表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
251/380

第251話 5日目の朝

 プラーヴァ神国へ侵攻を開始してから、5日目。

 現在、上陸地点を中心に18の村と街を制圧済みである。


「お姉様、制圧済みの村、街は最低限の戦力のみを残して引き上げました。支援物資は現在輸送中です。敵対ユニットは全てタグ付け済ですが、排除は不要でしょうか?」


「んー。脅威度が低ければ放置でいいけど。測定はしてるんでしょ?」


「はい。監視柱によって、リアルタイムに計測を行っています」


 無力化した村、街には、多脚地上母機と護衛の多脚戦車以外は残していない。治安維持用に二足歩行の警備機械シェリフを巡回させているのみだ。

 事前に測定した脅威度に従い戦力を全て撃破しているため、<ザ・ツリー>勢力による支配に罅が入るようなことはない。


「住人達には、これまでの仕事を続けるように通達してるのよね。僧兵達と住人達で温度差があるから助かるわねぇ」


「はい。ある程度損得勘定もできるようですね。僧兵は彼我の戦力差も理解できないみたいなので」


 辛辣なイチゴの意見に、イブは苦笑した。

 まあ、狂信者の思考パターンは、イブも理解できるわけではない。知識として知っているだけだ。幸い、僧兵以外の住人は狂信者と言うほど信心深いわけではないようだ。新たな支配者となった<ザ・ツリー>のユニットからの指示に、少なくとも表向きには従っている。


 とはいえ、敵愾心が全くないわけではないのだが。


「人間っていうのは、命よりも大事なものを持ってる個人も居るのよ。あなたたちのように、常に冷静に判断できるわけじゃない」


「脳内麻薬のバランスが崩れるのが原因でしょうか? 確かに、私達の頭脳装置ブレイン・ユニットは、外部刺激である程度制御できますので、狂信、という状態にはならないと思いますが」


「うーん、そうねぇ……」


 理解できない、という風に首を傾げるイチゴに、イブもどう説明すべきかと首を傾げた。


「我々はお姉さまに仕えることを至上命題としているが、我々以外のユニットからするとそうではない。もし、我々以外のユニットが我々の判断を外部から観察した場合、あるいはそれを狂信的行動と捉えるかもしれない。そういうこと」


「……? そういう、ものでしょうか?」


「そういうもの」


「うん、そういう話は私の前でしないようにね」


 アカネの説明があんまりだったため、イブはその頬を指で突付く。


()()()()


 あっさり頷くアカネをムニムニしながら、イブはイチゴに向き直った。


「ま、理解はできなくても、知っていればいいわ。そういうものだ、と分類しておきなさい。知識は必要に応じてアップデートすればいいんだから」


「分かりました」


 アカネも頷き、では、と報告を再開する。


「4日間の作戦行動で、26台の多脚戦車が損傷。全て、敵対ユニットによる攻撃が原因です。うち、11台が修復不能な破損状態です」


「ふーむ。まあ、割合からすると許容範囲内の損害かしらねぇ」


 今回の作戦行動に参加している多脚戦車は、現時点で1,000台を越えている。そのうち、損害が15台、損失が11台であれば、何の問題もないといえるだろう。


「作戦範囲が拡大しており、同時攻略可能な街の数も最大です。そろそろ、情報封鎖は限界です」


「そうね。事前の予定通りだわ。じゃ、次の攻略対象は」


 作戦は全て予定通りに進行中だ。攻略対象の村、街は全て制圧済み。情報漏洩も確認されていない。上陸予定の戦力は予備を含めて全て輸送済みで、追加戦力も運搬中である。


「プラーヴァ神国南東部の中心都市、ゲーニー。この都市攻略をもって、プラーヴァ神国制圧作戦の第一段階、すべての作戦目標が達成されます」


「いいわね。とはいえ、作戦表から分かってはいたけど、やっぱり地上作戦は時間がかかるわねぇ」


 ゲーニーは、最初の上陸地点であるヤーカリ港から、直線距離にしておおよそ500kmの位置にある。500kmの侵攻に5日。1日で100kmしか進んでいないことになる。

 確かに、航空戦力による侵攻と比べるとあまりにも時間がかかっていた。


「道中の敵対勢力を全て平定している。航空作戦ではこうはいかない」


 アカネの指摘通り、航空戦力では敵戦力をピンポイントで撃破することはできるが、広範囲にわたって殲滅するには向いていない。どうしても投入可能な戦力が少なくなるため、分散する敵に対する効果が低いのだ。


