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第245話 もぐもぐタイム

 墜落したワイバーンだが、大きく傷を負ったわけではなかった。

 転がるように体勢を整え、起き上がろうとするが。


『これがハメ殺し!』


「意味が違いますね」


 アサヒが遠当てと言って喜んでいた謎の技、前脚の振り下ろしにより、ワイバーンが再び地面に叩きつけられる。

 もし、あの前脚の出す膂力がそのままワイバーンに加わっていると考えると。


「ワイバーン、防御膜を失ったようです」


 地面に縫い付けられたワイバーンが、苦しそうに首を振る。だが、謎の力と地面に挟まれたワイバーンに逃げ場はない。


 ミシミシ、と音が聞こえてきそうな状態で、ワイバーンが地面にめり込んでいく。荷重に耐えきれず、周囲の土が圧縮されているのだ。


『あの遠当て、継続して荷重を発生させることができるみたいですね!』


 地面の凹み方は、おおよそ<ザ・リフレクター>が踏みしめる前脚と同じような大きさだった。その中心でワイバーンはもがいているが、空中特化で体構造が軽量化されていると考えられるその体躯では、抜け出せそうもない。


『ワイバーンは、身体の強度というか強化具合こそ<レイン・クロイン>と遜色ありませんが、そもそも皮膚が薄い、筋肉が少ない、骨に穴が多いなど、構造的にはかなり脆弱でした。ああいった圧力にはあまり強くないと思われます!』


 アサヒの説明の最中にも、ワイバーンはダメージを受けているようだった。

 口腔から泡を吹き出しており、抵抗の動きはいつの間にか痙攣に変わっている。


 そして、ひときわ大きく地面が凹み。

 ワイバーンは完全に沈黙する。


「映像解析ですが、ワイバーンの体内に重大な損傷が発生したと想定されます。肋骨、背骨が折れたのでしょう」


「うげえ」


『はーっ。なんかいきなりとんでもない化け物が出てきましたね! どうしますかねこれ!!』


 一方、空間爆破で吹き飛ばされたワイバーンも悲惨だった。

 爆発の力をもろに食らったのか、首や翼があらぬ方向に折れ曲がった状態で、森の木々をなぎ倒して転がっている。


「映像から算出した爆発力であれば、ワイバーンの防御膜を貫けるとは思えませんが」


 <リンゴ>の解析結果に、通信先のアサヒはやれやれといった表情で首を振った。


『魔法による攻撃です。防御膜をたやすく貫通しても不思議はありません! やっぱり、魔法には魔法をぶつける必要がありそうですね!』


「そうすると、あの遠当てスタンピングは魔法の力は乗っていないのかしら?」


『どうでしょう。魔法については全く解析が進んでいませんので何とも言えませんけど、力を伝えているだけなのかもしれませんねぇ。空間爆破には障壁を破壊する性質も同時に込められていますけど、遠当ては純粋に力を伝えるだけ、とか』


 そう言われれば、そうなのかもしれない。遠当てからの踏みつけでは、ワイバーンの防御膜が効果を発揮していた。だが、空間爆破では光の模様は確認されなかったのだ。


「<ザ・リフレクター>が、移動を再開しました」


 敵対するワイバーン2頭を仕留めたことを確認したのか、<ザ・リフレクター>がゆっくりと動き出した。遠距離で踏み潰したワイバーンに向かって歩き出す。


 非常にゆっくりとした動きに見えるが、サイズがとんでもない。

 一歩踏み出すだけで、身体は数十メートル前へ進むのだ。今の足取りはゆったりしているが、カメという生物は、案外足が速いものである。この<霊亀>という種族も、高速で動き回る可能性は十分にあった。


『生死確認、あるいは捕食! でも生死確認とかわざわざしない気がしますし、やっぱり捕食ですかねぇ!』


 ウキウキのアサヒが実況解説を続けるうち、ワイバーンの傍までたどり着く。<ザ・リフレクター>は、そのままその長い首を伸ばし、ワイバーンの死体に噛みついた。


「ふつーに食ってるわね」


『はー。あのサイズでも捕食は必要と。どうやって生命活動を維持してるのかまだよく分からないんですけど、少なくとも何らかの栄養素は必要としてるってことですね。まあ、無から有が生み出されるか、核融合・核分裂反応を制御しているのでも無い限り、外から元素を取り込まないと体を構成することはできないでしょうけど』


