメラやアクティブレーダーなどは、使用しても対象への影響はほぼない。だが、X線は強力な電磁波であり、生体に照射すれば遺伝子破壊などの影響が発生する。


 迂闊に垂れ流すと、周囲環境への影響が馬鹿にならないということだ。


 発振設備周囲の生物相が壊滅する、という可能性もある。

 もちろん、必要であればそれをするのは吝かではないが、どんな影響が発生するかは予想もできないため、慎重さは必要だろう。


「バタフライエフェクトだっけ? なーんか、魔の森周辺、そんな気配がするのよねぇ」


はい(イエス)司令マム。注視が必要です」

アサヒちゃん、可愛いですね。

この子がいるとまわりを動かしやすくて重宝します。みんな大人しい子ばっかりで……。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 本屋でビビッときて買ったら続きが気になり一気に最新話まで追いつきました [一言] 百合百合なアハーンウフーンキャッキャウフフはいつ出るんだろう(;゜∀゜)=3ハァハァ
[一言] 面白いです、良い物語をありがとうございます。
[一言] >「……ほねえはま!!」  骨絵浜? 骨の絵がズラッと大量に展示されてる浜なのかな?(すっとぼけ) >「波紋?」  キツネスキーさんなら、魔法を飛び越えて幽波紋まで会得できそう。
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