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第181話 <ザ・ツリー>の各拠点

◇◇◇◇


 第2要塞(ブラックアイアン)は、設備建造に沸いていた。


 内陸で見つかった大規模鉱床から運び込まれる各種鉱石に、鉄の街から送られる鉄鉱石。

 石油港オイルポートから輸送される原油。

 周辺海域で生産が始まった、海藻類。


 これら大量の資源を精製し成型する、資源生産設備を急拡大させている。


 金属、石油、有機材料が揃うため、生産拠点としても非常に優秀な立地だ。


 そして、資源が揃うということは、機材の生産にも有利だ。

 様々な建設資材のみならず、ここでは大量の兵器、機械類も製造されている。


 ちなみに、黒鉄ブラックアイアンという名前は、その見た目から付けられたものだ。要塞本体の建設時にコンクリートに混ぜられたカーボンナノチューブ繊維によって、基礎の外観が真っ黒なのだ。


 さらに、当時は鉄が不足していたため、鉄に対する強いこだわりがあったということも大いに関係している。

 鉄が大事だったのだ。


 まあ、そんなわけで、第2要塞(ブラックアイアン)は拡大を続けている。

 北大陸の進出拠点として、着実にその設備を充実させていた。


 流石に<ザ・ツリー>内の超頭脳スーパーコンピューター<ザ・コア>には及ばないものの、それなりの性能のスーパーコンピューターも設置済みだ。

 これにより、十分な司令機能を持たせることが可能になっている。


 現在、<ザ・ツリー>内のイチゴ・ザ・ツリーを司令、アカネ・ザ・ツリーを副司令とし、その他AIを配置したピラミッド階層型の司令機能構造を構築中である。

 これらのAI群の経験蓄積が十分に行われた後、<ザ・ツリー>からの直接接続を切り離し、独立させる予定である。とはいえ、おそらく数年後の話になるだろうが。


 また、ブラックアイアンには多数の兵力が常駐している。

 これは新造した頭脳装置ブレイン・ユニットの慣らし運転のため、という理由が最も大きい。


 頭脳装置ブレイン・ユニットは優秀な演算装置ではあるが、製造後すぐにその全力を発揮できるわけではない。ある程度運転を繰り返し、化学的アプローチによってシナプス結合を強化する必要がある。

 そうでないと、僅かな衝撃で頭脳全体が初期化されかねないのだ。


 現在、コストの関係で見送っていた頭脳装置ブレイン・ユニット以外の演算装置に切り替えつつあるが、当面は、少なくとも司令機能を持った機体には、頭脳装置ブレイン・ユニットの搭載を続ける予定だ。