 体の大きさと運動量から、生命活動維持に必要な食事量はある程度推察可能だ。<ザ・リフレクター>が少なくとも数十年単位でほとんど活動していないことを考えると、極稀に獲物を狩るだけでそれ以外はじっとしている、というのはカロリー節約という面では正しい生態だろう。

 ただ、陸上という比較的過酷な環境で、僅かな摂取のみで生きていけるものなのか。


『とはいえ、今回はあのワイバーンが2体です! サイズ比的にも、十分な食事量になるのではないでしょうか!?』


「十分に食ったら活発に動き出すとかは勘弁してほしいけど……」


『それは分かりません! ただ、起きた直後に元気に動き回ってたことを考えると、狩りは座して待つタイプのような気はしますねぇ!』


「周囲の植生から推測すると、少なくとも40年程度はあの場所から動いていなかったと考えられる。移動すると、周囲の木々をなぎ倒すはず」


 アカネが出してきた<ザ・リフレクター>が寝ていた場所の周囲は、しっかりと樹木が育っている。であれば、少なくともしっかりとした木が育つ程度の時間は経過しているということだ。


「お姉様。あのワイバーンをそのまま食いちぎっています。私達が調査する際は、高収束レーザーカッターが必要な頑強さがあったのですが……」


 イチゴの言う通り、<ザ・リフレクター>はワイバーンの身体を端から食い千切っているようだった。ワイバーンの身体は、謎の鉱石、暫定呼称<魔石>による影響で、構造破壊に対する高い耐性を持っている。


 それをバクバクしているというのは、非常に強靭な顎を持っているのか。


『魔石による構造強化を無効にする能力かもしれませんねぇ』


 確かに、切り離すだけで魔石の影響下から外れるのは観測されている。何らかの魔法ファンタジー的な作用で構造強化を無効化できれば、簡単に噛み千切れるだろう。


 観測しているうちに、<ザ・リフレクター>は1匹をまるごと食べ尽くした。

 そして、再び動き出す。今度は、空間爆破で仕留めた個体に向かい、のっしのっしと歩き出す。


 当然、その巨体で森は地均しされている。<ザ・リフレクター>の移動経路は、全ての樹木がなぎ倒されていた。


「もう1匹も、まるごと食べちゃうんだねぇ」


「いっぱい食べるね!」


 ワイバーンの推定体重は2,000トン前後。ただ、そもそも<ザ・リフレクター>の推定体重が47万トンのため、そのくらいは腹にいれることはできるだろう。

 2匹分、4,000トンと考えても、体重の1%未満だ。体重180kgのリクガメが1kgの餌を食べました、と言われても、そんなものかと思う程度である。むしろ少ない方ではないか。

 もっとも、食べている対象はワイバーンという動物だ。草食性のリクガメと比べると、ハイカロリーではある。


「ていうか。このカメ、肉食性かい」


◇◇◇◇


 <ザ・リフレクター>の放った咆哮は、100km以上離れた街や村でも観測された。それだけの音圧だった、ということである。


 魔の森の奥地から響く謎の音に、住人達、何より統治のために駐在している僧侶は非常に警戒している。レイディア王国が魔物によって壊滅したという情報は、しっかりと魔の森周辺の村、街に伝えられているのだ。


 僧兵達が厳戒態勢を敷き、その空気を感じ取り、住人達も家に閉じこもりがちになる。


 そして、その変化は僧侶や住人達だけではない。


 レイディア王国首都周辺を縄張りとした<フェンリル>の雄親フローズ、雌親ヤルンも落ち着きなく動き回り始めていた。

 強大な敵の気配を感じ取り警戒を強めている、といったところだろう。


 <ザ・リフレクター>が肉食性ということは、不用意にかの脅威生物の感知範囲に踏み込めば、このフェンリル親子とて捕食対象になりかねない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 最初強キャラだったワイバーンさんがただのカマセになっている‥
[一言] だいたい巨大生物全部ATフィールド持った使徒みたいなのがうようよしてると考えると、とことん地獄みたいな星だなぁ…。
[一言] 早く宇宙へ、別の惑星へ! 間に合わなくなっても知らんぞー!
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