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第176話 冒険者パーティー

 魔の森の本格的な調査のため、前線基地を準備する必要があった。

 これは、<パライゾ>人員のためというよりも、ノースエンドシティ所属の冒険者たちへの支援という意味合いが強い。


 魔の森での行動方針など、実地で学習してもいいのだが、既に冒険者という専門家が居るため彼らから学ぶほうが効率が良いという判断だ。


 それに、<ザ・ツリー>で調査を行う場合、どうしても物量作戦となり、周辺の生態系に多大な影響を与える可能性がある。

 そのため、少数精鋭を投入する必要があるのだ。


 また、ノースエンドシティは冒険者達が魔の森から様々な資源を持ち帰ることで成り立っている。この経済活動を促すことで、街そのものも発展させることができる、というのが<リンゴ>の見立てである。


 貴重なサンプルを、冒険者達から買い取るというのも悪い話ではない。

 現地人の雇用にもなるため、このあたりも推進しようとしている。


 司令官イブが冒険者に興味を示し、「冒険者ギルドってあるのかしら?」などと言い出したせい、という裏話があったりなかったり。

 このままでは、<ザ・ツリー>が冒険者ギルドの元締めになってしまうかもしれない。


 それはさておき。


 <パライゾ>は、魔の森の玄関口を作り上げた。


 ノースエンドシティの郊外に滑走路を建設し、物流拠点にする。

 そこから街、そして魔の森へ向かう道を整備する。


 多脚重機が大雑把に整地し、無限軌道や多輪の重機が平坦な道路を造成。おおよそ50時間ほど掛けて、航空基地、ノースエンドシティ、前線基地候補地を接続した。


 そこから、多輪輸送車が一気に資材を運搬、簡易拠点を建造する。


 敷地を造成し、鉄柵と有刺鉄線を使用し防壁を構築。

 敷地内に巨大な屋根を設置し、更にカプセル型の宿泊設備を併設する。

 雑貨屋、そして食堂となるプレハブを設置し、拠点を完成させた。


 全ての準備を5日という短期間で完了させることで、魔の森へ赴く冒険者達の度肝を抜いた。

 これで、<パライゾ>が魔の森の調査を行う、という言葉を軽く見る者は居なくなっただろう。


「マジで街ができてやがる……」


「すげえ、店まで出てるぞ!」


 いつものように徒歩で魔の森に向かった冒険者は、まず舗装された道の歩き易さに感動し、前線基地に門があることに歓声を上げ、最後に雑貨屋を見て硬直する。


「おい、ありゃ食堂か……?」


「メシを出してんのかよ」


 テイクアウト方式ではあるが、前線基地には食事処も用意していた。もし雨が降っていても、巨大な屋根があるため気にせず食べることができるようになっている。


 宿泊設備も、カプセルサイズだが個室を積み重ねており、ある程度のプライバシーも確保できる作りだ。プレハブ工法のため、需要に応じていくらでも増築が可能というのも魅力である。


「例の<パライゾ>が魔の森に手を出すって聞いたが、こりゃ本気だな……」


「どっかのパーティーが案内役になったって聞いたがよォ……」


 この拠点の管理はいくつかの自動機械が行うことになっているが、利用者達との交流のため、人形機械コミュニケーターも使用している。


 <リンゴ>もある程度拒否反応が収まったのか、それとも多様性のためか、ランダム遺伝子を使用した複数の種族を導入していた。


 ランダムのため、()()()()となったことは問題かもしれないが。

 司令官イブは「ケモナー大歓喜」と渋い顔で呟いていたが、些細な事である。


 それと、落ち着いた時点で現地人の雇用も予定されていた。


司令マム。拠点の整備はおおよそ完了しました。明日には案内役のパーティーが到着する予定です」


「そ。人形機械コミュニケーターのバックアップ体制は問題ないわね?」


はい(イエス)司令マム。常に多脚機を付けて指向性通信網を維持させます。広範囲通信アンテナを使用できれば、もう少し自由度は上がるのですが」


「電波は、あのワイバーンを呼び寄せたみたいだからねぇ……。色々と対策できるようになるまでは、範囲は広げられないものね」


 <リンゴ>の愚痴に、彼女は苦笑した。


 まあ、効率を考えれば、何も気にせずどんどん拡大する、というのは間違っていないのだ。

 ただ司令官イブは、いたずらに勢力拡大しなくていい、という方針を出した。


 しばらくはアフラーシア連合王国領土の開発を優先し、拡大は行わない。<リンゴ>も納得済みではあるが、勢力拡大を命題とする超知性にとっては、もどかしい選択なのだろう。