 即戦力ではないものの、現在の<ザ・ツリー>の戦闘機械のおおよそ半分は、ブラックアイアンに駐留している。

 そして、戦力化した時点で、各地の拠点へ輸送されていた。


◇◇◇◇


 鉄の街は、かつての面影は残していない。

 地方の小さな鉄鉱山だったその街は、現在、<パライゾ>――<ザ・ツリー>の手により、大きく姿を変えていた。


 鉱山で穴を掘り、鉄鉱石を運び出していた男たちはもう居ない。

 彼らは今、その鍛えられた肉体を使って畑を耕していた。


 いや、正確には、鍛えられた肉体を農耕機械の操縦席に押し込み地面を耕している。


 人の手で運ばれていた鉄鉱石は、観覧車の化け物のような見た目の巨大(バケットホイール)掘削機(エクスカベーター)により、大量に掘り出されていた。


 第2要塞(ブラックアイアン)から輸送される水素を使って鉄を還元する製鉄設備も着々と数を増やしており、鉄鋼生産量は飛躍的に向上している。


 だが、製鉄作業は自動機械が全てを行っており、住人たちが手を出す隙はない。


 そこで、<パライゾ>によって用意されたのが食料生産の仕事だった。

 さすがに全てを人力で行うのは過酷であるため、<ザ・ツリー>基準で原始的な農耕機械が準備されている。


 貸し出された農耕機械を使用し、鉄の街の住人たちは十分な食料を生産していた。


 ちなみに、農耕機械はバッテリー式の電気駆動で、充電のための発電も蒸気機関が使用されている。

 これらの稼働原理や設計図は全て公開されており、誰でも閲覧可能だ。<パライゾ>から派遣される人形機械コミュニケーターに尋ねれば、解説もしてくれる。


 これは、鉄の街の住人達を教育し、その基礎能力を向上させようという試みである。


 <ザ・ツリー>勢力は、超人的なAIを多数抱えた非生物系文明であり、その存続に人類を必要としていない。唯一、司令官イブのみは絶対的支配者として君臨しているが。


 ただ、その支配者イブの意向というだけで、人類と友好的な接触を継続しているのだ。


 しかし、単に支配し、抱え込むだけでは、無駄な維持費が増大するだけである。故に、<ザ・ツリー>は、現地人類が、最終的に独立することを望んでいるのだ。


 働かざる者食うべからず、という格言もあることだ。当然だろう。


 鉄の街のみならず、全土が支配下に置かれたアフラーシア連合王国では、そんな<ザ・ツリー>側の思惑により、様々な施策が実行されている。


 鉄の街では、農業以外にも様々な生産作業が仕事として用意されている。

 他の街と行き来し、商品の売り買い運搬を行うというのも現在人気ある職業の一つだ。


 特に、鉄の街は道路、線路の接続拠点となっている。

 テレク港街から鉄の街を経由してフラタラ都市に繋がっており、また、他の街に向けての延長も行われている最中だ。


 道がつながっているならば、あとはそれを辿って移動するだけだ。

 幸い、馬はアフラーシア連合王国内では容易に手に入り、馬車は<パライゾ>謹製の車体が流通している。


 アフラーシア連合王国は、鉄の街を中継として物流が再開し始めていた。


◇◇◇◇


 石油港オイルポートと油田は、順調に原油の生産量を向上させている。

 原油を汲み出すための油井の数は日毎に増え、輸送用のパイプラインも増強を続けている。


 この地の脅威は巨大蠍セルケトだが、少なくとも今時点まで、こちらの勢力圏には近付いてきていない。

 互いの縄張りを侵さなければ、不干渉という性質らしい。


 オイルポートは輸送用の港だが、防衛用の戦力も充実している。


 再びセルケトと戦わなければならなくなった場合、その対抗戦力を準備できていないというのはお粗末にも程がある。

 よって、地上戦力は主対象をセルケトと設定し、判明している能力から推定される戦力に対応できるものを準備している。


 航空戦力と固定砲台、そして地上戦力。

 地上戦力は多脚戦車と多輪戦車を準備している。多輪戦車は、パイプラインやその他の設備を守るため、展開速度を重視して選択したものだ。

 一方、多脚戦車は未整地への展開を重視している。多輪戦車と比べると移動速度は遅くなるが、足場を気にせず行動できるのだ。


 ちなみに、国土侵犯の形になっているが、いまのところ森の国(レブレスタ)に露見している様子はない。複数存在するセルケトが、丁度良く防壁として機能している。


◇◇◇◇


 フラタラ都市郊外に建設中の拠点は、空港を中心として発展させている。

 鉄道は建設中ということもあり、物流の主な手段は航空輸送である。


 大型の輸送機がひっきりなしに行き交う光景は、フラタラ都市の名物と化していた。


 四方が他の都市、拠点に囲まれた立地のため、防衛戦力は少ない。

 そして、他拠点の中心ということで、物流拠点として整備が進んでいる。


 荒野に突如出現する巨大な倉庫群は、得も言われぬ畏怖を見るものに味わわせるだろう。


◇◇◇◇


 アフラーシア王都拠点は、小規模な駐留拠点となっている。

 現時点では、ノースエンドシティへ向けて戦力を送り込むための中継拠点として使用されている。


 今後は、他国との交流も増えるため、何らかの機能を持たせることになるだろう。

 ただ、今のところ滑走路と格納庫、倉庫のみが建設されただけだ。


 物理的に<ザ・ツリー>から距離があるということもあり、どのように活用すべきか、検討中である。


◇◇◇◇


 ノースエンドシティは、現在<ザ・ツリー>内で最も熱い街だ。

 この理不尽ファンタジーな世界の謎の解明に最も近いと考えられる、<魔の森>の調査拠点となっているからである。


 最前戦拠点として、滑走路と格納庫、巨大倉庫が建設されている。

 魔物からの襲撃を見据え、固定砲台も絶賛増設中だ。

 周辺は未整地が多いため、多脚戦車も続々と空輸されている。


 また、航空戦力は王都拠点に緊急発進スクランブル待機させた戦闘機と、アフラーシア連合王国上空の飛行を続けているギガンティア部隊がカバーしている。

 何らかの事態が発生した場合は、スクランブル隊が時間稼ぎをしている間に、ギガンティア部隊が駆けつける、という態勢だ。


 そして、その防衛部隊の中心に建設されているのが、巨大な研究施設である。

 魔法という未知の現象を解析する拠点として、大いに発展していくことだろう。

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[気になる点] >荒野に突如出現する巨大な倉庫群は、得も言われぬ畏怖を見るものに味合わせるだろう。  味合わせる  実際は誤字な模様。  なにせそれでは 味わう が 味あう になってしまうので…
[良い点] 更新乙い [一言] >>鉄の街 鉱山職員を農民へ、住民の仕事を体制側で決めていく、SLGスタイル もしくはディストピアスタイル >>えるふ国 知らない間に侵食されている……シロアリか何か…
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