第229話 死の商人?
「リボルバー式の拳銃であれば、国内量産は可能だろう。オートマチックは技術力が足りない。兵の再教育にも時間がかかる」
「雷管式の銃弾か。この構造は革新的だな。問題は、これを量産する技術が我が国には不足しているということだが……」
アシダンセラ=アヤメ・ゼロが持ち込んだ拳銃を検証しつつ、技術士官が口々に意見を言っている。
「燃石粉末を使用した発火方式は? 今なら、粉末は比較的容易に手に入る」
「さすがにあれは……。この拳銃弾に使用するには、コストが高すぎる。せいぜい、戦艦の副砲までだろう」
士官たちの議論を眺めつつ、アマジオ・シルバーヘッドは隣のパリアード・アミナス少佐に話し掛ける。
「どうだ? 実質あと半年程度で、量産化の目処は立てられそうか?」
上司にそう尋ねられた少佐は、頭を振った。
「いえ。1年あれば、何とか。それでも、工作精度には不安があります。半年後では、ハンドメイドがせいぜいでしょう」
「そうか……。まあ、そうだな。時間がなさすぎる」
アマジオはため息を吐き、椅子から立ち上がった。
そのまま、パンパンと手を叩き、自分に注意を向けさせる。
活発に議論していた技術士官たちが、慌ててアマジオに向き直った。
「諸君。結論は出たかね?」
「はっ! 申し訳ございません、議論中であります!」
その回答に、アマジオは頷く。それは、誰の目にも明らかだったからだ。
「そうだな。じっくり議論を続け、我が国の成長の一助にする。それができれば最善ではあったが、……残念ながら、我々に時間は残されていない」
アマジオは語りつつ、傍らに立てかけていたアサルトライフルを手に取った。
これも、<パライゾ>からサンプルとして供与されたものだ。
「さて」
屋外テントから、アマジオは一歩踏み出す。
サンプル品の試し撃ちが可能なよう、射撃場を貸し切り、そこに会場を設営しているのだ。
アサルトライフルを構え、傍からは無造作に、アマジオ・シルバーヘッドは引き金を引いた。
3連射。
放たれた銃弾は、およそ30mほど離れた場所に立てられた的の中心付近に着弾。大穴を開ける。
「素晴らしい銃だ。3点バースト機構も付いている。練度の低い兵に配るにはもってこいだな。集弾率も高いし、照準器も正確だ」
パチリ、と安全装置を掛けると、アマジオは振り返った。
最上位の将官が見せた満点の射撃に、全員が黙りこくっている。
アマジオ・シルバーヘッドがワンマン・アーミーだという噂は殆どの兵が知っているが、それを実際に見たことがあるのは限られた人物だけだ。
「こいつを作る技術力が、我が国には足りない。あと数年もあれば追いつけるだろう。だが、それでは遅い」
「……」
それは、技術士官たち全員の共通認識だった。
拳銃はもとより、アマジオが手にしているアサルトライフルも、彼らからすれば精密部品の塊だ。設計図で指定されている寸法公差は、大量生産で実現できるものではない。
だが、それを実現できれば、性能の良い銃が量産できる。
「レポートは任せるが、もうここに居る全員が理解できただろう。我々には時間がない。だが、この武器を前線に回さなければ、我が国の命運は尽きるだろう」
アマジオは、アサルトライフルを掲げる。
これは、<リンゴ>が大量生産用に再設計した、史実のAK-47シリーズをもとにした突撃銃である。
低技術力でも量産が可能で、メンテナンス性が良い。悪環境にもよく耐え、面制圧力の高い武器。
それでも、現在のレプイタリ王国では量産は叶わない。
「こいつの製造工場ごと輸入する。なんなら、完成品や部品も輸入する。銃弾も同様だ。何か、異論はあるか?」
「……はっ。よろしいでしょうか、閣下」
「許可する」
「ありがとうございます! 工場の輸入というのは、具体的にどういう意味でしょうか!」
工場の輸入。
言葉だけで聞くと、確かに意味がわからないだろう。
「言葉通りだ、君。我々は土地だけを提供し、そこに、<パライゾ>が工場を建てるのだ。全てを彼女らが手配する。建材も、建造作業も、試運転も、なんなら実際の製造に至るまで、全てを」
