第204話 西部防衛戦
<パライゾ>の守る開拓村は3つ。
アフラーシア連合王国に近い、西側が第3開拓村、エドラン。
反対側が第1開拓村、ラーラン。
そして、2つの村の中央にあり、最北に位置するのが、第2開拓村、クラヴィーンである。
魔物の出現頻度は、東側が最も高い。
西側はアフラーシア連合王国の大荒野に近く、魔物の生息数が少ないためだ。
そして、第1開拓村ラーラン、第2開拓村クラヴィーンに、魔物の群れが迫っていた。
ラーランから確認されたのは、影蟷螂。
体長が1mほどある蟷螂の姿をした魔物だ。
そして、その親玉とされる伏蟷螂。
15mを超える体長を持ちながら、普段は森に溶け込んでじっとしており、狩人が足元を歩いても気付かないほどに擬態しているため、この名で呼ばれている。
ちなみに、このサイズになると人間はおやつ程度の扱いであり、積極的に狩りに来ることは無い。
ただ、この巨大蟷螂に滅ぼされた村や街の話は昔から語り継がれており、運が悪いと狩り場にされることもあるらしい。
「確認されたのは、シャドウプレイヤーとヒドゥンプレイヤーの2種。総数は不明。ヒドゥンプレイヤーは胡蝶を捕食しているところが確認されたため、すぐにこちらに来るということは無い」
「了解した。当面は、シャドウプレイヤーが脅威。狩人達は協力してくれると?」
「ああ。ほぼ全員が門へ向かった。弓も矢弾も、あなた方が用立ててくれているからな、やる気は十分だろう」
「我々も即応態勢を取る。……A、B、Cを戦闘態勢へ。武装制限解除。各機の判断で行動せよ」
第1開拓村、ラーランに駐留する部隊Aの指揮個体、ディセクタ=コスモスは、3チームに指令を出す。
同時に、ビッグ・モス回収に向かわせていた多脚重機チームを呼び戻した。
多脚重機は武装が無いため、前線に出すのは危険なのだ。
既に待機状態だったA-Bに加え、後方に下がっていたA-Aがゆっくりとその巨体を持ち上げる。
更に、戦力追加でキャラバンについてきていたA-Cも戦闘態勢へ。
ラーランに駐機する3機の多脚戦車が、即応態勢に移行した。
「目標を視認」
「ああ、そろそろ狩人連中も攻撃を始める筈だ」
村に向かって来る目標、影蟷螂は、かなりの数だ。一部は高度を落として森の中に姿を隠すが、逆に飛び上がって再び空を飛ぶものもいる。
全体として、翅を休めつつ移動を繰り返しているようだ。
枝の上や門の上に立った狩人達が、弓を引き絞った。
弾ける音と共に、矢が解き放たれる。
「こちらも撃つ」
A、B、Cは、狩人達を含めそれぞれの目標が被らないよう攻撃対象を選定。
武装を選択。対空レーザーガン。
光が瞬く。
強力なレーザー光が、シャドウプレイヤーの胴部を加熱。高温にさらされた体表が煙を上げて黒焦げになると同時、体内の水分が急激に気化、脆くなった体表を吹き飛ばした。
シャドウプレイヤーは内臓を焼かれ、悶えるように墜落していく。
狩人達が放った矢も、次々にシャドウプレイヤーに命中する。
神経節や頭部に直撃しない限りは即死とはならないが、それでもそれ以上の侵攻は止められる。内臓を傷つけられれば、さすがに飛行は続けられない。
狩人と多脚戦車の攻撃により、次々とシャドウプレイヤーは撃ち落とされていた。
「シャドウプレイヤーがこれほど群れるのは、やはり異常だ……。伏蟷螂と行動を共にすることはあるらしいが、それでもこんな数が移動することはないはずだ」
防衛担当官が、戦況を眺めつつ苦い顔をしてそう言った。
雲霞の如く、とは言い過ぎではあるが、50体以上は確実にいるだろう。
しかも、まだまだ追加の気配が背後から感じられる。
「手が足りなくなるかもしれない」
多脚戦車は、現在対空レーザーガンを使用して攻撃を行っている。
弾数の消費がないため撃ち放題ではあるのだが、いかんせん瞬間火力が低く、撃墜速度はそれほど上がらない。
レーザーガンは、目標を高温で炙って破壊する兵器だ。そのため、目標の同じ場所に、複数回ないし比較的長時間レーザー光を照射する必要がある。
砲弾撃ちっ放しの実弾砲とは、そのあたりの運用方法が異なるのだ。
「多脚重機チームが帰還してきている。我々の人員も、そのまま攻撃役に回そう」
