第258話 今後の付き合い方
「我々が動員可能な戦力について、改めて報告します」
「うん、お願いね」
<リンゴ>が、司令のため、またアマジオへの情報共有も兼ね、戦力報告を行うことになった。とはいえ、アマジオにはデータ送信すればよいだけなので、これはそういう雑談を兼ねた懇親会のようなものだ。
「まずは、情報収集用の偵察衛星です。現在、全27機の衛星を試験的に運用しています」
『衛星ねぇ……。数はそんなものか?』
「脅威生物……あ、魔物のことだけどね。脅威生物の情報収集が不完全だから、慎重にしてるのよ。衛星軌道上まで攻撃が届くような種もいるし……」
『……。は?』
いきなり横道に逸れたが、ちょうどいい、とアマジオにワイバーンや光線砲を打ち込んでくる何か(恐らく植物)がいるということを伝える。
『つーかよぉ。マジでお前ら、ファンタジー楽しんでんなぁ』
「ちょ、じょーだんじゃないわよ! こっちも必死なんだから!」
顔を引き攣らせるアマジオに、イブも食って掛かった。とはいえ、アマジオも歴史改変的に国を作っているのだから、人のことは言えないのだが。
『まあ、分かった。元々魔物共が邪魔だとは思ってたが、それほどとはな。つーか一個生命体で衛星軌道まで攻撃できるって何だよチートかよ』
「それには同意するわ……」
「そんなわけで、衛星投入は最低限に抑えています。GPS衛星を6機、資源探査用衛星を8機、偵察衛星を6機、宇宙空間監視衛星を2機、重力計測衛星を5機」
衛星の数は少ないが、数年で打ち上げたとなれば話は別だろう。<ザ・ツリー>の来歴を確認したアマジオが、情けない顔をする。
『よくもまあ、こんな短期間でここまで……』
「良くも悪くも、周りに何もなかったからねぇ……。私達だって、魔の森の中に出現してたらたぶん終わってたわよ。ま、運が良かったんでしょう」
『そうだな。よし、そのへんの話はまた後だ。いまはプラーヴァ神国攻略の戦力確認だからな』
現在プラーヴァ神国に上陸している戦力は、下記の通り。
陸上戦艦<ヨトゥン>が3隻。
同時行動している多脚戦車が1,640機。ヤーカリ港とその周辺地域の防衛戦力として202機。
多脚地上母機が56機。ヨトゥンに10機ずつ、ヤーカリ港周辺に26機。
多脚攻撃機多数。ヨトゥンに各800台、多脚地上母機に各4台、占拠した村や街に合計2,230台。
対人ドローンは840機、対地ドローンが145機。
人形機械は35体、2足護衛機<プライメイツ>が4体ずつ、140体。
治安維持用の警備機械<シェリフ>が、それぞれの村、街に合計6,840体。
『全く、冗談みたいな数を出しやがってよぉ』
「これでも最低限に抑えたのよ。聖都侵攻前に増産する予定だから、とりあえずよとりあえず」
しかも、ナグルファル級、フリングホルニ級を含む船団に守られた巨大輸送艦<ミズガルズ>が第2要塞を往復し、せっせと戦力と資材を輸送しているのだ。
戦力はまだまだこれから増えていくことになる。
「ひとまず中継都市<ゲーニー>は掌握したわ。ここの郊外に拠点を建設する。現時点で陸上戦艦3隻が集まってて戦力過剰だから、護衛戦力を残して3隻は周辺制圧に派遣するわ」
『あちらさんは気が休まらないな、それだと……』
「圧力を掛けて、聖都に戦力を集めさせるためでもあるわ。侵攻再開は3日後ね」
ゲーニーを中心に戦力を東西に派遣し、プラーヴァ神国南部を完全に陥落させるのだ。これに3週間ほど掛ける予定である。
また、占領地域が増えるため、戦力は今の3倍になる。現地の指揮系統を安定させるため、ゲーニーに要塞を建設し、設置型の戦略AIを新設する計画だ。
『あとは、気になるのはこのギガンティアか。航空戦力だろ?』
「ああ、あれね。空中母艦<ギガンティア級>と、空中護衛艦<タイタン級>ね。今は2部隊だけど、もう2部隊増やす予定よ」
『ウチの国にこいつで来ないって分別があったことに感謝するぜ』