「……そ、それは……」
「本来、そんなことは絶対に認められない。だが、それを許可すると、我々は決断せざるをえないのだ。無論、技術移管は実施するが、なにはともあれ時間が足りない。教育計画、輸送計画、保管計画、メンテナンス計画、全てを迅速に策定する必要がある。さあ、製造、調達については目処が立った。残りも迅速に片付けよう」
◇◇◇◇
「アサルトライフルは、構成部品のクリアランスを大きく取り、耐久性と量産性を高めている。部品点数も極力減らし、前線での整備性も考慮したもの。口径は7mm。マガジンの装弾数は32発」
「その代わり、集弾率があんまり良くないけど……どうせ、ろくに訓練もできないから大丈夫って、アカネが……」
アカネとオリーブが、レプイタリ王国に供与する武器弾薬について説明していた。
聞き役のお姉さまは、うんうんと大きく頷いている。
「当面、製造は<ザ・ツリー>側で行うから、精度は問題ない。今後は予想できない」
「そうねぇ。歴史的には、当時、最も多く普及した軍用銃になったって言われてたんだったかしら?」
史実のAK-47とその派生は、世界中で使われ続けたらしい。
十分な威力があり、取り回しが容易で、そして何より、製造しやすい。
これをモデルとして再設計したものであるから、当然、歴史を繰り返す可能性は十分にある。
「この銃では、<ザ・ツリー>の主力兵器には対抗できない。問題ない」
アカネはそう言い切った。
まあ、人形機械などの小型の機械類には脅威となるだろうが、それを許すほど<ザ・ツリー>は甘くない。ゲリラ戦が予想されるのであれば、辺り一帯を爆撃でもすればよいのだ。たとえ市街地戦となったとしても、究極的には同様である。
「とはいえ、機関銃も提供はするんでしょう?」
「う、うん……。えっと、このアサルトライフルと弾薬を共通で使える、リボルバーと狙撃銃、機関銃。それと、大口径アンチマテリアルライフルと、弾薬を共通する重機関銃かな」
口径7mm用の銃弾と、口径13mm用の銃弾を製造し、それに合わせて、リボルバーとアサルトライフル、機関銃、狙撃銃、対物銃、重機関銃を供与する。
「アンチマテリアルライフルと重機関銃は脅威になる可能性はあるけど、量産するなら最低でもあと10年は必要になると思うから……」
それだけの時間があれば、敵対組織は<ザ・ツリー>が軒並み平らげてしまうだろう。平らげるというか、消滅させる、というのが正しいか。
よって、今回の武器供与で<ザ・ツリー>の脅威となる組織が発生する確率は、ゼロとみなして問題ないということだ。
狙撃銃は、ある程度有効であろうと予想されている。
プラーヴァ神国の僧兵は、戦闘状態でなければそれほど頑強ではない。
狙撃によって数を減らせば、それだけ前線への圧力を減らすことができる。
専門技能のため教育の時間は必要だろうが、数ヶ月程度で促成すれば、なんとかなるだろう。
そして、前線の進行を遅らせるため、ストッピングパワーを期待できるアサルトライフルをばら撒くのだ。比較的容易に移設可能な同口径の機関銃と併せて運用すれば、拠点防御力も飛躍的に高まるだろう。
重要拠点に重機関銃を配備すれば、もしかすると足止めだけでなく正面から押し退けることも可能になるかもしれない。
問題は、敵の僧兵がゲリラ兵じみた戦いを仕掛けてくるというところか。
「今回、保存性に優れた糧食も合わせて供与対象にしている。こちらもゲリラ兵を編成し、相手に継続的に圧力を加えることで、拠点の戦力化の時間を稼ぐ」
その方針は既にアマジオ・シルバーヘッドに伝達されており、同意も得ている。
レプイタリ王国からの支援という名目で他国に輸出し、各々の国内での徹底抗戦を行わせるのだ。
さすがに今回は前線が長すぎるため、全てを<ザ・ツリー>の戦力で抑え込むというのは想定していない。そもそも、守る対象も他国であり、あまり信用できないという問題があるのだ。
であれば、武器だけ渡して恩を売ったほうがマシというものだった。




