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【書籍発売中】腹ペコ要塞は異世界で大戦艦が作りたい - World of Sandbox -  作者: てんてんこ
第6章 魔の森

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第187話 閑話(とある森の中)

「最近、森が騒がしいな」


 部下を連れ、木々の間を抜けながら、男は呟いた。


「はい。獣たちの数が増えています。昨日も豊猟とかで、村の男達が総出で解体していましたよ」


 明らかに、何かある。

 それは、警備隊の全員が感じていたことだった。


 例年に比べ、鹿や猪、狸などの動物達が、見回り範囲に多く見受けられた。

 それは気が立っている雄であったり、親子連れであったりと、普段あまり見ない姿が多いように感じられる。


「悪い知らせでなければいいが……」


「報告は上げていますので、何らかの調査は入るでしょうが……」


 ただ、狂乱というほどの問題は感じられない。

 少しずつ、森の奥から手前へと縄張りが移動している、そんなイメージだ。


「森の奥で、魔物の狂乱(スタンピード)でも始まったか……?」


「スタンピードだと、もっと慌ただしい気もしますが」


 緩やかに、だが確実に、森の生態系が変わっている。

 今は、村の周辺も獲物が増えて猟師が喜んでいる、程度の影響だ。


 これが一時的なものなら、なんの問題もない。

 そのうち生息数も落ち着き、元の状態に戻っていくだろう。


 しかし、例えばこのまま動物が増え続けるのであれば。


 その動物達を狙って、大型の獣や魔物も、村に近付いてくるかもしれない。

 少数であれば警備隊の戦力で対応可能だが。


「本当に、何もなければいいが」


 任期はあと3週間ほど。これが過ぎれば、しばらく街で休暇を堪能した後、新たな配属先へ移動することになる。

 つまり、少なくとも3週間は、何事も起こらないことが望ましいのだ。


「……隊長。あれを」


 目の良い隊員が、何かを見つけ、隊長に呼びかける。


「む。……鹿ディア、か? この辺だと滅多に出てくる魔物じゃあないが」


 彼らの視線の先には、ゆったりと移動する大きな鹿ディア。見た目は草食動物だが、魔物化したディアは雑食だ。もちろん、下手に手を出すと手痛い反撃を食らうことになる。


「やりましょう。村の猟場との距離が近すぎます。このままだと、遠からず遭遇することになる」


「そうだな。よし、弓を持て。この距離なら、私がやろう」


 隊長は、背負った弓を外し、腰の矢筒から矢を引き抜いた。

 部下達もそれに倣う。


 隊長が一手目を外した場合、二手目、三手目と続けるためだ。

 とはいえ、隊長の腕であれば、まず外すことはないのだが。


「撃つ」


 矢をつがえ、キリキリと弓を引き絞る。大きく息を吸い込み、止める。

 ピタリ、と動きが止まった。


 狙いは完璧だ。


 指を開き、矢を放つ。


 僅かに込められた魔力が、軌道の振れを抑え、空気抵抗による減速を最低限にするよう、その力を変容させる。


 解き放たれた矢は、狙い違わず目標、鹿ディアの頭部へ突き刺さった。


「一発」


「お見事です、隊長」


 どさりと、力を失ったディアの身体が倒れ込む。


「ディアは群れないから問題ないとは思うが……。しばらく周辺の巡回を強化する必要がありそうだな」


 外縁部に魔物が出てくることは、殆どない。

 なぜなら、彼ら警備隊が狩り尽くすからだ。


 警備隊の巡回範囲、すなわち森の国(レブレスタ)の縄張りに迂闊に入り込むような魔物は既に絶滅しているし、そうでない魔物は近寄らない。

 極稀に、奥部から押し出されるように魔物がやってくることはあるが、少なくともディアではない。ディアは縄張り意識が強いため、滅多なことでは自身の縄張りを変えることはない。


 とはいえ、滅多にないというだけで、皆無ではないのだ。

 その珍しいケースが、たまたま今回だった。


 ただ、それだけであればいいのだが。


「ひとまず、獲物は持って帰るぞ。今日は巡回はこれで終了。続きは明日だ」


「了解です、隊長」


◇◇◇◇


「外縁警備隊の装備損耗数が増えているわね」


 警備隊の物資を管理する部署の担当、ラ・アリュンターラは、上がってくる装備要求書を机に置き、溜息を吐いた。


「アリュンターラ、どうしたんだい?」


 その溜息を見咎めた彼女の上司が、そう尋ねる。


「テアデラーダ様。ええと、外縁部隊の装備要求書が増えているのと、要求数も多くなっているんです。このまま続くと、今年の予算がすぐに無くなっちゃいますよ」


「……今月に入って、急に、かい?」


 リ・テアデラーダ・ジャルスは、彼女からのその報告に、眉をひそめた。

 当然、予算はこれまでの経験から必要なものを要求しているのだ。それが、半年も経たぬうちに底が見えそう、というのは、流石に穏やかではない。


「急に、です。先月まではいつも通りでしたよ。見てください、これ。……同じ隊から、今月の初めと、今日。普通、半年に1回くらいですよね。多くても3ヶ月。この隊だけじゃないです。他にも、いくつか。当面は備蓄から出しますけど、来月もこれだと、底をつきますよ」