◇◇◇◇


 翌日、案内役の冒険者パーティーを乗せた運搬用トラックが、ノースエンドシティを出発した。

 ノースエンドシティから魔の森直前の拠点まで、定期的にトラックを走らせることを計画している。そのあたりの周知も含め、今回はこの冒険者パーティーを送迎する予定だ。


「何で走ってるんか、意味分かんねえ!」


「しかもすっごい速いわ!」


「次からも、これに乗せてもらえるんだろ? すげえな……」


 さすがに空荷で走らせるのは勿体ないため、拠点で使用する物資を積んでいる。その空きスペースに冒険者パーティーを乗せているのだが、通常彼らが使用している乗合馬車などよりはよほど快適だし、揺れも少ない。


 この運搬トラックが本格的に運用されれば、間違いなく冒険者達の負担は減る。

 そうすれば、より多くの資源、素材がもたらされることになるだろう。


「サルファレアスさん、助かるぜ! ホントに、ずっとコレを続けてくれるのか?」


 その問いに、アルファ・サルファレアス=コスモスは頷いた。


「あなた方冒険者という存在がいる限り、我々はあなた方の助力を行うつもりだ」


「ひゅう! 太っ腹だねぇ!」


 パーティーのリーダー役、短剣・短弓使い、レイダス。

 攻撃役、短槍・手斧使いの、ナディラ。

 採集家のグラヴァー。


 この3人が、<パライゾ>先遣隊の案内役として指名された冒険者パーティーだ。

 その評価は、大胆だが慎重、チームワーク抜群で期待の星。

 これまでの言動を観察する限り、彼らを指名したギルド長の判断は間違っていないだろう。


「しかし、あんた方は何でまた、魔の森に入りたいんだ?」


「ちょっとグラヴァー。そういう事は聞かなくてもいいでしょう!」


「いや、ナディラ待て待て。グラヴァーの肩を持つ訳じゃねえが、できれば俺も聞いておきたいぜ。サルファレアスさん、どうなんだい? いや、もちろん話したくないなら気にしないけどな」


 尋ねられ、アルファ・サルファレアスはふむ、と頷いた。


「端的に言うと。魔の森、という環境に興味がある、ということだ。多種多様な魔物、それらから取れる様々な資源。いろいろと便利なものも多いようだし、それらを実際に確認したいというのが、我々の意図だ」


「……なるほど? 俺らは案内役を仰せつかっているが、魔物を紹介すればいいのか?」


 アルファ・サルファレアスは、その特徴的な獣耳をパタリと動かし、視線を上に向けた。


「そうだな。素材としての価値と、その魔物の生態、行動や食性など、知っていることを教えて欲しい。それと、魔の森そのものの歩き方。我々<パライゾ>は、かの森について全く知らない。魔物たちを不必要に刺激したくない、というのもある」


 アルファ・サルファレアスは、戦略AI<コスモス>に与えられた人形機械コミュニケーターの中で、最も隠密行動に優れた種族、という理由で今回の先遣隊に選ばれていた。

 その種族は、森のハンター、クロヒョウをベースにしている。


 司令官マムの種族と少し異なり、やや獣寄りの種族で、耳と尻尾のほか、手足にも獣人としての特徴が出ている。また、感覚器としての髭も備えており、常人よりも遥かに周囲の気配の察知能力が高い。


 性別は女性で、<リンゴ>曰く、種のベースとしてはメスの方が有用だとか。本当かどうかは知らない。イブも追及していない。

 完全ランダムであれば男性型も選択されるはずなのだが、特別に指示が無い限りは、<リンゴ>は女性型を選択している。


「申し訳ないが、しばらくは我々に付き合っていただきたい。迷惑をかける事になるかもしれないが」


「いえいえ、しっかり報酬も頂いてますし! 私達も、可能な限り付き合いますから! ね、レイダス!」


「お前が言うなよ。ま、でもそういうことだ。サルファレアスさん、あんたなら無茶を言うことは無いと思うし、俺らも安全に稼げるから、いい事ずくめなんだ!」


 顔合わせから数日しか経っていないのだが、彼らはアルファ・サルファレアスの、ひいては<パライゾ>の性質についてかなり理解していた。

 非常に理性的であり、征服者であるにもかかわらず横暴な態度は取らない。

 少なくとも、敵対しない限りにおいて、非常に良き支配者であると。

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― 新着の感想 ―
[一言] (感想欄を見て) >司令官は「ケモナー大歓喜」と渋い顔で呟いていたが、些細な事である。  ああ、これはケモナーじゃないと否定する意味だったんですね。  自分はてっきり“キツネスキー”なの…
[良い点] 更新乙い [一言] >>複数種族 キツネ以外が若干、肩身狭そうになるかもしれないの草 >>勢力拡大 領地拡大したら内政の黄金パターンが美味しいのだ 同時進行何のそのという点に関しては見な…
[良い点] クロヒョウだけど一応「猫耳っ娘がキター!」 イブが渋い顔だったのはケモナーではないと主張しているからなのか、緩んだ顔を見せたくないからなのか そのうちエルフ耳とかも製造しないかな [気にな…
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