人形機械達が設置されている貨物ユニットに群がり、個人が使用できる最大サイズの銃器と専用装備を取り出していく。
その装備は、対物狙撃銃。
人形機械単体で運用可能な、最大射程を持った大型銃だ。
もちろん携行ミサイルなどには負けるが、銃、砲というくくりで見れば間違いなく最強クラスだろう。
専用のプロテクターを装備しライフルを肩に担いだ少女達は、そのまま待機状態になっている多脚重機の背部によじ登る。
さすがにこのサイズの銃を手で保持して運用することは難しいため、重機背部のホルダーに二脚を固定し腹ばいになった。
「個人攻撃を開始する」
「これはまた何とも……実に頼もしいが……」
派遣されている人形機械23体のうち、10体が攻撃に参加。
重い銃撃音と共に放たれた15mm弾頭が、正確にシャドウプレイヤーの頭部を粉砕する。
「シャドウプレイヤーは押さえた。問題は……」
「ヒドゥンプレイヤーが来るぞ。ほとんど交戦記録が残っていないから口伝ばかりだが、魔防壁を持っているらしい。対応はできそうか?」
「魔防壁。一部の魔物が展開している、攻撃を無力化する光る障壁のことか」
「そうだ。魔力を乗せていない攻撃はほぼ完全に防ぐし、貫通以外の属性への耐性も高い。あなた方の攻撃には魔力が乗っていない。どうにか、我々の狩人達に集中攻撃させることができれば、あるいは……」
「失礼します! 緊急報告」
迎撃作戦について、ディセクタ=コスモスと防衛担当官、その他相談役が話し合っている指揮所に、連絡員が飛び込んできた。
「どうした」
「見張り台より緊急です! 最遠方に視認あり、吹き上がる木々の破片、土煙など! マウンテンボアないし類似の巨大個体が近付いている可能性! 以上!」
「ま……山脈猪だと!?」
◇◇◇◇
第2開拓村、クラヴィーン。
こちらの村にも、魔物の群れが迫っていた。
「偵察に出していた狩人からの報告です。魔物の叫び声が複数聞こえたと。恐らく、剛腕猿の群れがこちらに向かってきています」
防衛担当官の言葉に、グラシリス=コスモスは首を傾げた。
「ふむ……マッソーアーム?」
「ええ。両腕が異常発達した、そうですね、我々よりも頭2つ分は大きい猿の魔物です。その膂力の大きさも非常に厄介ですが、何より投擲による遠距離攻撃が問題です。木々に隠れながら、岩や枝などを投げてくるので」
「……」
多脚戦車の複合センサーは、前線の様子を観測している。
熱源センサーはチラチラと映る斥候の影を捉えているものの、それ以外には何もない。
範囲外に居るのか、あるいは、熱源センサーには捉えられないのか。
と、そこで突然、村の門に何かが衝突する音が響き渡った。
「うおっ!」
見張りの狩人が何事かと、下を見下ろす。
門扉に大きな傷ができている。
「これは……」
「マッソーアームの投擲攻撃が始まったのかもしれません。……敵襲! 敵襲! 各員、飛来物に注意! 見張りは矢狭間を使え、狙われるぞ!」
その叫びを待っていた、というわけではないのだろうが、直後に複数の岩が放物線を描きながら降ってきた。大きさは、子供の頭ほど。
「――!!」
多脚戦車が反応。
主砲同軸のガトリングガンが回転、ヴー、という発砲音とともに多数の銃弾を吐き出し、岩を粉砕した。
「迎撃成功。だが、コストが重い。あれはただの岩か?」
「……そのはずです。いやはや、すさまじい反応ですね……」
前方を向いていた砲身が瞬時に照準を変更し、上空の飛来物を迎撃。なまじ弓を扱えるからこそ、その対応の異様な精密さが理解できたのだろう。
「多脚戦車を全機、攻撃態勢へ」
熱源探知は出来ないが、音波探知で何らかの痕跡を確認。目標は、優秀な熱遮断手段を有していると推定。
赤外線および可視光線での探知はできないが、音波による位置推定は可能。
「マッソーアームは、個人で対抗可能か?」
「ええ。腕はかなり硬いようですが、それ以外は、普通の動物よりは硬いものの、狩人の弓で十分に射抜けます。ただ、両腕の隙間を狙う必要があるので、厄介な魔物には違いありません」
「なるほど」
そして前線に、アサルトライフルを装備した人形機械も追加された。




