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【書籍発売中】腹ペコ要塞は異世界で大戦艦が作りたい - World of Sandbox -  作者: てんてんこ
第4章 海洋国家

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第139話 バックボーン

 燃石の輸出、という<パライゾ>の切札に、レプイタリ王国海軍首脳部に衝撃が走った。

 とはいえ、その事実が伝えられたのは信頼できる極一部だけである。事が事だけに、万が一の情報流出を嫌ったのだ。


 そして、3日後。


 レプイタリ王国海軍は、燃石輸入を決断した。


 国家の重大事を決めるには、あまりにも性急と言わざるを得ない。

 しかし、他に選択肢が無いのも事実であった。


 <パライゾ>から贈呈品として渡された、高品位燃石塊。

 口が固い、信頼できる科学者に確認させたところ、間違いなく燃石の結晶であった。


 燃石の性能は、その大きさに依存する。質量が大きければ大きいほど、より熱く、より長く発熱させられるのだ。

 また、端面が整っているというのも重要な要素だ。均一に圧力をかけることで、発熱量、すなわち火力を容易に調整できる。


 確認させた科学者曰く、より大きな燃石の塊から切り出されたように見える、とのこと。

 そして、それほど大きな燃石があるのなら国宝級であり、ぜひこの目で見てみたい、とも。


 持ってきたのは<パライゾ>であり、その採掘元がどこなのかは開示されていない。

 しかし、これまでレプイタリ王国が輸入していたそれとは、決定的に異なるのは確かであった。


「確かにこいつは魅力的だ。蒸気機関の性能も飛躍的に向上するだろう。

 だが、同時に悪魔の誘いでもある。

 俺達の産業が、軍事がこれに依存すると、<パライゾ>の連中に命脈を握られることになるぜ」


 アマジオ・シルバーヘッド公爵は、この問題についての危険性を提言した。

 そしてそれは、海軍首脳部の誰もが認識している事だった。


 規格化された、高品位燃石。専用の機関を設計すれば、その性能を劇的に向上させることが可能だろう。

 船に載せれば、最高速、航続距離の向上、そして燃料貯蔵スペースを削減できる。

 控えめに言っても、その性能は倍になるだろう。


 その魅力に抗うことは、難しかった。


「<パライゾ>は、貴国の決定を歓迎する。これで、より具体的な交渉が可能になる。双方、誠実な対応を期待しよう」


「我々としても、これがあれば国内に対する説得材料となる。蜜月の時を長く、お互いの繁栄を」


 レプイタリ王国側としては、採掘場所であったり加工法であったり、気になることは多いはずだ。しかし、流石にそれを、直接聞き出すことは出来ない。

 まずは黙って恩恵に預かり、国力の強化を行う、という方針だろう。


「とはいえ、貿易品がこれだけというのも味気ない。より深い関係を築くためにも、その他の品目についても決めたいと思うが、いかがか」


「我々としても、それには賛成する。我が国にも、多くの特産品がある。当面は国家間での貿易継続であり、民間開放は行わない予定だが、そこに異論はあるかね?」 


「無い。複数の商品を用意するのは当然。燃石はそれほど場所は取らない。積載空間の有効活用のためにも、交易品目を増やすことに賛成する」


 ここから更に、レプイタリ王国が欲する資源についての議論が始まった。

 こうなっては、どこまで<パライゾ>側から引き出せるのか、ということが海軍側の関心事項となる。自分たちより進んだ技術を持つ彼女らから、いかに技術を引き出すか。


 ただ、生活必需品を他国に依存する危険性は、全員が十分に理解していた。

 国家の命脈をこれ以上握らせては、さすがに無能の誹りは免れないだろう。



「…水?」


「水である。腐りにくいよう密閉し、長期保存を可能にしたものだ。貴国は水資源に乏しいという訳ではないが、どこでも湧いてくるほど豊富ではない、と認識している」


 嵩張り、重量もそれなりで、消費が激しく、単価が安い。

 そのような括りで<パライゾ>から提示されたのが、長期保存用の水コンテナであった。


「どのように流通させるかは、あなた方の政治手段による。我々が提供可能な量であれば、既存の水資源を圧迫するということも無い。大陸の水と違い、無味無臭で飲みやすいものである。この場でも、度々提供はしているが」


 その説明に、アマジオ・シルバーヘッドは大きく頷いた。


「うちの国の水は、軟水だからな。大陸は硬水だ。個人の嗜好だが、やはり使いやすいのは軟水の方だな。そういう提供となると、高級指向として輸入はできるだろう。長期保存出来るとなると、話題性もある。…コンテナ、というと、容量は?」