「ああ、そうか……。今日は定期便の日か。ってことは、月初めも要求は多かったのかい?」


「うーん……。言われてみれば、いつもより多かったかもしれませんけど。でも、さすがにあれくらいじゃ、こんなこと予想もできませんよ。いつもの1割増しくらいだったと思います」


「そうか……。まあ、それじゃあ流石に分からないね。いつものことと言えば、いつものことだし。よし、分かった。ラビアレーデ様には、私から報告しておこう。アリュンターラ、悪いけど、増加数と予測、数字を出せるかい? まあ、どちらにせよ、今回の要求数を出すだけでも今年の予算はスッカラカンだけどさ」


 テアデラーダは部下にそう指示すると、すぐに席を立つ。こういう情報は、不確定でもすぐに相談しておいた方がいい。いきなり数字を見せられるより、まずは口頭で情報だけでも伝えるのだ。


「分かりました。夕方までにはまとめておきます」


「ありがとう。いつも助かるよ。じゃあ、私はラビアレーデ様のところに行ってくる」


「行ってらっしゃいませ」


◇◇◇◇


魔物の狂乱(スタンピード)の兆候か?」


「まだ分かりません。スタンピードよりも、大人しいという印象です。それに、アレは"狂乱"です。兆候なんて、確認されたことはありません」


 部下から魔物増加の報告を受けたリ・プレディウーガ・エレメスは、腕を組んだ。


 知っている限り、該当する事象は無い。


 森の外縁部で、魔物の目撃事例が増加している。

 それに伴い、魔物の討伐数が増え、警備隊の装備損耗率も増えている。


 人的被害は出ていないというから、喫緊の問題ではないが。


 しかし、装備の補充が間に合わなければ、それも時間の問題だろう。


「予備人員はすぐに動けるだろうが、装備、装備か……。ううむ、平和が長すぎたか? 装備の質は上がっているが、その分予算が削られているからな……」


「使わない装備を倉庫に積み上げるのは、真っ先にやり玉に上げられますからね。とはいえ、それでも十分に用意させていたつもりですが……」


 警備隊は、森の国(レブレスタ)の領土保全に欠かせない部隊だ。


 魔の森方面から現れる魔物を狩り、国土を国土として守り切る。

 ここが、森の国(レブレスタ)の領土であるという宣言を魔物たちに叩き込むため、巡回を何百年も続けてきたのだ。


「仕方ないな。次の長老会議は3日後だ。緊急議題として取り上げていただこう。国防省案件か、あるいは臨時予算の執行になるかは分からんが、対応は取れるだろう。穴熊共に交渉することになるかもしれんが……」


「新しい酒が交易で手に入ったとも聞きますし、比較的やりやすいのでは?」


「ああ、まあな。我らにはキツい代物だが、奴らにはちょうどいいだろう。天の配剤かもしれん」


 装備類の調達は、その大部分が森の国(レブレスタ)北東部のとある国家との交易によって行われている。

 レブレスタ人は、その体質上、金属製の加工器を使うのが苦手だ。

 そのため、金属のエキスパートが多く暮らす岩の国(ドラディア)に生産を委託しているのである。


 経済的には強力に結びついているが、国民同士はあまり仲が良くない。しかし、そんな状態で何百年も付き合い続けているのだから、ある種の信頼関係はあるのかもしれない。


「いずれにせよ、長老会の結果次第だ。幸い、今回はティアリアーダ様が帰還されている。なにやらそちらも重要報告があるということだが、こちらの問題より重いということもなかろう。何せ、我ら森の国(レブレスタ)の国土保持の問題だからな」

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― 新着の感想 ―
[一言] >「最近、森が騒がしいな」 >明らかに、何かある。  なんだろなぁ? 森の向こうで大規模に動いてるナニカがあるのかもなぁ(すっとぼけ)
[良い点] 更新乙い [一言] >>鹿 警備隊の人達に臨時お肉支給のお時間!! 食べて!! >>岩の ドワーフ!! いやまて、何なら鬼っぽいのとか、蛇っぽいのだって伝統的に酒は好きだ
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