第172話 戦術AI<ウェデリア>
「よーやく、タイタンも空に帰せるか……」
タイタン級空中護衛艦、1番艦<タイタン>。
ワイバーンとの死闘により致命的な損傷を負い、長らく修理を行っていたのだが、それがようやく完了したのだ。
「作り直したほうが早かった気もするけど、1番艦だしねぇ」
「はい、司令。艦体の修理経験など、貴重な情報収集も出来ましたので、問題はありません」
満身創痍となりながら、タイタンはなんとか、フラタラ都市郊外拠点の滑走路に着陸した。ただ、フラタラ都市郊外拠点は補給基地であり、整備用設備はあっても、本格的な修理が可能な設備はまだ無かった。
そこで、修理設備の建造から着手が必要だったのである。
一番簡単なのは、その場で解体して再資源化し、新しい艦体を建造すること。
しかし、さすがにそれは忍びないと、オーバーホールを伴った大掛かりな修理を行ったのだ。
構造体の詳細な調査を行い、必要な補強や交換を行う。
飛行や戦闘機動、あるいは損傷によってどこにどんな力が掛かったか、不具合は発生しなかったかなど、詳細な調査を行った。
ちなみに、ギガンティアおよびオケアノス、コイオスはそのまま空中飛行を続けている。
タイタンと同様、オーバーホールを行って調査するという案もあったが、継続飛行中の運用データ収集を優先させた形だ。
ギガンティア部隊は、ワイバーンやその他の脅威生物を刺激しないよう、レーダー出力を落とした状態でアフラーシア連合王国上空を周回させている。
索敵能力が低下した状態のため、偵察機や衛星による監視でこれをカバーしていた。
『タイタン、離陸を開始します』
タイタン搭載のU級AI、ウェデリアが報告を開始する。
ウェデリアは、ウツギをベースに新造された戦術AIである。戦略AIは基本方針の設定や情報解析を主に担当するが、戦術AIは与えられた指示を実行することに重きを置いている。
戦術AIを複数束ねて戦略AIとして扱うという運用も可能ではあるが、基本的には別物として扱うことが望ましい。
特に、戦術級の兵器に搭載して運用することが多く、人間で言う運動野に当たる機能の性能が高くなる傾向がある。
即ち、自身の搭載される機械ないし兵器の扱いは、十全にこなせるということだ。
『核融合炉出力正常範囲内。各エンジン出力、上昇中。機体各部、異常なし。離陸シーケンス、正常に進行中』
機械操作に特に良好な結果を残したウツギは、その神経接続網を戦術級AIに利用することとなった。
その第1号が、この戦術AI<ウェデリア>である。
『エンジン出力、既定値に到達。ブースター点火。機体ロックを解除。タイタン、離陸を開始します』
これまで、こういった巨大な構造物の制御は外部操作に頼っており、拠点に設置した大容量のAIシステムで管理していた。
今後は、各装置に搭載したAIへ、制御権を譲っていく方針である。
これは、遠隔制御に伴う応答速度遅延の改善を狙ったものだ。十分に高性能なAIを搭載できるのであれば、わざわざ遠隔制御を行うメリットはなくなる。
当然、搭載するAIの頭脳装置は、厳重に防護されている。
『時速300km。……時速400km。……時速500km。離陸します』
滑走路で加速したタイタンが、ブースターの力を借りてゆっくりと高度を上げていく。
ある程度の飛行速度と高度を確保した時点で、離陸用のロケットブースターがパージされた。
『ブースター、パージ完了。飛行速度、時速700kmに到達。機体安定。各部チェック、異常なし。核融合炉出力正常範囲内。供給エネルギー量、異常なし』
ウェデリアの操るタイタンは、危なげなく離陸を完了させた。
シミュレーション上では良好な結果を出していたが、本番でも特に問題なく制御を行っている。
「よし、順調ね。ウェデリア、よくやったわ。あと1週間位は単独飛行を続けてもらうけど、問題なければオケアノス、コイオスにも搭載することになるわ。頑張ってね」
『はい、司令。ありがとうございます。精進いたします』