「我々の単位で、2立方m(メートル)。あなた方の単位では、約0.71立方F(ファー)となる」


 重量でいうと、2tの水だ。便利に持ち運び、というものではないが、硬質化させたセルロース製の密閉容器のため、見た目よりは軽いだろう。

 開封せずに冷暗所に保管すれば、5年は保つはずだ。


 原価は低いが、ブランド力は高い。

 水源のない場所に、長期保管可能な水を置くことができるというのも、ある程度の価値がある。


「しばらくは、上流階級向けに流通させるのがいいだろう。高貴な方々は珍しいものに目がないのでな」

「アマジオ殿、あなたも公爵ですが」

「アルバン、お前もだよ」


 はっはっは、と笑いが起こる。

 まあ、笑ったのは海軍トップの2人だけだが。


「後は、販売量は抑えさせてもらうが、工業原料として鋼板ロールなども提供可能だ。これもあなた方に直接卸すことになる。使い方は自由だ」


「…貴女がたが製造した鋼板、と?」


「肯定する。性能は保証しよう。これは、どちらかというと鉄鉱石との交換という意味合いが強い」


「つまり、こちらの鉄鉱石の輸出量が増えれば、相応にそちらの鉄鋼輸出量が増える、という理解でいいか?」


「そのように捉えてもらって問題ない。これは単純に、原料となる鉄の量の問題である。輸入した鉄鉱石の一部を精錬し、還元するということである」


 <パライゾ>としては、正直、資源輸入さえできればあとはどうでもいい。

 オーバーテクノロジーな製品を輸出することで、"ある"と知ったが故のブレイクスルーが発生しても、知ったことではない。

 なぜなら、それによって発生するブレイクスルーは、決して<パライゾ>の技術を超えるものではないからだ。


 とはいえ、それらを無償で提供する必要も、無制限に販売する意味も特にない。可能であれば、健全な取引を未来永劫続けたいのだ。

 そのため、<ザ・ツリー>の誇る超知性が厳密に計算した対等な取引を持ちかけるのだ。


「こちらは、今回はサンプル品は積んでいない。次回訪港時に提供しよう」


「ありがたい話だ。我々から早々に提供できそうなのは、ある程度の鉱石と、食料類か?」

「芸術品であれば、麦の国(ヴァイツェンラント)のものが良いだろう。我が国は実用性を重視する風潮がある」


「各艦に、大型の冷蔵設備が備えてある。野菜なども買取は可能だが?」


「そうか。冷やすことで、長時間の保管が可能であると」

「冷蔵器、か…。我が国でも導入できないものか」


◇◇◇◇


 こうして、レプイタリ王国と未知の勢力<パライゾ>の交易条約が締結された。

 その交易の屋台骨は、燃石と金属鉱石だ。

 その他、いくつか交易品が設定されたが、全体からすると微々たる量である。


 とはいえ、基本的に、<パライゾ>側から提供されるのは何らかの示唆を含んだ、有用なものがほとんどだ。

 レプイタリ王国はここから、さらなる発展の階段を登っていくことになるだろう。


 例え、その方向性が<パライゾ>に制御されたものだったとしても、だ。


「現地の戦略AIも、順調に育ってる感じねぇ」


はい(イエス)司令マム。そこまで期待はしていませんでしたが、現地調略用のAI基盤(バックボーン)として利用できそうです」

「いいわね。やっぱり距離があると、現地にAIを置いておかないと不安だものね」


 シナリオを書いたのは<リンゴ>だが、それを実行したのは現地戦略AIである。

 <ザ・ツリー>謹製の頭脳装置ブレイン・ユニットは、やはり基礎能力が高いのだろう。予想を超えて、順調にその能力を伸ばしていた。


「近々、戦略AIのバックアップを取得しましょう。<ザ・コア>の演算領域内で最適化し、テンプレート化します」

「ええ。次は貨物船を送り込むんでしょう? 機材も運び込むといいわ」


はい(イエス)司令マム。では、そのように」

ここで「第4章 海洋国家」は終了です。お付き合いいただきありがとうございました。

ここから、レプイタリ王国内でのアマジオ無双が始まるんですが、物語の主軸は連合王国へ戻ります。

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[良い点] 更新乙い [一言] あまじお無双 巨大シャケの尻尾もって振り回したりしよう
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