「既に、ゲーニーより東側の地域は全て<ザ・ツリー>が掌握している。輸送路も構築中。戦力の移動速度こそ遅いが、全体の作戦進行度は順調そのもの」


 第2要塞(ブラックアイアン)周辺で採掘する資源で製造した戦力を、次々に投入しているのである。アフラーシア連合王国に常駐する戦力を遥かに超えて、続々とプラーヴァ神国に上陸させていた。


「ふふ。やっぱり大戦力を動かすっていうのは気分がいいわね」


 ご機嫌の司令官イブに満足しつつ、裏で<リンゴ>は資源収支を睨んでいる。資源の生産量を遥かに超えた大量増産により、溜め込んだ物資が凄まじい勢いで減っているのだ。


 腹ペコ要塞にはたくさん食べさせているはずなのに、全く足りないのである。

 そういう意味でも、プラーヴァ神国は完全制圧して、資源生産基地を増やしたいのだ。


「ゲーニーは周辺で生産する食糧や金属資源を集積するハブ都市です。攻略自体は問題なく終わるでしょうが、<ザ・ツリー>による侵略の情報が拡散するのは防げないでしょう」


 完全封鎖を行っても、そもそもゲーニーを介したやりとりが全てストップすることになる。何か尋常ではない事態が発生しているということは、すぐに露見するだろう。それに、あの家族チミヤーという部隊のような個人戦力が偵察に徹すれば、捉えることは困難だ。


「プラーヴァ神国ほどの大国でも、2正面作戦は難しい。どんなに早くとも、攻略部隊を整えるのに半年は必要」


 ゲーニーを攻略し、要塞化する。半年も時間があれば、盤石の態勢を整えることができる。いや、試算ではおよそ1ヶ月あれば十分なのだが。


「要塞化が完了次第、作戦は第2段階へ進行。全土を完全制圧する」


 ゲーニーは巨大な湖に隣接する大都市だ。周辺もほぼ平地で、理想的な立地である。

 湖を使えば飛行艇で物資の輸送も可能。また、ヤーカリ港からの線路の敷設が完了すれば、大量の資源を運び込むことができるようになる。


「ゲーニー攻略完了時点で情報封鎖を解放、航空戦力の投入を開始します。ゲーニー周辺にいくつか規模の大きい都市がありますので、攻略を進めます」


「いよいよ陸空連携作戦が始まるわけね。航空基地から遠いのが難点だけど……」


 アフラーシア連合王国王都に建造した航空基地から、およそ2,800kmも離れている現場だ。現在戦力化している通常航空兵器では、航続距離が不足する。

 ゆえに、投入できるのは実質航続距離制限の無いギガンティア部隊、および空母部隊となる。


 元々、プラーヴァ神国を警戒して航空戦力を隠していたという背景のため、その攻略を開始したとなれば隠す必要はない。

 結果的に、麦の国やレプイタリ王国、その周辺国家に対しても、超戦力が披露されることになるだろう。


「ギガンティアも2番艦、3番艦の建造が完了する。展開速度は劇的に向上する」


「ゲーニーに建造予定の滑走路が完成すれば、プラーヴァ神国の制圧はほぼ完了したと言っても過言ではありません。発見済みの鉱脈だけでも第2要塞(ブラックアイアン)周辺の埋蔵量の数倍です。私達の資源収支は劇的に改善します」


「そうね。余裕ができれば、ようやく次を考えることができるようになるわ。楽しみねぇ」


 プラーヴァ神国攻略は、主にアマジオ・サーモンのために行われる作戦だ。

 彼が居なければ、<ザ・ツリー>はアフラーシア連合王国を起点に勢力拡大を行っていただろう。なにせ、プラーヴァ神国は魔法国家という未知の領域だったのだ。


 それを、多少のリスクを飲み込んで実行したのは、イブの意識が変わったというのが大きい。消極的な方針から、積極的な拡大推進へ。


 <ザ・ツリー>は、大きな転換点を迎えることになる。

お姉さま、外に出ましょう!!(拡大路線)

ほんとに物騒な引きこもりですね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 神国の一部だけで500kmあることを考えると霊亀とかって結構人類生存圏の近くにいるんですね…
[一言] ギガンティアは魔法に対して紙装甲に等しい事だけが心配だ
[気になる点] 敵地である程度相手を篭絡できる情報を得たにも関わらず 自分の資源減るのを懸念しているわりに消費が多い方法を選択している
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