今後、ギガンティアにもE級AI、エレムルスの搭載を行う予定だ。
こちらは機体容量に余裕があるため、飛行を続けながら換装を行う。正確には、現行の戦略AIと並行して運用し、問題なければエレムルスに統合する。
「これで、<ザ・ツリー>初の完全独立部隊ができるわけか。運用に支障が無さそうなら、海上艦隊も独立型AIを搭載しましょう」
「はい、司令。そのように計画します」
最低限、通信用の衛星の準備もできた。
リアルタイム制御が可能なほどの通信帯域は確保できていないが、独立型AIによる制御であれば、最悪通信が途絶しても柔軟な対応を期待できる。
「今までは食べるだけで精一杯って感じだったけど、そろそろ情報収集にも力を入れないとね」
宇宙進出も同様だ。
最低限、通信と空撮のために運用を続けているが、もう少し運用基数を増やすか、高性能なプラットフォームを投入してもいいだろう。
「資源の収集量は増加していますが、支配域が広がったことで消費量も増大しています。しばらく現状維持とし、内政の拡大に努めましょう」
「そうね。内政とか久々に聞いたわ……」
リアルタイムストラテジーゲームでは、戦力拡大と比較して内政という言葉をよく使う。
言われてみれば、今からが内政拡大、というステージだろう。
支配域を拡大し、鉱脈の確保を行った。
これからは、確保した鉱脈を資源化していくターンだ。
『タイタン、所定の高度に到達しました。巡航速度に移行します』
三次元レーダー上で、タイタンが高度約10,000mに到達していることが確認できる。タイタンの巡航速度は、時速800km前後だ。
この速度であれば、余計な空気抵抗は発生せず、十分な浮力も確保できるのだ。
『各装備の動作検証に入ります。検証完了まで3時間を予定。その後、設定された航路に移行します』
「オーケー。順調ね、ウェデリア。この調子で頼むわよ」
『はい、司令』
◇◇◇◇
ギガンティア部隊は、空を行く。
現在は特に攻略対象も設定されていないため、周回航路を飛び続けている。
とはいえ、ただ飛んでいるだけでは勿体ない。
現在は、広く護衛機部隊が周囲に展開しており、オケアノス、ギガンティア、コイオスという順番で単縦陣を形成している。
全体で見れば、輪形陣になるのかもしれない。
そして、コイオスの後方にはデータ収集に特化した飛行機部隊が展開していた。
レーダーで地上、地下を探査しているのだ。
アフラーシア連合王国の国土は広大である。
いちいち地上で探査すると、何年掛かっても終わらない。
よって、まずは衛星画像からある程度の地形を推定し、その情報を元に上空から探査を行っているのだ。
電波で地中を観察するのは難しいが、不可能ではない。
ただ、あまり強力な電磁波を使用すると、脅威生物を呼び寄せてしまう可能性がある。
今のところ、データ収集部隊は地上に露出した成分を記録している。
露出した鉱脈が発見できれば御の字だが、地下水などに混じって地上に金属成分が溜まっていることもある。
そういった痕跡を広範囲で検出し、演算を行うことで、地下鉱脈を予想するのだ。
そんな訳で、ギガンティア部隊は様々な場所で目撃されている。
当然、アフラーシア連合王国のみならず、国境線を越えた先の国々にも、確認されていた。
これらの国々の中で、最も過剰な反応を示したのは、未だに細々とした交流しか続けていない森の国である。
<パライゾ>勢力がアフラーシア連合王国を手中に収めた、という情報は、東門都市の大使館を通して通達済みである。
ただ、状況が状況のため、森の国側はそれ以上の情報を収集できていなかった。容姿も異なるため、スパイを放つというのも難しかっただろう。
そんな中、なにやら巨大な機械が空中を飛んでいれば、嫌でも目立つ。
アフラーシア連合王国の西側諸国については、ある程度目処が立った。
今度は、東側にも目を向けるべきである。
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