「さすがにそれくらいはね。それに、正直、ちょっと心許ないのよ。見る? 対ワイバーン戦。正直、同数のワイバーン相手だと打撃力が心配なのよ」
<リンゴ>がアマジオにタイタン・ワイバーン戦の記録情報を送信した。それを閲覧したアマジオは、大きなため息をつく。
『……下手に大きく動くと、魔物どもを呼び寄せることになるってことか』
「ええ、そうよ。どこに何が埋まってるのか分からない。地雷原でタップダンスを踊ってるような気分よねぇ」
下手に電波を垂れ流せばワイバーンが寄ってくるし、距離があるとは言え、<ザ・リフレクター>というとんでもない化け物も控えている。
そもそも、森の国で一戦交えた山脈猪も、レールガンの砲撃を防ぐほどの防御力があるが、似たような個体の活動が複数確認されているのだ。
「だから、特に北上するなら、十分に戦力を貯める必要があるわ。航空戦力も投入したいから、滑走路の整備も必要だしね」
『レプイタリ王国の対応がおざなりなのもよく分かるぜ。こんなの相手にしてるんじゃ、人間の国なんてどうとでもなる、か』
これまでの貿易交渉などを思い出しているのだろう。アマジオはそうぼやいた。
「別にいい加減に対応してたわけじゃないけどね。この通り、資源はいくらあっても足りないもの。輸送船を送るだけで資源を詰めて返してくれるなら、私達としては歓迎なのよ」
『視点が違いすぎるんだよなぁ。ま、鉱脈は目星がついてるんだろ? 俺の見立てだとアフラーシア連合王国もそれなりに埋蔵資源が多そうだが、こっちにつぎ込むのか』
「新しい鉱脈を見つけたらとりあえず押さえるってのがゲーマーでしょ。それに、生産拠点を分散化するのも必要じゃない」
『まあ、それには同意するがね』
そのあたりはそっちの方針に従うぜ、と宣言し、アマジオは話題を変える。
『で、これは早めに聞いておきたいんだがな。今後、レプイタリ王国とはどう付き合っていくつもりだ? 今なら俺も協力できる。属国にすることもできるが』
アマジオはそう言うが、<ザ・ツリー>としては属国化は魅力を感じないのだ。
「それねぇ。正直、人間の国家をユニットとして組み込んでも、効率が悪いのよね」
そうなのである。
国民を教育し、資源を生産できるようにすることは可能だ。
だが、結局、AIが制御する機械群に効率で勝ることはできないのだ。
『そりゃまあ……そうだろうがよ。いや、まあ……そうだろうなぁ』
<ザ・ツリー>の司令官の本音に、アマジオは苦笑するしか無かったようだ。
「とはいえ、見捨てるのも忍びないし、せっかくアマジオさんが興した国なんだから、テコ入れはしてもいいかなって思ってるわ。今後、脅威になる可能性も無くなったみたいだしね」
アマジオ・サーモンというプレイヤーは、<ザ・ツリー>勢力に組み込まれた。そのアマジオが絶大な権力を持っている国であり、また、アマジオは不老である。基本的に、クーデターでも起こらない限りはアマジオは実質的なトップとして君臨し続けるのだ。
であれば、レプイタリ王国は当面の間、友好国と判定できる。
「占領してどうにかするメリットは無いもの。少なくとも、いま時点ではだけど。そうねえ……技術供与なんかはできるわよ。いまも一部は指導してるみたいだけど、身内特権でそういうのを増やすのは構わないわよ」
『あー、んー、そいつはとりあえず保留だな。いや、俺もしがらみもあるし、すぐにどうこうする話もない。当面、貿易量を拡大する方向で』
「おっけー。そういえば、燃石はどうする? 数増やしちゃう?」
『あれなあ。まあ、増やしてもいいが……そういや、あれ、どうやって採掘してんの?』
「あ、それね。原理はまだわからないんだけど、どうも水を浴びると沈静化するらしくて……」
理不尽の中の理不尽、個による圧倒的な暴力をアマジオさんはまだ体験していなかったんですね。
ザ・リフレクター、怪獣大決戦楽しそうです。




